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ウィズコロナ時代のショッピングセンター経営2〜揺らぐビジネスモデル、「テナント売上依存」の限界〜

前回、国内のショッピングセンター数が減少に転じたことを解説した(2018年末:3,220カ所→2019年末3,209カ所)。これまで「最強の流通業態」と呼ばれ、その隆盛を謳歌していたショッピングセンターもその数を後退させるに至った。では、なぜ、減少したのか。その理由を前回列挙したが、その中で最もその減少にインパクトを与えているのは、他でもない人口の減少である。今回はデモグラフィックな変化を見ていきながら、ショッピングセンターのビジネスモデルが揺らいでいる原因を掘り下げたいと思う。

IGphotography / iStock

出生数の低下と人口減少が与える深刻な影響

 人口減少は、消費市場の減少に直結し、消費財を始め、あらゆる産業に影響する。

 特にショッピングセンターなどの商業施設は消費市場の縮小に伴う売上の減少と収益の下方圧力が投資利回りの低下を招く。そのため商業施設開発に対するモチベーションは低下し、開発される不動産用途は自ずと商業以外のオフィス、ホテル、レジデンスに向かう。これがショッピングセンター減少の最大の理由である。

 「人口減少」と言っても多くの側面がある。どの部分がショッピングセンター経営に影響しているのかを、ここでしっかり説明したい。

 これまでの日本は、団塊世代と団塊ジュニア世代、この2つの人口の塊を追い掛けながら消費市場を作り、彼らもそれを牽引してきた。団塊世代の生まれた1949年の出生数は270万人、団塊ジュニアが生まれた1973年が200万人、そして昨年が90万人。何と昨年の出生数は、団塊の世代の3分の1まで低下してしまったのだ(図表1)。

出所)厚労省発表資料より筆者作成

 今、商業施設では、「洋服が売れない」と嘆く声がそこここから聞こええてくる。一説には1年間に日本で供給される洋服は29億点に上ると聞く。1.2億人の日本に29億点の洋服が必要かどうかの評価は専門家に譲るが、アパレル不況の原因を温暖化などの気候変動や商品政策、サプライチェーンなどの企業の経営体質や仕組みに求める声も多いが、そんなことより、そもそも市場のボリュームが減っているのだ。

 実際、あるアパレル企業の営業部長が「昔は3億円を売る店がたくさんあったのに今は1億円が精いっぱいだ」と言う。この「3分の1」の意味はここにあるのだ。

出生数の減少と合計特殊出生率が表す
「人口の減少」

 この生まれる子供たちの減少は、合計特殊出生率で表すことができる。今、日本の合計特殊出生率は低下の一途であり、昨年は1.36まで低下した(図表2)。これは全国平均であり東京に限ると1.15まで低下する。この低下の理由は多くの事象が複合的に絡み合っているので説明は割愛するがこの傾向は、今の日本の社会環境や国土政策を見る限り、そう簡単には改善しないだろう。

出所:厚労省人口動態統計

 この出生数の減少が人口の減少に及ぼす影響を死亡者数―出生数と単純計算すると死亡者数138万人―出生数86万人=52万人の減少となる。鳥取県の人口が56万人であるから、毎年鳥取県に匹敵する人口が消えていくのである(図表3)。

出所)厚労省発表資料より著者作成

 

人口構造の変化が与える影響

 ショッピングセンターや商業施設の収益力の低下の原因には、人口減少ともう一つ大きな要因がある。それは人口構造である。

これまでショッピングセンターの中心的ターゲットは、団塊世代と団塊ジュニア世代であることを前段で指摘したが、現在、団塊世代は既に高齢化し消費者市場では大きな塊では無くなり、頼みの綱だった団塊ジュニア世代は今年50歳へと手が届くまでとなった。

 本来、この団塊ジュニア世代に続く「団塊ジュニアJr.世代」が存在すれば大きな問題にならなかったものが、2020年の人口ピラミッドから明らかな通り、消費市場を牽引するはずの20代~40代が急速に減少している。

図表4 人口ピラミッドの変化(2000年→2020年)出所)国立社会保障・人口問題研究所HPの画像を使用 (http://www.ipss.go.jp/site-ad/TopPageData/PopPyramid2017_J.html)

 この傾向がますます顕著になることは、この人口ピラミッドの先細り(図表4)を見れば明白であり、年を追うごとに市場は縮小する。人口問題は、巷の経済予想とは異なり大きく狂うことは無い。何故なら過去に遡って人口を増やすことは不可能だからである。唯一、修正する方法は移民を受け入れることだが、今の日本には簡単な問題では無いだろう。

人口問題とショッピングセンターのビジネスモデル

ショッピングセンタービジネスは人口に強く影響を受ける。写真は人口増を達成している7都県の1つ、沖縄県内のショッピングセンター

 なぜ、私がここまで人口問題にこだわるのかといえば、ショッピングセンターのビジネスモデルに大きく影響するからだ。では、そのショッピングセンターのビジネスモデルとは一体どのようなものだろうか。

 ショッピングセンターは不動産賃貸業に分類される。ショッピングセンター内の賃貸借物をテナントに賃貸し、賃料を収受するビジネスである。

 一般的に不動産賃貸業における賃料は、立地、周辺相場、スペック、階数、需給バランスで決まる。ところがショッピングセンターの賃料はそういった決定要因以上に出店するテナントの売上高に依存する。なぜならショッピングセンターの賃料にはテナントの売上高に連動する売上歩合制賃料が採用されるからである。

 売上高の10%を賃料と決めればテナントの売上高が月額1,000万円の時、賃料は100万円となり賃貸面積が50坪であれば月額2万円/坪と計算される。

 市街化の進んでいない場所や駅から遠く離れ賃料の周辺相場が無い農地の中にでもテナントの売上高さえ予想出来れば賃料設定が可能となり、その賃料収入額に応じた投資実行を可能とする。

 これまで工業団地として開発され、長年買い手が付かず放置されてきた土地がショッピングセンターとして開発される現象もこのテナント売上高に連動したビジネスモデルがあるからに他ならない。

 オフィスや住宅や百貨店などの開発ができない場所であってもショッピングセンターであれば開発を可能とする画期的なビジネスモデルとしてこの50年機能してきたのである。

ショッピングセンタービジネスモデルの限界と今後

 ところが人口減少と人口構造の変化によって、このビジネスモデルにほころびが出始めたのである。ショッピングセンターの賃料収入はテナントの売上高に依存するため、不動産賃貸業であるビジネスにも関わらず、ショッピングセンター事業者がテナント売上高にこだわる理由がここにある。

 しかし、テナント売上は買い物や食事をする消費者がいないことには始まらない。これがショッピングセンターのビジネスモデルに対して人口減少と人口構造の変化が大きく影響する理由である。

 今、日本は新型コロナウイルスへの対応で四苦八苦の状態だが、少し顔を上げて将来を見ればそれ以上に危機が迫っていることが自明である。

 今は「リベンジ消費」により、若干の好調さを保っているものの人口減少と消費市場の減少(特に若年層の減少)は、経済活動だけでなく、年金や医療費などの社会保障や税収の低下による社会資本の整備にまで大きく影響し、今般の新型コロナウィルスによる休業補償や税収の低下による増税は避けられず、将来的にはショッピングセンターをはじめ、商業施設の売上高は低下するだろう。

 では、このような環境下において、ショッピングセンタービジネスはどのような道を歩んでいくのか、はたまた歩むべきなのか、次回、明らかにしていくこととする。

 

西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員、渋谷109鹿児島など新規開発を担当。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒、1961年生まれ。