5月15日、かつてアパレルの名門と言われたレナウンが民事再生法の適用を申請。同社は破綻した。その破綻の本質的原因を解説しよう。評論家やアナリスト達の分析を読むと、相も変わらず「レナウン ワンサカ娘」から始まり、「アーノルドパーマー」などの「昔話」を繰り返すだけ。「今の話」といえば、せいぜい、中国の山東如意科技集団に救済された過去や、3月の株主総会で会長、社長の解任を求めたという話程度だ。私からいわせれば、「昔話」などで感傷に浸っている場合ではない。レナウン破綻は、すぐそこまで来ている「業界再編」の序章なのである。
レナウンがすべき戦略を実行したオンワード樫山
私は評論家でもなければ、単にペーパーをだして高額な報告書をだすだけのコンサルタントでもない。フィーに見合う価値を出し何社もの企業を地獄の淵から救ってきたターンアラウンドマネージャー (再建屋) である。
すでに「時効」だから申し上げるが、同社のEC戦略については、今から6年前に上梓した自著『ブランドで競争する技術』内の「後発企業のeコマース戦略」という章で、レナウンの「ダーバン」をとりあげ、まさにいまオンワード樫山が手がけている「「カシヤマ・ザ・スマートテーラー」」の戦略を提言している。今から6年も前のことである。実は当時、同社から「ECをどうしたらよいのか」とある方を通して相談されており、この本に書いてあることをそのまま伝えたのである。
だが、彼らの返事は「自分はEコマースの部門であり、そのやり方だと生産部が絡むため無理だ」というものだった。私は、お客様のニーズを伝えたつもりだったのだが、むしろ、自社の都合を優先し解決しようとしたため、この話は全く検討の俎上にも乗らなかった。その後、オンワード樫山が、同書に書かれている戦略をそのまま踏襲した「カシヤマ ザ・スマート・テーラー」を立ち上げ、ECとビスポーク(オーダーメイド)を組み合わせたビジネスモデルにより、高い成長を遂げているのはご存じの通りである。完成品しか仕入れることしかできないAmazonに対抗する戦略として、製造機能を持つアパレルならではの戦略だったが、レナウンの担当者は全く耳を傾けてくれなかった。私は、その一つのできごとをもって同社のことを評価するつもりはないが、少なくとも同社の体質 (お客さまより会社を見て仕事をする)を表す出来事だったと私は思う。
レナウンが経営破綻したとき、私のところに色々なメディアから話が舞い込んできたが、それは、私は昨年の冬からアパレル業界崩壊論を説き、来年は「TOB元年」になると予言をしているからだろう(実際は、アパレル企業の99%は非公開だから「TOB」<公開買い付け>でなく、プライベートエクイティ<未公開株式>ファンドによる買収も指す)。
レナウン破綻は業界再編の序章
昨年の冬、私はアパレル業界を席巻した「デジタル祭り」を厳しく批判した。なぜなら、消費者ニーズを全く無視した奇妙なデジタルツールが次々と出ては消えてゆき、時にROI (投資対効果)測定も正しいやり方とはいえない方法で行い、効果がでたのかでないのかうやむやになっていたからだ。結果、経営悪化した企業が金融マーケットに持ち込まれた。「これからは、デジタルの時代だ」と思っていた私を待ち受けていた仕事は、デジタルとは全く関係ない「企業再建」の仕事だったのだ。
「この企業が?」と驚くような名アパレルが次々と死の淵へと追いやられるなか、私は当時、自分の全てをかけて一つの会社を救っていた。コロナショック以前の話である。
モール型ECへの出店は「悪魔との契約」だ、「市場が縮小する時代では、売上でなく利益を追いかけろ」、「欠品は追いかけるな。余剰在庫を極小化せよ」など、私のターンアラウンド(再生)の経験から来る分析や提言はことごとく無視され、多くのアパレルは売上至上主義の名の下、溢れんばかりの余剰在庫を抱えキャッシュフローを悪化させた。その結果、市場が30%も消滅しているのに、業界全体で投入点数を20億点から40億点に倍増させた。
こうして、狂気とも思えるMD計画の結果、衣料品は総需要の30%も供給過多となったのである。そんな状況の中で、どれほどAIの精度が高くとも「需要予測」など役に立つはずがない。そんな簡単なことさえ理解できなかったのである。
天気とトレンドのせいにするビジネスは博打と一緒
そして、業績悪化の結果は、常に「天気」と「トレンド」の責任に転嫁された。「天気」や「トレンド」など誰も予想できない。つまり、「私は博打ビジネスをやっています」といっているのと同じである。この時点でリスクマネー(ヘッジファンドなどの資金のこと)はアパレル企業に向かうことはなくなった。投資の世界では「アパレルには絶対投資をしない」という意見が圧倒的となった。
レナウンを含む多くの企業が、百貨店で、成金化したアジアの人間しか買わないような法外な値段で服を売る一方で、ユニクロが圧倒的なコスパで「シングルプレイ」をエンジョイするという構造になっていた。
こうした分析に対しても「うちはユニクロとは違う。ブランド力がある」と彼らはいう。しかし、私は年間に数万人という女性に消費者調査をやっているマーケティングのプロである。ブランドだと思っているのは本人達だけで、多くは「ユニクロと高額衣料品を同列衣料品」として使い分けている。
