大手コーヒーチェーン タリーズコーヒーの好調ぶりが目立つ。2024年4月期実績は、売上が前年度比13.7%増、営業利益が33.2%と大幅な増収増益となった。2023年5月にコロナが5類に移行して以降人流が回復したことが大きなきっかけとなり、原材料の高騰による価格改定を実施した後も客数は落ちず、結果として客単価がアップし売上を押し上げている。好調の理由は何なのか。同社の取り組みと今後の狙いについて、タリーズコーヒージャパン(東京都/小林義雄社長)の秘書本部長 遊佐友博氏に話を聞いた。
店舗数拡大に向けて新業態の展開進める
2024年7月末現在、タリーズコーヒーは全国に796店舗を構える。
遊佐氏が「より多くの人にタリーズを体験していただくためには店舗数を増やしていく必要がある」と話すとおり、同社では現在、店舗拡大を目指して従来からのタリーズコーヒーのほかに新たに3つの業態を展開し、立地に合わせた柔軟な店舗展開モデルの構築を進めている。
2023年度も順調に出店を続け、新規出店は43店舗。閉店が18店舗あったものの増加数は25店舗で、今年度も新規出店が続く予定だ。
単純に店舗数で比較するとタリーズコーヒーの現在の796という数は、スターバックスコーヒー、ドトールコーヒーショップ、コメダ珈琲店に次ぐ4番手のポジションになる。
しかし遊佐氏は、「タリーズコーヒーは、コーヒー豆の生産から関わってコーヒーのおいしさを追求している店。今はそれに加えて、限定メニューを15種類以上揃える紅茶に特化した「&TEA(アンドティー)」、メニューを絞って駅ナカなど利便性の高い場所を中心に出店している「-SELECT-(セレクト)」、ドライブスルーを併設した郊外型店舗と、店舗にバリエーションをもたせている。出店先のロケーション、入居施設のコンセプトに合わせて展開できる業態が4つになったことで、出店の幅が広がった」と期待感を示す。たとえば、「&TEA」ができたことで、今までハードルが高かったショッピングセンターや百貨店といったアパレルフロアへの出店が可能になった。
さらに、幅広い世代からの人気を得て売上を牽引しているのが、シーズナルドリンクだ。とくに注力しているのが、「スワークル®︎」という名称で販売しているいわゆるフローズンドリンクである。「フローズンドリンクというとこれまでは夏限定というイメージが強かったが、最近ではショッピングセンターの館内は冬場でも暖かく、暑いくらいの所も多い。そこで、夏に限らず季節に合わせた限定商品を投入し、年間を通じてフローズンドリンクを販売したところ、ファミリー世帯の支持も集まり売上増につながっている」
さらに「季節限定商品は、親会社の伊藤園や全農とのコラボレーションを企画したり、もともと当社が実施している『タリーズ バリスタコンテスト』と連動させたりすることで話題性を集めている効果も大きく、集客につながっている」とのことだ。
「&TEA」を47都道府県へ
そもそもタリーズコーヒーがメーンターゲットとしてきたのは、20代後半から30代の女性。店舗づくりにおいてもコンセプトとして「カジュアル&コージー(気軽で居心地のいい場所)」を大切に、自宅でゆったりとくつろいでいるかのような空間を目指している。
そのターゲットとコンセプトはそのままに、紅茶とスイーツに特化した業態が「&TEA」で、すでに店舗数は32店舗(2024年7月末現在)まで拡大しており評判も高い。
「紅茶のバリエーションが多いのみならず、東京・代々木上原にあるパン店『Main Mano』のスイーツを置くなどスイーツメニューが豊富なのが『&TEA』の特徴。ただ、店舗はまだ少ないと考えている。より多くの方に知っていただくためにはまずは47都道府県への出店を、出店数としては50店舗を目標にしていく」
一方、タリーズコーヒーで提供しているメニューを絞り込み、従来店舗よりコンパクトな形で展開する業態が「-SELECT-(セレクト)」。現在6店舗を出店しているがこちらも拡大していく。また、郊外型店舗の出店が伸びていなかったことを受けて新たに加わったのがドライブスルーの機能で、現在8店舗(2024年7月末現在)がドライブスルー併設店となっている。
フランチャイズ展開を強化し新規出店を加速
新規出店をさらに加速させるため、今年度注力しているのがフランチャイズの強化だ。というのも、コロナ禍でフランチャイズ店舗の閉店が増え、近年は直営店の比率が高まっていた。これをコロナ前の比率に是正したいとの考えがあるからだ。
「当社は『地域社会に根ざしたコミュニティーカフェとなる』という経営理念を掲げている。地域のことを一番知っているのは、やはりフランチャイズオーナー。そのフランチャイズオーナーとWin-Winの関係を構築しなければチェーンの発展はないというのが当社の基本的な考え方で、長きにわたってフランチャイズオーナーと良好な関係を構築してきたことは大きな強みだと自負している」
フランチャイズ展開を22年進めてきた中で、20年間オーナー会を実施している。現在は、全国を7つのエリアに分け、年に2回オーナー会を開催し、オーナーとの関係を強固にするためさまざまな取り組みを進めているところだ。
「私の知る限り、オーナーとここまで密接に関わっているケースはないのではないか。トップ自らが出向き、店長と勉強会や懇親会を開催したり、豆の産地である海外農園の視察ツアーを企画するなどして良い関係を築いている」
DX、サステナビリティで改革進める
同社の今後について尋ねると、遊佐氏は「変革すべきところと、変えてはいけないところがある。とにかくコーヒーのおいしさでNo.1を追求するというこだわりはこの先も変えてはいけないところ。一方で、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の推進、多様な業態での出店促進、サステナビリティ経営の推進の3つは今後大きな変革が必要」と話す。
「Uber Eatsや出前館、モバイルオーダーなど、拡大してきたサービスを導入するだけでなく、それらをさらに効果的に推進するための新システムを導入するなど、新たなビジネスにつながるDX推進は進めていく。タリーズの魅力を広く知ってもらうために、新規出店を加速させることも必須」とした上で、「当社は、コーヒーの2050年問題を視野に入れて、早い段階から産地と共同でコーヒー豆の開発に取り組み、産地の労働環境や人権問題の改善などに関わってきた経緯がある。サステナビリティ経営という点においては、持続可能な社会を実現するために徹底して取り組み、企業としての責任をしっかりと果たしていかなくてはいけない」と力を込める。