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プラットフォーマーをめざすワールド 何がスゴいのか?

前回私は商社によるプラットフォーマー化を提言したが、実はこの戦略を実行しようというアパレル企業が存在する。神戸の名門アパレル、ワールドだ。昨年12月16日付の日経新聞では、ワールドが「ノウハウ提供で手数料を得るプラットフォーム事業を、全事業の50%とする」と報じている。さて、ワールドはどのような戦略を描いているのだろうか?

ワールドはアパレル業界のプラットフォーマーになる戦略を描いている(写真はイメージ/ Photo by RyanJLane)

プラットフォーマーをめざすワールド

 ワールドは実際、自ら組成したファンドを通じて、次々と国内工場を買収し、川上事業を自社へ誘導してきている。見逃せないのは、同社は勘と経験と度胸、いわゆる「KKD」が横行していたアパレルビジネスに、はじめて科学的経営管理手法を導入した企業である点だ。過去にシステム企業と組み、アパレル企業にいまや不可欠な、店舗から得られる情報をマーチャンダイジングに生かす、業界のデファクトスタンダードともいえるUVASシステムを作り上げ、世に広めた経験を持つのだ。過去の成功事例を今のハイテク技術のフィールドに転用し、「栄光よもう一度」と考えるのは、まったく自然な流れだ。   

 ワールドが、この領域で成功すれば、事業成長性は未知数だ。なにより、もはやインターネットも出店も決定打となり得ない百貨店や総合スーパー(GMS)のプライベートブランド(PB)を支援することで、両者はwin-winとなる可能性が高い。顧客はごまんといる。ワールドは、成長が止まりインターネット戦略もうまく行かない企業の利益率改善の秘策として、ものづくりノウハウを提供する事業に乗り出すに違いない。本来、商社がすべき領域は、一足先にワールドに先を越されたことになりそうだ。 

 産業再編を行う側に立つ商社

 こうした状況の中、一部の企業を除いて産業再編が進むアパレル業界で、ターンアラウンドを行う側から、むしろ、再編を推進する側に立つ商社も現れた。私が提唱する「商社3.0」のように、リスクの高いことをやるのならば、成長が期待できないアパレルとは一切付き合わず、勝ち組だけと取り組むという戦略だ。  

 極端なことを言えば、弱った日本のアパレルに、もはやうまみはない。だから、一部の勝ち組アパレルだけと付き合い、市場は神の見えざる手に任せ、業界再編を横目で見つつ、おいしいところだけを奪うというわけだ。これは、経営用語でいう「ミルキング事業」という考え方である。私はこれも極めて現実的な解であると思う。   

 このように、アパレル業界はもはや待ったなしの状況に追い込まれているが、静かに、誰も気づかぬまま様々な動きが静かに水面下でなされている。   

 唯一のブルーオーシャン(誰も参入していない事業領域)はバリューチェーンのデジタル化だ。今後、多くのアパレル企業にとって、自らのブレークイーブン(採算分岐点)を下げ、事業効率化をはかり、競争力を高めるうえでの決定打となり得るだろう。それは、ワールドのように自らこの領域に打ってでるか、あるいは、経営が立ちゆかなくなり、ファンドなどに経営改革を先導され誘導される形でプラットフォーム化されるのか、この戦いの終わりはどうなるかわからない。   

 こうした中、企業は何をなしえて競争力を強化すべきか、そして、自ら作り上げる商品はお客さまにとってどういう意味があり、競合とどこが違うのかという問いに答える必要がでてくるだろう。デジタル化の意味の再確認である。

 

プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)