ショッピングセンター(SC)の開業時、「○○万人来場しました!」とSC事業者から誇らしげにリリースされるが「そこからどれほど収益を生んでいるのか」とやや批判的に見ている。
どんなに集客しようとその収入は出店したテナントの売上高/賃料に限られる。販促費という経費をかけ集客力を自慢するがそこから収益を生み出さない限り、SC収益は、人口減少社会においては衰退しか無く、どんなに多くの顧客が来場してもその収入をテナント料に依存している限り、結局、テナントの売上が上がらない限り収入は上がらない。今回、新型コロナウイルスを前にさらにその脆弱性が露呈したのである。
では、コロナ禍の今、海外からの集客も望めず、人口減少との2重苦の中、どのような方策が必要なのか。前号で指摘した来場者のLTV(顧客生涯価値)について解説したい。
2020年も減少したSC総数
2020年、SC総数は、2019年に続きさらに減少し3207カ所になった(図表1)。
コロナ禍によって開発延期も多く、恐らく2021年の開業数も減少も予想される。したがって残念ながら2018年がSC事業(産業)の歴史上のピークになるであろう。
この減少の理由は、「新規での増加―閉鎖等での減少」の差し引き合計がマイナスとなったことに起因する(図表2,3)。
SC事業の収入源
SCの収入源はテナントからの賃料収入である。テナントが賃貸区画(床)を賃借し、その使用及び収益の権利対価として賃料を支払う。新型コロナウイルスによる緊急事態宣言下、店舗休業を余儀なくされ「使用および収益」のうち、収益の権利行使が制限されたことによりテナント料の減免が行われた。そして、2回目の緊急事態宣言が発令され、飲食店の時短営業などからSCの売上は低下し、さらなる賃料低下が予想されている。まさに賃料だけを収入の柱とするSCビジネスが、非常事態において脆弱であることが明らかになったのである。このSCビジネスの脆弱性はかねてより指摘してきたことだが、この対処方法は、収入のマルチ化しか方法は無いのである。
手も足も出なかったSC運営管理業務
1回目の緊急事態宣言解除後も社会的な自粛圧力は続き、国民は外出を控え、仕事も在宅ワークが広がり都心の商業地は惨憺たる結果となった。加えて出張や旅行も大きく減少したことから鉄道や航空の利用客も減り、駅や空港における商業施設の営業成績も前年を大きく下回り、更なる緊急事態宣言はこの流れを加速する。
しかし、この環境下においてもSC運営管理業務に携わる営業担当者、フロア担当者、エリアマネージャーと呼ばれる人たちは「店舗巡回」「テナントコミュニケーション」を続け、店長や店員の嘆きや愚痴を聞き続けることしかできず、テナントリーシング担当者も、売上不振となったテナントの店舗開発担当との賃料減免交渉や退店テナントの引き留めに忙殺されている。
これは前述の通り、SC事業の収入が賃料に偏っているため、どうしてもこういった業務を行わざるを得ない。しかし、若く優秀なSC社員がこういったアナログ、かつ後ろ向きの業務に従事するのを見るにつけ、今、見直すべき時ではないかと思っていた矢先、その不安は的中し、コロナ禍において若手社員のSC業界からの退出が徐々に始まっている。
これまでの収入源の拡張手法
SC事業の利益連鎖は、顧客の買い物(飲食等)を起点にテナント(店舗)、SC運営、オーナー(所有者)とそれぞれが収益を享受する(図表4)。
テナントは販売利益、SC運営では運営利益、所有者は賃貸利益をそれぞれ収受する。そのため、SC事業者が賃料以外の収益を得るために始める新規ビジネスは、これまで(今でも)川下であるテナント業(店舗営業)にビジネスを広げることが多かった。
自らのブランド直営する場合もあれば、ブランドのFCとなって商品を仕入れ店舗運営するなどいくつかの方法を取ってきた。
しかし、残念ながら私の知り得る限り、この店舗事業を成功させている企業(SC事業者)を知らない。むしろうまくいかず撤退した例は枚挙にいとまがない。この理由については、今回は割愛するが、いずれにしてもSC事業のバリューチェーンの中にテナント業(店舗運営)を組み込むことはそう簡単では無く、できれば避けたいと分野と思っている。
逸失利益の存在と多くのことを可能にするテクノロジー
前号でも指摘したようにSC事業では、どんなに来場者を増やしても賃料だけのリターンでは限界がある。では、どうしたら良いか。それはこれまでテナントに着目し、その売上を上げ、そこから歩合賃料として収受してきたビジネスからBtoCへ業態を広げることである。SC事業は、SCという装置を作り、
だからテナントの売上を上げることに躍起になるわけだが、実際、SCへ来場されるお客さまは生まれてから亡くなるまで多くの消費支出、もしくは貯蓄・投資など生涯価値を持つ。したがって、SCが考えなければならないのは、この来場者がSCへ来ても来なくても収益を上げる仕組みを作ることである。
この来場者の支出する生涯価値とは一体どのようなものであろうか。それは自らの生活を顧みれば自ずと分かることである。
今、あらゆるビジネスは、月額利用料、会員制、サブスク、クラウドファンディング、決済システム、マッチングなどあらゆるビジネスに入り込み、マネタイズすることが当然となっている。
では、今のSCはどうか。接客力などというアナログに傾注するのも良いが、このコロナ禍の今こそ、新たな収益源を見つけるチャンスではないだろうか。
自らの運営するSCにおいて図表5に示す「逸失利益」には何があるのか、まずは列挙することから始めることだろう。
今や個人でさえ、人生のリスクヘッジをするため複数の収益源を得ようと副業を始めている。SCもその時代に突入したのである。
西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役
東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員、渋谷109鹿児島など新規開発を担当。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒、1961年生まれ。