実際、日本人は、富裕層も、そうでない層も等しくユニクロを買っている。ユニクロの売上の大半は山の手の富裕層であるということさえ分析していない。だから、私は30年もこの業界に身を置いているにもかかわらず、昔話が嫌いなのだ。昔話からはなんら将来の展望は見えてこない。「あのころはよかった」とつぶやいてもしかたないのである。現実を直視することが、今我々に求められていることなのだ。
コロナショックで、生かすも殺すも金融機関次第
そこに「コロナショック」がやってきた。政府は、日常必需品以外の嗜好品の営業活動をとめ、「(売上構成比の10%しかない)ECで買え」といい、日本のアパレルに引導を渡したのである。結果、Amazonだけが大儲けし、日本のアパレル企業は、生かすも殺すも金融機関次第、という状況になったのだ。
帝国データバンクによれば、2016年の時点で、すでに日本で20,000社あるといわれるアパレルの半分が昨対割れ、17年には、ほぼ全てが昨対比を割る状況だという。
いまだ、アパレルが破産宣告をしないのは、緊急事態宣言で政府が銀行に対してリスケ(支払いの延長)をさせ、借金を先延ばしにしたり再権圧縮(貸したお金をなかったことにする)をしキャッシュフローをやりくりしているからだ。
しかし、営業活動がストップしていれば、売上の半分を12で割った金額が、毎月アパレルの貯金から減ってゆくことは書いた通りだ。つまり、こうしたラットレースはいずれ破綻する。銀行もそろそろ会社を潰した方が得か、生き永らえさせた方がよいのかソロバンをはじきだした。
スポンサーがつくアパレル、つかないアパレルの違い
5月7日、ユニクロが都内など営業休止していた49店舗を営業再開した。ユニクロ以外のアパレルは、自ら先頭にたって何かをやることをしないが、ユニクロがやれば「私も」と、次々と営業を再開し始める。この原稿を書いている5月18日時点で、次々とアパレルが店を開け営業活動を再開しはじめている。
また、いままで「天気」と「トレンド」で、業績を説明してきたアパレルもデューディリジェンス(企業価値評価)で丸裸にされ、ようやく科学的管理手法を導入しはじめた。そうなると、格安で買えるアパレルにリスクマネーが動き出す可能性が高い。
投資マネーは「付加価値のある場所」へと向かう。アパレル企業の中には、独自の技術を持つ、あるいは、超優良顧客を持つなど、他のアパレル企業とは違う独特の強みを持つ企業が多数存在する。そうしたアパレル企業には必ずスポンサーがつく。銀行融資は、とうの昔に与信を超えているが、価値を見定めたリスクマネーを期待しているのだろう。
レナウンが破綻したのは、残念ながら親会社である山東如意科技集団に見放されたとみるのが妥当だろう。山東如意科技集団はこれ以上続投させては事業が毀損されるのみ判断し、レナウンの会長と社長を解任したからだ。こうした分析をもって広くアパレル業界をみれば、首の皮一枚で繋がっているアパレル企業も、さしたる強みもなければ救済される可能性は低い。清算した方が得と金融機関や親会社が判断すれば第二第三のレナウンが生まれることになるのだ。
「日本企業はそこまでドラスティックに決断しない」という意見もあるが、コロナショックの前から死に体となっているアパレル企業は乱脈経営が原因で破綻寸前に陥っている。こうした企業を銀行が支えられなくなった時、私は金融主導でM&Aの嵐が吹き荒れアパレル業界の再編が進むと思う。私の視点は、こうした全体像の中で「レナウン破綻」を位置づけているため、「レナウン破綻は業界再編の序章」とみているわけだ。
そうしたなか、政府は次々と各自治体の緊急事態宣言を解除し、経済活動を再開しはじめたが、そこには、「コロナ第2波」というリスクが待ち受けている。韓国では、人がクラブを徘徊しただけで100人以上がコロナウイルスに感染し3000人が感染疑いとなった。このウイルスはそれほど恐ろしいのだ。
前回の論考で、「人が動けば2年後に50万人死ぬ」、「人が動かなければ2年後に60兆円の経済損失が出る」と書いた。政府はこうしたトレードオフを明確にせず「手洗いダンス」などをYouTubeで流す程度のことしかしていない。
真のリーダーとは、このようなトレードオフ(何かをとったら何かを失う)を明確にし、国民に「我々はこちらを選択する」と言い切れる人だ。私は、1ヶ月の超法規的強制力をもって国民をロックダウンすればこの問題は解決すると提言をしたが、残念ながら誰にも相手にされていないようだ。つまり、我々は「動いて2年後に50万人死ぬ」道を選択したのである。あとは、ワクチン開発と人が死ぬスピードの競争となる。
くどいようだが、既にアパレル企業の約半数は既に死に体となっていて、金融機関が営業活動の再開とリスクマネーの流入を待っているのだ。逆に言えば、残す価値がないと判断されたアパレルはレナウンの二の舞になる可能性が高い。レナウンの破綻は業界再編の序章なのである。
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)