まだ食べられるにも関わらず捨てられる食品、「フードロス」。その量は年間612万t*1で、これは世界の年間食糧援助量390万tの約1.6倍に相当する*2ともいわれている。最近、フードロス削減を意識した商品の販売や、余った食品を無駄にしないための取り組みを始める企業が増えてきた。ここでは、大手小売各社が取り組むフードロス削減施策の例を紹介する。
*1農林水産省:食品ロス量(平成29年度推計値)の公表について
*2消費者庁:食品ロスについて知る・学ぶ
買い得感とプレミアム感を両立する
成城石井のフードロス削減
高品質な商品の品揃えに定評のあるスーパーマーケット(SM)、成城石井(神奈川県/原昭彦社長)では、店舗限定ではあるものの、製造過程で基準を満たさなかった商品の割安販売を行っている。基準を満たさないとはいっても、製造の過程で表面に皺ができてしまっただけのプリン、形や色にムラのあるウィンナーやパンなど、家庭で消費する分には何ら問題のない食品ばかりだ。値下げ幅はウィンナーを例に挙げると、通常180g/税込431円の品が1kg入り1袋で1490円になるなどお得感が強い。
ほかには、余ってしまった自社製造の食パンの耳を、プレミアムチーズケーキを手掛けたシェフが工夫を重ねて商品化した「パン職人のこだわり湯種食パンラスク」(税抜299円)を販売する試みもしている。買い得感と同時にプレミアム感を演出するのが成城石井流のフードロス対策だ。
捨てる部位を有効活用、ヤオコーの「ドライパイン」
埼玉県を中心に一都六県にSMを展開するヤオコー(埼玉県/川野澄人社長)もフードロス削減に乗り出している。ヤオコーが自社センターで製造する「低温減圧製法でしっとり食感に仕上げた無添加のドライパイン」は、カットフルーツを製造する際に出た切れ端を使った商品。これまでは捨てるほかなかった部位をうまく商品化している。
またヤオコーは19年4月から、米を除く常温加工食品の納品期限を3分の1から2分の1にする取り組みを開始、20年4月には対象を菓子類にも拡大している。これまで業界の慣例になっていた、賞味期間の3分の1以内で小売店舗に納品する「3分の1ルール」を緩和したもので、まだ賞味期間が長く残っているにも関わらず納品できなくなり、結果廃棄となってしまう食品を減らすための施策だ。
量り売りを導入した無印良品
無駄のない量だけを販売するフードロス対策を始めたのが「無印良品」で知られる良品計画(東京都/松﨑曉社長)だ。20年12月にオープンした「無印良品 東京有明」(東京都江東区)では、87種類の食材を量り売りで提供している。
食べる量、使う量は状況や個人によって異なるため、必要な量だけを購入できる量り売りがフードロス削減につながる考え。コーヒー豆や米、パスタなどを20g以上から、1g単位で購入できる。
同店はほかに、江東区の行う「フードドライブ」にも協力している。家庭で消費しきれず余っているレトルト食品や缶詰、乾物、飲料などを店頭にボックスを設置し回収、区やフードバンク団体を通じて福祉団体や施設に寄付する取り組み。“不要なものも、誰かの必要なものへ”というキャッチフレーズの通り、不要品や余剰品を需要に合わせて再配分することで、社会全体としてのロスを減らしていきたい考えだ。
フードロス削減のためには、販売する側・購入する側双方の意識改革が必要だといわれている。多くの大手小売チェーンがフードロス削減を掲げることで、消費者の意識を変化させていく効果を期待したい。