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食品スーパーが手本とするべきベーカリー#1 基本の食パン13選

近年、他社との差別化策としてインストアベーカリーを強化する食品スーパーが増加している。そこで、ふだんは食品スーパー企業に身を置きながら、休日には数々の専門店を飛び回るほどの“パン通”であるキタノカオリ氏(仮名)に、食品スーパーが手本とするべき店を教えてもらう。今回焦点を当てるのは、パンのなかでも基本の商品と言える「食パン」だ。

他社との差別化策としてインストアベーカリーを強化する食品スーパーが増加している。写真は「サミットストア 大田大鳥居店」(東京都大田区)

めざすべきは「食べ飽きないパン」

 今、食パン専門店が全国で増え「高級食パン」「生で食べてもおいしい」などの触れ込みでブームとなっています。食品スーパーでもこの売れて儲かる商品を開発しない手はないと思いますが、“パン好き”から見ると、それは単なる流行で、本質を突いていないように感じてしまいます。

 食パンを「食事パン」の最も基本的なアイテムとするのであれば、白米のように、食べ続けても飽きず、どんなメニューにも合わせられ、かつそのまま食べてもおいしいものとして、追求していくべきではないでしょうか。

 現在ブームとなっている食パンは糖分や油脂の含有量が非常に多く、パン食文化の国の人が見たら「日本では食事とお菓子の区別はないのか?」と言われてしまうでしょう。

 商品政策に「健康」を掲げる企業が多いなか、今あえて食パンを見直すことが本当の差別化になり、何よりお客さまのためになるのではないでしょうか。

 食パンの商品力を高めるために重要となるのは、主な原材料である小麦です。専門店ではこれに徹底してこだわっています。

 しかし食品スーパーでは、自社の商品に使用している小麦の種類、またそのタンパク値や灰分値などについて答えられるバイヤーがどれだけいるでしょうか。ナショナルブランドのミックス粉を使っている限り、差別化を図るのは難しいでしょう。

 

「食パン」で指標とするべき
4店をタイプ別に紹介!

 まずは真においしいパンを知ってベンチマーキングし、そこを共通のゴールとして取引先メーカーと研究するところから始めてはいかがでしょうか。そこで指標とするべき4つの専門店をご紹介します。

① “リッチ系”のお手本
「セントル・ザ・ベーカリー」

所在地   東京都中央区銀座1-2-1 紺屋ビル 1F
営業時間  10:00~20:00 

 油脂分を多めに使った“リッチ系”の食パンの中で手本とするべき店。「副原材料の含有量はここまでが限界」という基準にしたい。
 流行のリッチすぎるパンと一線を画すのは、酵母と小麦の香り、また耳と身の部分のコントラストがはっきりしていること。リッチ系でありながら、パンならではの小麦を焼成したおいしさと香ばしさも十分に感じられる。


② 日本の食事に合わせて生まれた“食パンの基本形”
「パンのペリカン」

所在地   東京都台東区寿4-7-4
営業時間  8:00~17:00(定休日:日曜・祝日)

 日本のパン文化をつくってきた、食パンの“基本形”が味わえる店。いい意味で昭和を感じる甘い香り、安心感のある口解けも魅力で、これこそ食べ続けても飽きない食パンと言える。

 ジャムやバターを合わせたくなるような味わいで、リッチ系のパンが出回る昨今、本来、糖分や油脂はそれぞれの好みで調整して合わせるのが食パンの魅力であるということが再認識できる。

③ 小麦の力を最大限に引き出した食パン
「チクテベーカリー」 

所在地   東京都八王子市南大沢3-9-5-101
営業時間  11:30~16:30 (定休日:月・火曜)

 手に持つとズシリと感じるほど身が詰まり、それでいて口解けはよく、まさに小麦を食べていることを感じられる食パンで、身はモッチモチ、耳はカリッと香ばしいのが特徴だ。

 店主さんのパン作りの姿勢がそのまま形と味になった素晴らしい食パンであり、糖分や油脂分を極力抑えてもパンはここまで甘くなることがわかる。

 「ファーム・トゥ・テーブル」も明確で、食品スーパーのパンも、青果や米のように主原材料の生産地や生産者が見える取り組みが始まってもいいのではないだろうか。

④ 技術とセンスが
生み出した新しい食パンのカタチ
「パン・デ・フィロゾフ」

所在地   東京都新宿区東五軒町1-8
営業時間  10:00~19:00(定休日:月曜、たまに火曜)

 群馬県産を中心とした国産小麦で焼かれた食パン「あさま」は、約1年半前の開業時にそのおいしさがパン通たちを驚かせた逸品だ。フランスの有名ブーランジェリー「ドミニク・サブロン」の日本の責任者を務めていた職人が、高い技術をもって、国産小麦のおいしさ、味の濃さを十分に引き出し製造する。「食事パンとはこういうもの」と訴えかけてくるようだ。

 そのほか、スペースの問題上、今回は泣く泣く詳細の紹介を我慢した、素晴らしい「食パン」に会えるお店もいくつか挙げておきます。これらのお店の商品を食べれば、日本の食事パンの代表である食パンが、いかに素晴らしいものかが再認識できるでしょう。

 

⑤ 「たまき亭」 (京都・宇治)
⑥ 「ラトリエ・ドゥ・プレジール」 (東京・祖師谷大蔵)
⑦ 「シニフィアン・シニフィエ」 (東京・三軒茶屋)
⑧ 「PANYA Komorebi」 (東京・西永福)
⑨ 「AOSAN」 (東京・仙川)
⑩ 「ベッカライ・ブロートハイム」 (東京・桜新町)
⑪ 「ブーランジェリー スドウ」 (東京・松陰神社前)
⑫ 「ジュウニブン・ベーカリー」 (東京・新宿 「京王百貨店新宿店」内)
⑬ 「タロー屋」 (埼玉・北浦和)


 食パンは唯一、購入者が切ることによって中身のスライス面まで焼き、〝香り高い耳〟にできるパンであり、トーストして付加価値もつけられます。つまり、作り手と食べ手のコラボレーションによりさまざまな味わい方を生みだせることが醍醐味であると言えます。

 今回は、「角食と山型」「天然酵母かイーストか」「水分量や加水率」「熟成」「塩分」「焼き方や温度」などのポイントまでは言及しませんでしたが、食パンは主原材料である小麦と副原材料だけでおいしさや品質がつくれるような簡単なものではありません。シンプルかつ食事の基礎となるような食材であるだけに、使う酵母や水分量を変えるだけでまったくの別物になってしまいます。
 
 非常に繊細な商品ではありますが深く追及すればするほど、他社と一歩も二歩も差がつく商品に育成できるはずです。

【キタノカオリ・プロフィール】

某食品スーパーで長年精肉バイヤーおよび総菜開発に携わる。現在は営業部門から離れているが当時からの食べ歩きは今も続けている。27~8年前に自家製天然酵母パンの草分け店「ルヴァン」のパンに出会い、パンの世界に魅了される。休日には数々の専門店を訪れ、有名店主・シェフたちとの親交も深い。パン以外にもスイーツ、コーヒー・紅茶、うどん、カレーなども食べ歩く。多趣味でもあり休日は忙しい。