アパレル業界は今、新旧交代の転換点に差しかかっている。旧勢力である百貨店や総合スーパー(GMS)が相対的にシェアを落とし、代わって「新興勢力」のワークマンが台頭、そのほかにもD2C(消費者直販)、サブスクリプションといった新潮流のビジネスモデルも萌芽している。また、かつて新興勢力の代表格だった「ユニクロ」が安定成長期に入り、EC企業に進化できるかどうかという過渡期を迎えている。この転換点の先には何が待ち受けているのだろうか。
「ビックカメラ」に続いて三越に入るのは……?
「これから百貨店は、地方を中心に加速度的に閉鎖や身売り、業態転換が起こるのではないか」
こう話すのは、ある百貨店OBだ。かつてのアパレル販売の主役であった百貨店に、最近ある動きが起こった。東京都中央区の「日本橋三越本店」に「ビックカメラ」が入居するという。
このニュースを知って、「ついに老舗の“三越本店”にビックカメラが入るのか」と驚いた方も少なくないだろう。同店に入るビックカメラの売場面積は約1200㎡と、大した面積ではないが、重要なのはこれが単なる“穴埋め”ではないという点だ。
「ビックカメラが突破口となって、三越は今後有力チェーンストアや専門店を導入していく可能性もある。テナント売場と直営売場をミックスした新しい百貨店づくりに挑戦するのではないか」と前出の百貨店OBは話す。
そんな観測もあながち間違いでもないかもしれない。現在、ビックカメラに続くテナントの有力候補とみられるのが、ウエルシアホールディングス(東京都)だ。
化粧品専門店の「MASAYA(マサヤ)」を買収したり、化粧品強化型のドラッグストアフォーマット「B・B・ON(ビビオン)」を展開したりなど、ウエルシアHDでは化粧品を強化する動きが観測されている。仮に、三越が場貸し的な事業を強化していくのであれば、そのテナントとして「ウエルシア」の名が挙がる可能性はなくはない。
三越伊勢丹の元会長で、現・三越伊勢丹HD特別顧問を務める石塚邦雄元氏とウエルシアHD会長の池野隆光氏が昵懇の間柄であることも、業界では観測の根拠ととらえられている。石塚氏は「ただの飲み友達」と池野氏との事業上の関係を否定するが、業界では、「石塚さんは特別顧問に退いたとはいえ、三越伊勢丹HDの人事にもの言う一人」(業界関係者)ともいわれており、新たな売場づくりをめざすパートナーになる可能性はゼロではない。
アパレル販売の次の主役は?
こうした三越の方針転換の主因と見られているのが、かつての百貨店の核売場だった衣料品の衰退である。衣料品の不振は、長年続く百貨店の構造不況につながっている。
地方では、百貨店の苦境はより鮮明なものとなっている。2020年1月に、山形市の百貨店である「大沼」が山形地裁に自己破産を申請。2月には宮崎地盤の百貨店のボンベルタ橘がドン・キホーテに買収されることが決まった。
老舗アパレルメーカーが苦境に置かれ、かつてのように百貨店を支える体力がなくなっている。百貨店はモデルの転換を迫られており、それができない場合は買収や店舗閉鎖という憂き目にあう。
一方、百貨店と同じく構造不況に陥っているGMSも衣料品の苦戦が続く。従来の問屋マーチャンダイジングモデルからの脱皮をめざし、試行錯誤を続けているが、こちらも最適解がみつからない状況だ。
他方、GMSや百貨店からシェアを奪うように成長してきたユニクロ(山口県)は、海外事業こそ破竹の勢いで伸びているものの、国内では成長スピードが鈍化している。こうした背景もあってか、柳井正会長兼社長は「ECを本業にする」と宣言。グループEC比率30%をめざし、実店舗重視からEC強化に経営のカジを切る。
ユニクロは新時代で勝ち抜くべく、アパレルの枠組みを変えようとしているが、その過程には、実力をつけてきたワークマンのほか、D2Cやサブスクリプションといった「伏兵」も潜む。
今後もユニクロというジャイアント企業が君臨するアパレルの世界が続くのか。百貨店、そしてGMSの改革に光明はあるか。その答えがでる日はそれほど遠くないはずだ。