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インバウンド変調にコロナ直撃、正念場を迎える上場百貨店売上ランキング2020

これまでは「接客販売」という付加価値で存在理由を示してきた百貨店。しかし有力専門店の台頭やEC市場の拡大の影響を受け、足元の売上高は漸減傾向が続いている。近年の百貨店の売上高を下支えしてきたインバウンド需要が去りつつあったところに、直近では新型コロナウイルスの感染拡大が直撃し、各社は甚大な打撃を受けている。正念場を迎えている上場百貨店各社の売上高ランキングを見ていこう。

インバウンド需要に変調!?

 日本百貨店協会が発表した2019年1~12月の全国の百貨店売上高は、対前年比1.4%減の5兆7547億円だった。17年のインバウンド景気で水面を出たかと思いきや、2年連続の減少となっている。

 売上高の内訳を詳しく見ていくと、百貨店は“頼みの綱”だった免税売上高が変調していることがわかる。日本百貨店協会の統計によると、19年の「インバウンド売上高」は前年比2.0%増の3461億円。3年連続で前年を上回り、過去最高を更新したものの、爆買いブームに沸いた15年以降と比較すると、伸び率は鈍化しており、成長に陰りが見られる。

 それを象徴するように、購買客数は同1.7%減と、2011年以来8年ぶりのマイナスに転じている。客数減を客単価の上昇で埋める構図となっているのである。

 インバウンドの変調は、19年の百貨店全体の商品別売上高からも読み取れる。インバウンドに人気の「美術.宝飾.貴金属」は同8.9%増と伸びたものの、百貨店免税売上高をけん引し、このところ2ケタ、またはそれに近い伸び率をみせてきた「化粧品」が同2.6%増という低い伸び率にとどまっている。

 化粧品売上高の伸び率の鈍化は、安価なドラッグストアなどで購入するインバウンドが増えていると考えられる。このことは、近年顕著な成長を見せるドラッグストア市場を見ても明らかである。

 そのほかの商品カテゴリーでは、「食料品」が同1.1%減、主力商品である「衣料品」が同4.0%減と、それぞれ前年実績を下回っている。このように、19年の百貨店売上高からは、貴金属や宝飾品は別として、化粧品や衣料品などを百貨店で買い求める訪日客が減少傾向にある様子が浮かび上がってくる。

ランキング1位はあの企業

 ダイヤモンド.チェーンストア編集部が作成した、上場および上場子会社の百貨店売上高ランキングトップ10においても10社中9社が減収と、百貨店の厳しい現状が鮮明となっている。

図表●上場百貨店営業収益ランキング上位10社(ダイヤモンド・チェーンストア編集部作成)

 ランキングの1位は、三越伊勢丹ホールディングス(東京都)で、20年3月期の連結営業収益は1兆1191億円(対前期比6.5%減)だった。中核事業会社の三越伊勢丹(東京都)において地方の不採算店の閉鎖を進めており、20年3月期は「伊勢丹相模原店」「伊勢丹府中店」「三越新潟店」を閉店。これにより、三越伊勢丹の売上高は同8.1%減の5832億円となっている。

 2位は髙島屋(大阪府)で、2020年2月期の連結営業収益は9190億円(同0.7%増)。なんとか微増収となったものの、同社もこれまでの成長エンジンであったインバウンド需要が失速しており、免税売上高(20年2月期)は同9.4%減の496億円に落ち込んでいる。

 3位は阪急阪神百貨店(大阪府)を擁するエイチ・ツー・オー リテイリング(大阪府)で、20年3月期の連結営業収益は8972億円(同3.2%減)だった。中核の阪急阪神百貨店の売上高は同0.3%減の4504億円。関西はほかのエリアと比較すると、インバウンド需要は堅調と言われている。地の利を生かしたことで、売上高は微減にとどまっているようだ。

 4位は、セブン&アイ・ホールディングス(東京都)グループのそごう.西武(東京都)。20年2月期の売上高は6001億円と同2.5%減だった。19年2月期から地方店の閉鎖や譲渡を実施している同社。21年2月期も地方不採算店5店舗の閉鎖を決定するなど、経営資源を首都圏に集中させる構えを見せている。

 IFRS(国際財務報告基準)を採用しているJ.フロントリテイリング(東京都:以下J.フロント)の20年2月期の連結売上収益(他企業の営業収益に相当)は、同4.5%増の4806億円だった。主に百貨店事業の消化仕入れ取引額を総額にし、パルコ事業の純額取引をテナント取扱高の総額に置き換えた「総額売上高」は同0.8%増の1兆1336億円。百貨店事業の売上収益は2637億円(同4.2%減)となった。増税後の消費マインドの低下や暖冬に加え、第4四半期は新型コロナウイルスの影響を大きく受けた格好だ。

2020年度決算は波乱の予感?

 コロナ禍で先行きが不透明な中で、大手各社が注力する方向性も明確にわかれてきた。

 三越伊勢丹では「ウィズコロナ」を前提に据え、ネットと店舗のシームレスに連携させる取り組みを一段と強化。6月に「三越伊勢丹シームレスアプリ」を立ち上げ、対面販売をネット上で展開できるオンライン接客やチャットを取り入れるなどデジタル戦略に舵を切っている。

 また、髙島屋では、子会社のデベロッパー会社が蓄積してきたショッピングンセンターの運営ノウハウを活用し、“街づくり”的な事業を強化する。J.フロントリテイリングも不動産事業に力を入れるなど“脱・百貨店”の姿勢を鮮明にしている。

 あの手この手で長期化が予想されるコロナ禍を乗り切ろうとする百貨店各社。業界はまさに正念場を迎えている。