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ヤオコーに西友も… 食卓が変わった? スーパーマーケットはウィズコロナの値頃感を探る

新型コロナウイルス感染症(コロナ)禍で好調なスーパーマーケットですが、売れる商品のトレンドは変化しました。総菜の需要が落ち込み、生鮮・グロサリー・日配が伸びています。顧客の買い方も変わり、客数が大きく低下する一方、客単価は跳ね上がっています。つまりストックして消費する傾向が顕著で、そうなると、すぐに食べる総菜の必要性は下がるものかもしれません。この傾向、秋以降はどうなるのでしょうか? もちろんコロナの状況に左右されるところが大きく、先行きは不透明ですが、スーパーマーケットの取り組みには、いくつかの方向性がうかがえます。

総菜は値頃感を外した?

コロナ後、バラ売りができなくなり、写真のようなシズル感を伝えるのに苦労している総菜売場。在宅勤務に伴い、調理時間があること、割高であることから、多くのスーパーマーケットの総菜売上は苦戦が続いている。Photo by Yagi-Studio

 コロナ以前、働く女性や少人数世帯の増加を背景に、スーパーでは総菜部門が成長分野でした。スーパー業界3団体の統計によると、19年の総菜は既存店ベースで0.3%増です。微増ですが、それ以外の部門は全て前年割れ、トータルでは1.2%減でしたから、総菜だけが堅調だったといえます。

 ところが緊急事態宣言が発令された4月、既存店トータルが10.7%増の中、総菜だけが4.9%減まで落ち込みました。そこから徐々に回復し、7月は0.2%増になったものの、それでもトータルが5.6%増なので見劣りする状況は変わりませんでした。

 国内で感染が広がり始めた当初から、各社は総菜の低下を予期していました。見えない病原体への不安からくる総菜の消費減退は、O157の発生などで経験済みだったからです。すぐにバラ販売を中止し、インストアベーカリーも個包装にするなど、対処は早かったわけですが、食卓を取り巻く環境がこれほど変わることは想定できなかったと思います。

 私の場合、リモートワークの昼食に、最初は弁当を買いました。ただ、休校中の小学生も家にいます。妻はオフィスワークで不在です。料理を作る気がない私でも、2人分の弁当を揃えてみると、ちょっと奮発したランチくらいの値段になってしまうことに怯みました。そこで冷凍食品にしたり、乾麺を茹でたり、レトルト食品をご飯にかけたりなどしましたので、それらのカテゴリーが伸びているのも道理だと実感します。

 「好きな個食を持ち寄って囲む食卓が現代の団らん」とは、10年近く前にある経営者が話されたことで、コロナ禍でもそれは変わりません。同じパスタを茹でても、私と子供ではかけるソースが違います。それは私がソースを作らないからでもありますが。好きな個食を楽しみたいけれど、総菜で揃えるのはちょっと予算が。自宅にいるので、手間はかけられるし・・・。そんな心理が働く世帯も多いのではないでしょうか。

高価格帯で値頃感 ヤオコーの寿司・おにぎり

高単価おにぎりで新しい値頃感の創出をねらうヤオコー

 総菜を割高に感じる消費者が増えたことは確かなようです。多くのスーパーマーケットは、消費者の値頃感に対応しようと、価格帯を見直しています。

 弁当であれば、それまで498円の商品を多く陳列していたところを、398円のボリュームを増やしたり、348円で新商品を投入するといった工夫です。とはいえ、おにぎりのように単価の低いものも動きは鈍いといいます。コロナ禍ではコメの備蓄需要も高まりました。家庭にストックしたコメを炊けば、おにぎりを購入する必要もないということでしょうか。

 ただ、値頃感を探る工夫は価格を下げることだけではありません。ヤオコーはこの夏、おにぎりで高価格帯の新商品を開発しました。本体価格298円の「お箸で食べる寿司屋のおにぎり」です。この商品、おにぎりの中だけでなく上にも具材を乗せます。シャケ&シャケ、イクラ&シャケ、焼きサバ&高菜明太といった組み合わせです。おにぎりとしては高単価ですが、一食で完結するくらいのボリュームがあり、そうなると弁当や寿司の代替としてはリーズナブルです。

 ヤオコーは、高単価の海鮮重・海鮮のり巻きも開発しました。カニ・イクラ・ホタテを合わせた海鮮ちらし(本体価格980円)や、シャリとネタの重量比率を1対1とした太巻(698~798円)シリーズです。これらのターゲットは外食からのスイッチ需要で、普段よりいいものを、外食よりリーズナブルにという値頃感をねらっていました。

 

加工食品と一緒に生鮮 西友の「ちょい足し野菜」

「ちょい足し」で加工食品と野菜の双方を売り込む西友

 食卓ニーズが総菜から生鮮・加工食品に移っているなら、そちらを強化するのも当然の戦略です。緊急事態宣言が明けた頃から、加工食品の価格競争は強まっています。そうなると、スーパーマーケットにとってプライベートブランド(PB)の重要性は増してきます。PBも単に価格を下げるだけではなく、品質とか、ナショナルブランド(NB)にはない個性とか、安全・安心、健康軸などさまざまな価値に対する値頃感が求められます。

 PB戦略には各社それぞれの特徴がありますが、コロナ禍で需要が高まっている生鮮と一緒に拡販をねらうという点で印象的なのが、西友「ちょい足し野菜」のプロジェクトです。同社PBの人気カテゴリーであるレトルトカレーに、レンジアップしたタマネギを加える提案や、カップ麺に加熱したトマトやナスを添えるといったレシピを、店頭のリーフレットやSNS等で発信しています。

 西友は昨年来、野菜不足を補う企画を継続してきました。これまでは野菜嫌いの子供向け、野菜嫌いの大人向けといった切り口でしたが、今回は加工食品+野菜とすることによりターゲットの間口が広くなりました。食卓ニーズの変化をとらえたタイムリーな企画でもあります。PB中心にスタートしましたが、プロジェクトの賛同企業には味の素やカゴメ、キユーピー、日清食品、マルハニチロ、エスビー食品などが名を連ねます。加工食品と野菜の組み合わせ提案は、価格訴求だけではない要素を盛り込んだ西友のチャレンジです。

 コロナ禍にあって、スーパーで購入される商品は変化しました。日々の食卓には値頃感が外せない中、総菜をどうやってリカバリーしていくか、また内食の気運が高い中で、好調な生鮮・加工食品をどう売り込んでいくか、ウィズコロナの秋冬が始まります。