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ライフスタイルは大きく変化、小売業もDXを進めなければ将来はない=リテール&ITリーダーシップフォーラム2020

日本小売業協会(東京都/野本弘文会長)は2020年11月17日、「リテール&ITリーダーシップフォーラム2020」を開催した。小売業やIT関連企業の講師、また学識者も加わり、海外におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の動向や日本での取り組み、成功事例などを紹介。デジタル技術を通じた業務やビジネスモデルの変革について必要性を訴えた。

大きな波への対応迫られている

今回、いずれのプログラムも興味深い内容で、参加者は熱心に耳を傾けていた。経営環境が激変する時代にあり、小売業にとり有意義なフォーラムとなった。

 「リテール&ITリーダーシップフォーラム2020」の会場は帝国ホテル東京の本館2階「孔雀 西の間」。リアルでの参加者は定員枠いっぱいの175名、さらに今回はWEBでの受講者も700名超に上った。近年、話題になることが多いDXだが、あらためて関心の高さをうかがい知れた。

 日本小売業協会では、研究分野の取り組みとして2013年12月、大手小売業、I T ベンダー、団体をメンバーとする「CIO研究会」を立ち上げている。これまで流通業の企業経営に資するIT戦略やDXのあり方についてなどを主要なテーマとし活動してきた。

 06年からはCIO研究会が企画した「リテール&ITリーダーシップフォーラム」を隔年で開き、先進的なITを活用した新たな経営戦略構想と小売サービスを提案している。

 開会に先立ち、あいさつした日本小売業協会の野本会長は、「ウィズコロナ、アフターコロナを見据えるなか、人々のライフ・ワークスタイルは大きく変化し、小売業にも大きな影響を与えている。われわれはこの大きな波にDXで対応することが迫られている」と問題提起した。

 続いて壇上に立った、野村総合研究所主席研究員で日本小売業協会 CIO研究会 コーディネーターの藤野直明氏は、「日本のDXへの取り組みは世界的に見て後れを取っている」と指摘した後、次のように述べ、DXに対し行動すべきであると説いた。

 「最近、米国のビジネススクールの教壇に立つ、ITやオペレーションマネジメントの研究者と交流する機会があった。彼らが今、学生や経営トップに向け、力を入れて講義しているテーマは『DX or DIE』。つまり『DXを進めなければ将来はない』ということだ。今回のフォーラムをきっかけに、明日から自社でどう行動するかを考えてほしい」。

 さて、8回目となる今年のフォーラムは2部構成で、第1部のテーマは「小売・流通業の成功例を踏まえたDX戦略」。

第1部「講演1」の日本マイクロソフト執行役員 榊原彰氏

 「講演1」は、日本マイクロソフト執行役員 最高技術責任者 兼 マイクロソフト ディベロップメント社長の榊原彰氏による「Enabling Intelligent Retail~ 小売業のデジタルトランスフォーメーションに向けたマイクロソフトの取り組み~」。

 「講演1」において、日本マイクロソフトの榊原氏は、最初に「31%」「400PB」という数値をスライドで示した。31%は、全世界のGDPの合計に占める小売業の比率、さらに400PB(ペタバイト)は、小売業から生じる1時間当たりのデータ量を意味している。これを踏まえ「世界的に見ると、小売業はすでに情報産業になっている」と現状を指摘した。

 この中で今後、小売業を発展させるために必要な要素を提示。具体的には①顧客を理解し、つながりを強化する②従業員の能力を強化する③サプライチェーンを高度化する④小売業ビジネスを再創造する──の4つを挙げた。

 DXに取り組む海外企業の成功事例も紹介。1つとして挙げたのは、アメリカで薬局チェーンを展開するウォルグリーンである。同社では、200万SKUの商品の取り扱いがあり、1日当たりの利用者は700万人にも上る。ここから生み出されるビッグデータを解析し、顧客の嗜好を把握するほか、効率的な在庫量も実現した。

