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ムダを徹底的に省くことで低価格を実現する愛知の隠れた有力スーパー、カネスエ強さの秘密を徹底分析

ディスカウント特集

東海エリアで食品スーパー(SM)を運営するカネスエ(愛知県/牛田彰代表取締役)。同社は有力企業がしのぎを削る東海エリアで、圧倒的な低価格を武器に消費者の支持を得ている。カネスエはどのようにして低価格を実現しているのか。最新店舗を中心に、同社の戦略を探ってみた。(調査日:2020年10月18、19日)

カネスエ企業概要

本社所在地 愛知県一宮市大和町氏永字仲林140-1
設立 1951年
代表者 牛田彰代表取締役
店舗数 72店舗(カネスエ33店舗、Felna35店舗、旬楽膳4店舗)

生鮮はPC加工で店内作業を極力削減

カネスエ阿久比店

 カネスエは、愛知県一宮市に本拠を置き、愛知県のほか岐阜県、三重県に店舗を展開するSM企業だ。標準的な大型SM「カネスエ」33店舗、「近くにある利便性」「買いやすさ」を追求した小型S M「Felna」35店舗、素材や製法にこだわる高品質商品を扱うナチュラルフードストア「旬楽膳」4店舗を運営している。とくに大型SMの「カネスエ」は、商品を「お値打ち価格」で提供する価格訴求型の店舗で、地域住民の支持を獲得している。

阿久比店売場レイアウト

 まずは2020年9月24日にオープンした最新店舗「カネスエ阿久比(あぐい)店」(愛知県知多郡:以下、阿久比店)から、カネスエの戦略について探っていく。同店は、名古屋鉄道河和線「巽ケ丘」駅から徒歩約5分の場所に立地する。地域住民に尋ねたところ、もともとは駐車場だった場所とのことだ。周辺には「セブン-イレブン」があるくらいで、SMの競合店がないルーラルな地域への出店である。

 阿久比店の売場はワンウェイ方式で、壁面は入口から青果・鮮魚・精肉・日配・総菜とオーソドックスな配置だ。棚割は前列に酒類や日用品、菓子、米、パンを、後方には調味料や即席麺、飲料、アイスクリーム、冷凍食品、チルド飲料などを配置し、通路幅を広く取り回遊性のあるレイアウトである。売場スペース構成比では、通常のSMが生鮮・日配で50~55%を占めるのに対し、カネスエは43%と低い。

スペース構成比

 カネスエの取り組みで注目したいのは、店内作業を可能な限り簡素化している点だ。青果、精肉、鮮魚といった生鮮食品はプロセスセンター(PC)で製造し、店舗では商品補充のみ行う。総菜は出来立てを訴求できる揚げ物は店内で製造しているものの、弁当や寿司などほかの商品はPCから供給されている。開店直後の8時には生鮮、加工食品、日配などがすべて補充されており、品出しの作業をする従業員はほとんど見かけなかった。一方、日曜日は客数が多いため、精肉や日配、野菜などは午前中のうちに補充作業に取り掛かっていた。夕方頃になると、棚の商品は少なくなり売り切れ商品があるが補充はしない。その日に仕入れた商品は、その日のうちに売る切る姿勢である。

会員には常に3%値引きを提供

 カネスエがお客の支持を得ている理由の1つが「カネスエファンクラブ」だ。入会金200円を支払うと入会でき、個人情報の登録は不要で、郵便番号のみを登録するシステムとなっている。会員になると、一部商品を除き、「本体価格×3/103(3%相当額)」が値引きされた金額で購入することができる。これは現金支払いの場合にのみ適用されるが、毎日3%相当額が値引きされるのは顧客にとって大きな魅力だ。同様のプログラムは首都圏でディスカウント型SMを展開するオーケー(神奈川県/二宮涼太郎社長)も提供している。

 チラシは店内配布のみで、約10日間のサイクルで発行している。テーマを持たせた販促が特徴だ。10月24日~11月3日号では、ハロウィンをテーマに、野菜では「北海道産かぼちゃ」(100g当たり25円:以下、本体価格)や、「オランダ産パプリカ」(1個97円)を、そのほかネスレ「キットカットミニ」(1袋197円)、カネスエ「オリジナルピザ」(各種500円)などを掲載。また、鍋をテーマに「長野県産えのき茸」(1個77円)、「白菜」(2分の1カット27円)、「カナダ産プレミアムポークロースしゃぶしゃぶ(大パック)」(100g当たり87円)などを特売で提供していた。

