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お客様を置いてけぼりにした小売店は消える コロナ禍で実店舗が生き残るための必須条件

新型コロナウイルスの拡大余波が消えない中、とくに対面営業を主としてきた店舗では厳しい状況が続いている。目先の売上確保だけでなく、長期的にコロナ禍に対応した店舗経営が必要とされる。そのためには、まず店舗を任された店長がコロナ禍における小売店の現状、未来がどうなるかを理解することが重要だ。店長に必須のビジョンやスキル、人材育成とは何か。これまで5万人の店長に店舗づくりを指導してきたDIC幹部育成コンサルティングの鳥越恒一氏の連載「最強のプロ店長養成講座」を開始する。第1回は「コロナ禍における店舗の戦い方」だ。

 

コロナ禍で苦境の対面型店舗。それでもお客様が訪れたくなる店舗をつくることが肝要だ(2020年 ロイター/Issei Kato)

  コロナの影響で消費の仕方に対するスタンスは大きく変わりました。飲食店では出前館やウーバーイーツ(Uber Eats)が、小売店ではアマゾン(Amazon.co.jp)等のECが支持されるようになりました。また今までカウンター越しに受付や手続きをしていた業態も、リモート接客やAIを活用した接客にシフトしてきました。

 三越伊勢丹ホールディングス(HD)ではECサイトに相当力を入れており、今後取扱商品を拡充すると公表しています。また接客においてもリモート接客によりお店に来なくても一流の接客が受けられるようになっています。

 他の業界を見ても、携帯電話キャリア各社などは店舗に行かずとも端末の購入や手続きができる仕組みを構築しています。KDDI(au)は店頭においても非対面、セルフサービスで機種変更の手続きが出来るようになりました。コロナが落ち着いてもこれまでのようにお店に行く機会は減り、対面接客をできるだけ避けるようになることは容易に想像できます。

デリバリーやECの進化でお店は不要に?

 これからは百貨店もスーパーマーケットもECサイトからの購入がますます増え、近い未来主流になることでしょう。飲食店でも大規模な退店、出店も宅配専門店にシフトする動きが目立ってきました。牛丼チェーン大手の吉野家HDは宅配専門店を全国に本格展開すると発表しています。

 宅配専門店にすると良い立地、客席のスペースなどが必要なく、出店費用は通常の2割程度で済みます。また接客に必要な人員を抱える必要も無いため運営コストも3割程度削減できる見通しです。こうなると今までのように、良い立地、立派な設備に大きな投資を行うことも無くなります。宅配専門「店」とはいいつつもお店の体裁はなくセントラルキッチンと化し、もはや製造工場、配送センターがお店に取って代わるようになるでしょう。

 顧客は感染のリスクは避けたい、わざわざ出向くのが面倒、待たされたくない、感じの悪い接客は絶対に受けたくないという心理が今まで以上に強く働いています。ECやデリバリーが主流になると、飲食店や小売店のようにわざわざ出向いて行かねければならない業態は必要性を失います。お店はどんどんECやデリバリーに侵食され、大幅に減るでしょう。

 さらにインターネットの普及により競合店は近隣だけでなく、インターネット上の多くの店舗になる為、競合の数が今までとは比べ物にならなくなります。お店は本当に生き残りが厳しくなります。

外部環境に左右されないお店とは?

魅力的で提案のある売場、親切なスタッフ、いつでも豊富な品ぞろえの店は今後も生き残っていく(JGalione / iStock)

 緊急事態宣言中においても繁盛しているお店、行列を作っているお店はたくさんありました。つまりこの環境が続いたとしても全てのお店が無くなるわけではありません。存続し繁栄を続けるお店も当然あります。外部環境の影響を受けない強いお店。それはどんなお店でしょう?

 例えば百貨店。来店客数減に歯止めが効かず、ECに力を入れたり、一部不動産化(賃料収入を収益源)していますが、それでも無くなりはしません。百貨店にはワクワクするような商品がたくさん揃っていたり、AIには出来ないようなホスピタリティあふれる接客で心地良くなったり、販売員の豊かな感性を活かした提案があったり、コロナのリスクを承知でも行きたいと思える百貨店であるならば今後も生き残っていくでしょう。

 スーパーマーケットもコンビニエンスストアも、ネットでも買えるけれど、魅力的で提案のある売り場、お買い物に困ったら感じよく相談に乗ってくれる親切なスタッフ、いつでも豊富な品ぞろえ、これらが揃っているお店は地域のお客様に愛され、今後も生き残っていくでしょう。

 一方、品物を並べているだけ、安いだけ、効率化を重視した無機質な接客応対をしているお店は支持されなくなりECやデリバリーに侵食され、いずれ無くなっていくでしょう。地域で無くてはならないお店、無いと困る、寂しいお店。そんなお店を目指すことが今求められています。

 現在多くの企業が厳しい経営状態に直面しています。そしてまずは存続のために固定費を圧縮し赤字になりづらいコンパクトなお店・企業を目指しています。また、この危機が去るまでしのげる資金の確保に奔走しています。

 そんな状態になるとつい置いてけぼりになるのが「お客様」と「従業員」です。効率化を求めすぎたお店はお客様の負担(お待ちいただく時間が増える、品出しが追いつかず買いたい商品が棚にない、高単価商品・高粗利商品を売ろうとするなど)を増やします。

 また、厳しい人件費コントロールで従業員の負担は増え疲弊していきます。経営が厳しい状況で一見仕方のないように見えますが、お店はお客様と従業員があってこそ成り立ちます。お客様に負担をかけないよう、従業員に過度な負担がかからないよう工夫が必要です。

 まずは従業員が明るく元気に、そして危機感を持って働けるようなアプローチが必要です。

・お店・会社の経営状況は従業員にきちんと説明し理解を得る(過度な不安を煽るのはNG)

・これまでの仕事の進め方を見直す。時間帯ごとの業務と業務にかかる時間を整理し、業務にかける時間の目安(標準タイム)を明示する。整理した業務の中でやらなくても良い業務はなくす(例えば1日に何度も行うチェックや、ミーティングなど)。

 時間帯によって不効率な仕事の時間帯を変える(忙しい時間の品出し、売り場変更など)。別々にやっていた作業を一度にまとめる(検品やデスクワークなど)。外注することで効率アップが図れる、コストダウンが図れるものをみつける。少しでも従業員の負担が減るように会社としても積極的に行動し従業員に努力を伝えることが重要です。まずはこのような取組を行い、従業員の負担を少しでも減らし、お客様のために割ける時間を確保してください。

 そして大事なことは厳しい状況で頑張ってくれている従業員に感謝の気持を常に伝えることです。うちのお店にはあなたの存在がなくてはならない。助かっています。いつもありがとう。そんな言葉をお店のトップが伝えてください。

 貢献感の高い従業員は良い仕事をし、お客様に支持され、愛されます。そんなお店が今後も生き残っていくでしょう。人間にしかできないホスピタリティー、売場づくり、提案、これらが「店舗の戦い方」のキーワードです。

 次回は「どんな環境でもお客様に支持されるお店」に不可欠な「スタッフの育成」をテーマに、店長がどのように人材を育成していくべきか見ていきたいと思います。