 その結果、職場環境が改善、さらに従業員の能力も向上したことによって、Conversion Rate(顧客転換率)を15%、また顧客満足度も10%上げることに成功したというケースを写真やグラフを交えながら解説した。

 「講演2」は、デロイト トーマツ コンサルティング執行役員の森正弥氏による「アフターコロナにおける顧客理解と販売のDX」。

 森氏は、まず「コロナ禍により自社がどのような影響を受けているかを把握することが大切」と述べた。その上で、消費者やマーケットの動きを見るに当たっては、①ニーズの変容②需要の急激な増減③デジタルシフトの3つが重要なキーワードになると語った。そのうえで、「HX(人間体験)」という概念を持ち込むことは、DX実現のために有効であると力説した。

レガシーシステムは大きな損失につながる

 続くプログラムは「パネルディスカッション1」。パネリストは、丸井グループ副社長で日本小売業協会CIO研究会で座長を務める佐藤元彦氏、カスミ社長の山本慎一郎氏、トライアルホールディングス取締役副会長CIOの西川晋二氏。

 野村総合研究所の藤野氏がコーディネーターを務めた。ここでは①DXについて各企業がどのようにとらえ、今何をしているのか②現在の課題認識③課題の解決の方向性──という3つのテーマについて、パネリストが自社の活動を報告した。

 その中で丸井グループ副社長の佐藤氏は、旧態依然とした「レガシーシステム」を使い続けることは大きな損失につながると指摘。これまでの古いシステムを刷新する「攻めのIT経営」に取り組み、生産性向上やコスト低減をめざしている活動を紹介した。

 「講演3」は、パナソニック コネクティッドソリューションズ社 現場プロセス本部エグゼクティブインダストリースペシャリストの大島誠氏による「棚起点からの『自律型流通サプライチェーン』を目指して」。

 また「講演4」は、ファンケル社長執行役員CEOの島田和幸氏による「コロナ禍を越えて ALL-FANCL, ONE-FANCLNEXT FANCL」。

業界全体での取り組みが必要

 第2部のテーマは「小売業CEO、CIOが考えるべきDXの基本戦略
 ~2030年ビジョン~」。

 「講演5」は、経済産業省 商務・サービスグループ 消費・流通政策課長の伊藤政道氏による「With/After コロナにおける小売業の未来とDX」。「講演6」は、流通経済研究所専務理事の加藤弘貴氏による「日本の流通協働化の課題とDX ~製・配・販連携協議会の活動経験から」。

 「講演7」は、ヤマトグループ総合研究所理事長の木川眞氏による「コロナ禍で加速する新たな物流の潮流について ~フィジカル・インターネット~」。

 ヤマトグループ総合研究所理事長の木川氏は、物流事業者の視点からDXへのアプローチを論じた。近年、①労働者不足②多頻度小口化が、日本の物流に起きている問題とし、さらに現在はコロナ禍、また多発する自然災害で大きなダメージを受けていると説明した。これに対し、物流を通じて持続可能な社会を実現する革新的なシステムとして、「フィジカル・インターネット」という概念を紹介した。

 フィジカル・インターネットとは、「インターネットのパケット通信の仕組みを物流に適用し、モノの輸送、仕分け、保管を変革するコンセプト」を指す。

 ただ今後、日本でもこの考え方で課題を解決するには、単独企業による自前主義を脱し、業界全体での取り組みによる対応が必要だと強調した。最後のプログラムは「パネルディスカッション2」。

 第2部で登壇した講師のほか、学習院大学経済学部教授の河合亜矢子氏ら、学識者も加わり「外部からみた日本の小売業のD X戦略」について論じた。

 ①日本の小売業のパフォーマンス、課題②日本の小売業の成長戦略とDX③実際に、いかにイノベーションを実現するか──、の3つの論点についてディスカッションした。

 この中で学習院大学教授の河合氏は、「小売業のDXによるイノベーション ─高い潜在能力─」をテーマに、日本の小売業がDXを実現するうえで必要な条件、要素について、学術的な視点も交えながら持論を紹介した。