鮮度管理にこだわったPC加工の刺身を展開

PC加工の刺身は鮮度が保たれており、ツマを入れないなど徹底したコスト削減に取り組んでいる

 阿久比店の各売場を見ていこう。青果売場では、壁面にはチラシ掲載の「北海道産かぼちゃ」(100g当たり25円)をはじめ、「えのき茸」(77円)、「ほうれん草」(97円)、「白菜」(4分の1カット77円)、「レタス」(1個77円)、「もやし」(200g17円)、「キャベツ」(1玉97円)など2ケタ売価を中心に売れ筋の価格訴求商品を販売している。その対面には生花に加え、みかんやバナナ、柿、ブドウなどの国産・輸入果実を配置するほか、野菜ではピーマンやしめじ、にんじん、じゃがいも、タマネギなどを展開。目玉商品には「満足良品」と記載したPOPを添えている。

 続く鮮魚売場では、刺身用のサクでまぐろや真鯛、ぶり、サーモンなどを展開するほか、「刺身盛合せ4点盛(つま無し)」(597円)などの盛り合わせも販売。筆者も購入し食べてみたが、PC加工といえど鮮度感のある味わいだった。鮮度管理に適した容器を選択しているほか、ツマがないなどコスト削減の徹底ぶりを感じる。切身は、「ぶり」(100g当たり77円)や「宮城県産 生するめいか」(100g当たり97円)など、売れ筋商品を中心に構成。PC加工だが鮮度管理もよく商品づくりも丁寧である。カネスエにはこういった鮮度管理のノウハウが蓄積されているため、PC加工での提供が可能となっているようだ。

 精肉売場も低価格の売れ筋商品を中心に構成されている。鶏肉では「国産若鶏手羽先」(100g当たり57円)、牛肉では国産の「牛こま切れ」(100g当たり237円)や、アメリカ産「牛バラ切り落とし牛丼用」(100g当たり125円)などを展開。豚肉では自社オリジナルの「末次郎ポーク」が支持されており、「ロースしゃぶしゃぶ」(100g当たり167円)、「小間切れ(大)」(100g当たり97円)など低価格で品質の高い商品を取り扱っている。

PC加工の寿司は10貫で297円

寿司はPC加工で、「パクパクにぎり寿司」は297円という激安価格で販売している

 総菜売場は、大半の商品がPC加工もしくは外注で構成されている。弁当は価格訴求を強く打ち出しており、297円の商品を10SKU、197円の商品を2SKU展開していた。

 寿司はPC加工の商品を展開。なかでもいなりの販売を強化しており、POPには「当店自慢のいなり寿司です 店の人気ナンバーワン」と記載していた。5個137円、8個189円の低価格でいなりを販売するほか、寿司も価格訴求品が多く、「パクパクにぎり寿司」(10貫297円)や「まぐろたたき細巻」(297円)など多様な商品を展開していた。

 おにぎりは「約3秒に1個売れます」とその人気ぶりをパネルでアピールしており、49円、67円の2種類のプライスラインで販売するほか、手巻きおにぎりを97円で展開。おにぎりはパネルのフレーズどおり、次々とお客が購入していった。唯一店内加工している揚げ物は「名物キャベツメンチかつ」(2個197円)や「豚ロースとんかつ」(1枚197円)など35SKUで展開し、出来立てを訴求していた。

カネスエの総菜売場では、鮭やツナマヨなどのおにぎり4SKUを49円という圧倒的な低価格で販売している

 日配品や加工食品は、ナショナルブランドのほか、オリジナル商品と地場商品も積極的に導入している。和日配では、「白玉うどん200g1玉」(18円)など、低価格の商品を多く品揃えするほか、カネスエのプライベートブランド(PB)も多く、「もめんとうふ320g」(27円)や、納豆の「極小粒3P」(49円)などを販売。納豆ではたれやからしを省くなど、細かい部分でも商品原価を削減し、低価格を実現しようとする姿勢を感じる。そのほか、カネスエオリジナルの「マルゲリータ」「クアトロチーズ」「クラシックぺパロニ」の3種類の30cmサイズのピザを500円で提供する。

 加工食品では、岐阜県を本拠とする内堀醸造の酢や、名古屋市の調味料メーカーであるイチビキの醤油など、地域商品を売場各所に差し込んでいる。菓子では、ユニークな絵柄のPBの柿の種が目を引く。酒類は売れ筋商品に絞り、CGCのスペイン産ワイン「プリンス デ バオ(赤・白)750ml」(299円)などを展開していた。

