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“顧客体験の最大化”をめざす丸亀製麺 顧客の生の声から見えてきた意外な問題点とその解決策とは

外食チェーンの中でも、うどん専門チェーンとして急速な拡大を遂げてきた丸亀製麺(兵庫県/山口寛社長)。その成長を支えてきたのは創業当時から一貫して掲げてきた、食を通じて“体験”を提供するという企業理念だ。丸亀製麺がさらに加速させる良質な顧客体験の追求とその具体的な取り組みについて、マーケティング統括部CX推進部部長の神谷亮介氏に話を聞いた。

顧客体験を最大化する

 丸亀製麺は、トリドールホールディングス(東京都/粟田貴也社長)傘下の讃岐うどんのセルフサービス業態。2000年11月、兵庫県加古川市に1号店をオープン、その後店舗網を全国に拡大し、20年9月末時点で国内856店舗を展開している。急速な成長を遂げる丸亀製麺に、CX(カスタマーエクスペリエンス)推進部が誕生したのは2020年4月。「顧客体験を最大化し、ブランドイメージを強化すること」(神谷氏)を目的に、18年の末から構想を練ってきた。

 CX推進部が具体的に解決するのは以下のような課題だ。丸亀製麺は創業以来、“手づくり・できたて”のうどんを味わってもらうという顧客体験にこだわってきた。讃岐うどんの本場に倣ったセルフサービスも、オペレーションを効率的にするだけでなく、お客の目の前でうどんを茹でて、できたてを提供するという体験重視の考えによるものだ。

 しかし、「セルフサービスゆえにお客さまが戸惑いや不安を感じていることがしばしばある。我々が考えているよりも、丸亀製麺のシステムはまだまだ浸透していない」(神谷氏)という。店舗数も増え、テレビCMの放映も行うことで丸亀製麺自体の認知は進んできたものの、認知されればされるほど「知ってはいるが行ったことがない」というお客が増える。「フルサービスの接客に慣れたお客さまが戸惑わず、店舗での体験に満足してもらうことがブランドイメージ向上のカギ」と神谷氏は語る。

地道な調査でわかった改善点

 どんな時にお客が戸惑いや不安を感じるのかを詳しく分析するには、生の声を集めることが必要不可欠だ。「実際に店頭でお客さまの様子を観察し、迷ったり不慣れな様子のお客さまがいたら直接話を聞いた」(神谷氏)。こういった地道な調査の結果見えてきた、セルフサービスによるネガティブな体験の典型的な例は次の通りだ。

 来店客が一列に並んでうどんの注文、天ぷらなどの選択、会計を順番にこなしていく丸亀製麺のシステムは慣れているお客には便利だが、そうでないお客は「流れに乗らないといけない、後ろの人を待たせてはいけないというプレッシャーを感じやすい」(神谷氏)。初めて店舗を訪れ、他のお客と同じようにとりあえず列に並んでみたものの、どんどん近づいてくる注文口に焦り、じっくりメニューを選ぶ余裕もなくとにかく目についたものを頼んでしまうというパターンに陥る人は少なくないという。

 また、新たに導入したサービスが歪みをもたらすこともある。丸亀製麺では、コロナ禍でテイクアウトを本格的に導入したが、これが思いもよらぬところで不満を生んでいた。現状のシステムでは、イートイン(店内喫食)とテイクアウトのお客は同じ列に並ぶ。並んでいるお客は前に並ぶ人数を見て無意識に「待ってもあと2、3分だな」などと予想するが、テイクアウトのお客の場合まとめて数人分を購入することが多いため、イートインのお客よりも注文や会計に時間を要すことが多い。そのため、「お持ち帰りのお客さまが並ばれていた場合、イートインのお客さまが『思っていたよりも待たされた』という感覚になり、不満に変わってしまう」(神谷氏)。

 丁寧に聞き取らなければ見えてこなかったこれらのネガティブな経験は、「(丸亀製麺は)分かりづらい」「待たされる店」というブランドそのものへのマイナスイメージに直結する。

丸亀製麺マーケティング統括部CX推進部部長 神谷亮介氏

“声かけ”やアプリ改善などの施策を実施

 抽出したこれらの問題点を解決するため、CX推進部が提案し営業部と共に実施した施策が、ホールスタッフというポジションの新規導入と、同スタッフによる声かけやサポートの強化だ。戸惑っているお客、慣れていなさそうなお客には積極的に声をかけ、注文システムの説明や疑問の解決をすることで安心感を持ってもらうことがねらいだ。

 また、注文口でテイクアウトのお客であることがわかった場合、キッチンスタッフがホールスタッフを呼び、袋詰めなどをサポートすることで時間を短縮する。とくにテイクアウトのサポートは、後ろに並ぶお客にも「何かやっているな、注文が多そうだな」という雰囲気が伝わり、物理的な時間の短縮効果以上に「予想よりも待たされた」という感覚を軽減する効果が大きいという。このサービスはテイクアウト導入の1〜2カ月後に開始し、感触を確かめながら半年ほどかけて全店舗に拡大した。

 デジタルを通じた顧客体験の改善もCX推進部が担当する。とくにアプリについては現在、顧客体験を最大化するという考えの元に根本から設計を見直しているところだ。「セルフサービスでは、お盆(トレー)や荷物を持ちながらさらにアプリを出すという動作のハードルが高い。それでも『使った方が便利でお得』なアプリにする必要がある。お客さまのベネフィットを考えず機能を追加するだけでは結局使われない」(神谷氏)。具体的には、パーソナライズされたおすすめ商品の提案やクーポンの提供など、顧客一人ひとりとのコミュニケーションツールとしての立ち位置を探っているところだという。

顧客視点でゼロからサービスを考える

 CX推進部の進める顧客体験改善に共通するのは、「サービスが先にあるのではなく、お客さまが丸亀製麺ブランドを感じるベストな体験をするためにはどういうサービスが必要か、という視点」(神谷氏)だ。「闇雲に実績や根拠のないサービスを取り入れたのでは本当の顧客体験の改善にはつながらないし、店舗の理解も得られない」(神谷氏)からだという。

 「将来的にめざすのは、丸亀製麺のシステムが、うどん屋の完成されたスタンダードなシステムとして認知されること。他社が追従せざるを得ないレベルにまでブラッシュアップできれば、丸亀製麺の真似のできない手づくり・できたてのおいしさがより一層引き立つ。そういう世界を作っていきたい」と意欲的に神谷氏は語った。