ホームセンターの島忠(埼玉県)をめぐる争奪戦を、“後出しジャンケン”ながらDCMホールディングス(東京都:以下、DCM)に競り勝ったのは、ニトリホールディングス(東京都:以下、ニトリ)だった。ニトリは島忠の取得で、2032年に売上高3兆円という壮大な構想の推進にはずみをつける。21年以降、ニトリは流通業界の“台風の目”になりそうだ。
ニトリは衣料品専門店を展開するねらい
ニトリには、家具・インテリア専門店ではない、密かに拡大中の業態がある。カジュアル衣料の専門店である「N+(エヌプラス)」だ。
現在のエヌプラスの店舗数は、2020年内にオープン予定の店を含め13店舗。まだ実験の域にとどまっているとしているが、ニトリが掲げる「3兆円構想」のパーツの1つになるとみられている。
なぜ、ニトリがカジュアル衣料なのか。ニトリのビジネスモデルである製造小売業(SPA)という手法を使えば、婦人服も、家具インテリア専門店と同じように成功できると踏んでいるのだろうか。
ニトリの似鳥昭雄会長は北海道新聞のインタビューで、エヌプラスについて「30~60歳くらいの女性向けにコーディネイトができるブランドをめざしている」とコメント。似鳥会長は、30~60代の消費者が気軽にコーディネイトできる大衆価格のアパレルを扱う店がないとしており、こうした空白に市場に参入し、さらに家具インテリアを合わせて購入してもらうねらいもあるのではないかとみられる。ホームファニシングの「ニトリ」とアパレル専門店を複合的に出店し、ライフスタイルに合わせた商品を集中的に提案していくという展開も考えられる。
「3兆円」までの道のり
家具・インテリアを越えてアパレルまで取り扱いを増やしたニトリが今後、さらなる新カテゴリーに挑戦するかどうは定かではない。ただ、2032年に売上高3兆円の達成をめざすニトリからすれば、家具・インテリアだけでは足りないと判断しているのは確かだろう。
家具・インテリアの国内市場は約1兆円程度と言われている。21年2月期に売上高7026億円を見込むニトリは、すでに同市場の圧倒的トップに君臨している。国内はニトリによる寡占状態といってよく、このまま家具・インテリア専門店を増やしても国内での伸びしろは限定される。
もちろん、現在進出している米国や中国で大成功を収めれば、3兆円もそれほど高いハードルではない。だが、国内市場を考えると、どうしてもパーツが足りないのだ。
アパレルでは、「ユニクロ」がSPAで業界を席巻している。ニトリも同じSPAモデルによる低価格のアパレル製品ならば勝算はあると判断したのだろう。
島忠買収は“お値段以上”か
ニトリは周知の通り、島忠の争奪戦でDCMとの間に割って入り、DCMよりも高いTOB(株式公開買付)価格を提示し、勝利を勝ち取った。“後出しジャンケン”と言われようが、“強引”というイメージが付こうが、是が非でもニトリは島忠を獲得したかったのだろう。
ニトリにとって島忠は“お値段以上”の買い物だ。島忠は肥沃な首都圏に店舗網を持っている上、ニトリからみれば品揃えの幅が広げられるというメリットがある。巨額の投資になるが、成長のための時間と人材も買えることを考えると、よい買い物と言っていい。
今回の島忠へのTOB、そして、アパレル専門店を拡大していることを踏まえると、今後のニトリは、家具・インテリア以外のラインを増やしていく公算が強い。果たしてニトリは強みとするSPAモデルを応用し、家具・インテリアにとどまらない、幅広いカテゴリーで成功を収めることができるのか。2021年もニトリの挑戦に期待したい。