ユニークな絵柄でお客の目を引くカネスエPBの柿の種

カネスエ阿久比店概要

所在地 愛知県知多郡阿久比町白沢下カナクソ2-1
開店日 2020年9月24日
売場面積 約500坪(歩測)
営業時間 8:00~21:00
駐車台数 約220台

 

青果の価格はタチヤと同等以下

カネスエ砂美店

 ここからは、「カネスエ砂美(すなみ) 店」(愛知県名古屋市:以下、砂美店)を軸に、カネスエの競合対策を見ていく。同店は、名古屋臨海高速鉄道あおなみ線「荒子川公園」駅から約500mの場所にあり、周辺の競合店としては、すぐそばにバローホールディングス(岐阜県/田代正美会長兼社長)傘下のタチヤ(愛知県/坂本勝社長)が運営する「タチヤみなと店」がある。なお、駅のすぐそばには大型ショッピングセンター(SC)の「イオンモール名古屋みなと」があるが、同店は21年2月に閉店が決定している。

 砂美店はホームセンターの居抜き店舗で、売場面積約600坪(歩測)の大型店だ。冷凍食品売場は圧巻の広さで、店内の通路幅も広めに確保している。商品構成などは阿久比店とほぼ変わらない。

 ただし、生鮮食品の価格に関してはすぐそばのタチヤみなと店を意識しており、とくに青果ではそれが顕著に表れている。「えのき茸」(1個75円)、「ほうれん草」(147円)、「キュウリ」(3本137円)、「レタス」(97円)、「白菜」(2分の1カット127円)など、タチヤみなと店と同等かそれ以下の価格で販売していた。

タチヤみなと店

 タチヤみなと店は「西松屋」や「眼鏡市場」などで構成されるSCの1階に出店しており、売場面積約300坪(歩測)で生鮮食品を中心に圧倒的な低価格で販売する生鮮ディスカウントSMだ。「当日仕入れた商品は当日売り切る」が基本で、生鮮各部門に多くのスタッフを投入している。

 店頭ではリンゴやナシ、柿などを袋入りで販売。店内はSMというより市場のような雰囲気で、加工場と売場には仕切りがない。野菜は量感を持たせた陳列で、「えのき茸」(2個150円)、「ほうれん草」(150円)、「キュウリ」(4本200円)、「レタス」(1玉128円)、「白菜」(2分の1カット150円)などを販売していた。鮮魚は丸魚や寿司を、精肉は大容量商品を中心に展開。日配品や加工食品、菓子なども取り扱っているが、売れ筋商品に絞りこみ、価格訴求商品中心に構成している。

 カネスエもタチヤも価格訴求型の店舗だが、カネスエは合理性を追求しPCを活用する一方、タチヤは直接店舗が商品を仕入れて加工を行っており、まさに真逆の対応だ。両社とも首都圏や関西圏のSMには見られない独自のスタイルを追求している。

 イオンモール名古屋みなとの食品売場も砂美店を意識してか、「うどん1玉」(17円)、「豆腐300g」(32円)、「納豆3P」(45円)など価格訴求の商品が目立つ。野菜でも「えのき茸」(128円)、「キャベツ」(195円)、「レタス」(128円)など低価格商品を多く投入。カネスエの影響を受けているのは明らかである。

 カネスエの売場は無駄な装飾がなく、商品が整然と並んでいる印象だ。売場はゆったりとしており通路も広く開放感がある。エンドもメーン通路のみで催事場も少なく、極力作業量を減らしているようだ。レジ周りも保冷用の氷のみの提供で、チラシや会員の募集用紙が机に置いてあるだけである。商品についてもPCを活用したり、原材料の無駄を省いたりするなどの取り組みを価格に還元させている。「無駄なことはしない、させない」合理的な考えのもとに行われているローコスト運営が、カネスエの圧倒的な低価格戦略を根底で支えているのだろう。

カネスエ砂美店概要

所在地 愛知県名古屋市港区砂美町2
開店日 2017年5月10日
売場面積 約610坪(歩測)
営業時間 8:00~21:00
駐車台数

約170台

タチヤみなと店概要

所在地 愛知県名古屋市港区築盛町120
開店日 2007年6月7日
売場面積 約300坪(歩測)
営業時間 10:00~18:00(水曜日定休)
駐車台数 342台