メニュー

常盤勝美の実践ウェザーMD #2 流通小売業における気象情報の活用例

流通気象コンサルタントの常盤勝美です。連載の初回では、ウェザーマーチャンダイジング(MD)の基本をおさらいしました。今回は流通小売、とくに食品スーパーにおけるウェザーMDの活用手法についてまとめていきたいと思います。

krblokhin / iStock

さまざまな部署が気象情報を活用中

 ウェザーMDは、流通小売のさまざまな部署で活用されています。流通小売の主な部署におけるウェザーMDの活用手法をまとめたのが下表です。

部署

ウェザーMD活用手法

店舗・店舗運営部

・発注端末上の表示
・自動発注の係数としての組み込み
・レイバースケジューリングの調整

商品部

・季節商品の仕入れ時期、量の決定
・季節に適した売り込み強化商品の策定
・農作物の生育状況(相場)把握

営業企画部

・月次販促テーマの策定
・季節商品の投入・手仕舞い期の決定

販売促進部

・気象を考慮した店頭でのPOP掲示
・広告出稿時期の調整
・アプリPUSH通知を行う時機調整

 店舗でのウェザーMDのポイントは、比較的短期の情報を用いて現場での売り方の調整を行い、ロスを減らすのが主目的であることです。本部サイドでは、主に営業企画関連の部署でMD計画を立案する際、予想される気象状況からその計画の妥当性を判断し、計画実施時期の微調整を行うときに活用されるケースが多く、主に3ヵ月先までの予報が使われています。

 当然、販促部でもウェザーMDは活用されています。以前は広告出稿あるいはチラシ作成のためのリードタイムが1ヵ月以上あったため、予報精度が十分ではないなか、積極的に活用しきれなった部分がありました。しかし現在は、リアルタイムな気象状況に合わせて即時にお客さまに情報が発信できるため、そのメリットを生かした施策が行われています。

 それ以外では、防災的観点からの気象情報の活用シーンもあります。台風接近時の開店・休店の決定や、従業員の安否確認、大雪や暴風などによって翌日の交通機関のダイヤの乱れが想定される場合などの近隣宿泊施設での待機指示、宿泊先手配も、そのときの気象情報を参考にしながら判断が行われることでしょう。

 新店出店においてはその土地での自然災害リスクを事前に把握するために自治体の作るハザードマップを入手するだけでなく、周辺地域の過去の気象データ、自然災害履歴を調べることも重要です。このように気象情報はほとんどの部署の業務において必要とされています。

経験のない異常気象にどう対応するか

 気象情報あるいはウェザーMDを取り巻く環境は、時代とともに変化しています。気象庁あるいは民間気象会社で作られる予報コンテンツは、種類が増え、解像度は一層細かく、また精度も少しずつ着実に向上しています。

 防災的観点だけでなく、経済的な観点からも国民の様々なニーズに対応できる情報に進化しています。参考までに、気象庁の報道資料の中から、202011日から915日までの間に気象庁で運用が始まった(あるいは内容が拡充した)情報を図表②にまとめました。

運用開始日

情報内容

1月29

過去・現在・将来の黄砂の分布を連続的かつ面的に示した「黄砂解析予測図」

3月5日

東京レーダーの(雨の強さや雨雲の動きを従来よりも正確に捉えられる二重偏波気象レーダーへの)高機能化

3月18

分布予報(天気、気温、降水量、降雪量)の高解像度化【20km四方単位→5km四方単位】と予報期間の延長

7月1日

関東甲信地方における熱中症警戒アラート(試行)

9月9日

24時間以内に台風に発達する見込みの熱帯低気圧の、5日先までの進路予報

 情報活用技術に関してもAI技術によって、気象要素と販売指標との関係性が評価できるようになっていて、自動発注にも応用されつつあります。

 しかしながら、近年の気候変動や生活環境の変化によって、これまでの実績データに基づく関係性が必ずしも通用しなくなってきています。近年の台風被害や大雨被害など、これまでに経験のないような状況が起こっており、これからも頻発することが予想される異常気象にどう立ち向かっていくかも、重要な観点の1つです。

 そのとき、どのように気象情報を活用していけば良いか、これまでの実績の蓄積の中から、単に定量的な関係性を押さえるだけでなく、お客様が消費するまでのプロセスの中でその結果が示唆する意味合いを把握することが重要であると考えます。そして気温や雨の予報だけなく、さまざまな予報プロダクトにそのメカニズムを連携させることで、たとえ過去にあまり例をみない状況であってもより適切なMDに近づけられることでしょう。

 ポイントは、人々の関心事、興味、流行などは時代とともに変化しますが、消費ニーズに直結する、天気と人間生理の関係の基礎となる部分は時代とともにそう大きな変化は起こらず、スタンダードに使えるという点です。次回は、私が携わってきた中でのウェザーMD実践の成功事例や失敗事例を紹介し、これからの時代に、より適切にウェザーMDを実践するためのポイントをまとめます。