セブン&アイ・ホールディングス(東京都:以下、セブン&アイ)は2020年8月、米国の石油精製会社マラソンペトロリアムのコンビニエンスストア併設型ガソリンスタンド部門「スピードウェイ(Speedway)」を買収すると発表した。突然の、210億ドル(2兆2000億円)にも及ぶ巨額買収の発表は、業界関係者の度肝を抜いた。セブン&アイは米コンビニチェーンのどこに2兆円を超える価値を見出したのだろうか。
群雄割拠の米コンビニ市場に商機あり?
セブン&アイの井阪社長がかねてこだわっていたことがある。それは、「米国内ではコンビニチェーンの寡占化が進んでいない」という点だ。
日本のコンビニ市場はセブン-イレブン・ジャパン(東京都)、ファミリーマート(同)、ローソン(同)の3社で市場シェアの9割を占める“超”寡占化状態となっている。
一方の米コンビニ市場は、セブン&アイの米子会社7-Eleven,Inc.(セブン-イレブン・インク)がトップシェアを握っているものの、スピードウェイを取得してもそのシェアは10%以下と、いまだ多く中小チェーンがひしめく市場が広がる。井阪社長もそこに魅力を感じたのだろう。
ただ、懸念点もある。スピードウェイの店舗は大半がガソリンスタンド併設型で、給油するために訪れたお客が商品を“ついで買い”することが多い。このため巷間は「時代はガソリン車から変わり、電気自動車の時代がすぐそこのところまで来ている。米国においてガソリンスタンドを併設したコンビニ店舗に将来性はあるのか」(あるコンビニ関係者)と先行きを不安視する声もある。
加えて、米国のコンビニ店舗は、従前からあまり評判がよくない。商品の魅力が乏しく、強盗をはじめ犯罪も少なくない。そうした状況をセブン&アイ米子会社をはじめとしたコンビニ企業が再構築している段階にある。
「コンビニのラストワンマイル化」
「電気自動車時代」が到来したときに、ガソリン売上高が全体の5割を占めるセブン&アイの米コンビニ事業が継続的に成長できるかどうかという懸念は生まれて当然だ。そうした声に対し、井阪社長はことあるごとに、「コンビニのラストワンマイル拠点化」を強調している。
国土が広大な米国は、日本のようにコンビニ店舗がひしめき合っているという状態ではない。だが、逆に言えば、全米に店舗網を張り巡らしているのは、コンビニと外食チェーンくらいしかない。そこで焦点となるのが「コンビニのラストワンマイル拠点化」というわけだ。井阪社長も“インフラ”としてのコンビニ店舗価値を見出したのではないだろうか。
日本ではコンビニ店舗数が多すぎるうえ、宅配網も張り巡らされている。今のところ、コンビニがラストワンマイル機能を果たすという意見には否定的な見方が多い。しかし、コンビニの密度がそれほど高くない米国では、話はまるで違ってくるというわけだ。
米EC市場は年々拡大しており、売上高60兆円と巨大市場となっている。にもかかわらず、物流は日本ほど充実しているわけではないと言われている。この先、消費者の自宅に商品を届ける、あるいは商品を保管するといった機能を誰かが担う必要が出てくるだろう。セブン&アイとしては、コンビニ店舗網をラストワンマイルの拠点とすることに商機を見出、2兆円という買収額も高くないとの判断だろうか。
“三の矢”の買収はあるか?
セブン&アイには、テキサス州で事業を展開する米コンビニチェーン、スノコLP(SunocoLP)の買収で成功を収めた経緯がある。そこで、“二の矢”のスピードウェイ買収である。恐らく米国では、“三の矢”となる買収案件を物色しているとみられている。
日本ではコンビニ飽和論が囁かれて久しい。しかし米国では、物販だけではなく、前述のようにインフラ的な機能を持たせたコンビニを展開していけば、新たな需要を掘り起こすことは十分に可能であるはずだ。