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消費者自ら参加し運営する「生協」 株式会社にはない価値と弱点とは

一度は「生協」という言葉を聞いたことがあるだろう。正式名称は生活協同組合。大学を出ている人であれば生協が運営する学生用のコンビニがもっとも身近な物販店舗だし、私の母は生協病院という病院につとめていた。さらに、都内では生協という名前の宅配車輛が走り回っており、「一体、生協とは何屋さんなのか」と疑問を持っている人もいるだろう。今日は、この生協について私の分析を披露したい。

会社は誰のもの?

 生協の本質を見るためには、「会社は誰のものか」という問いに答えなければならない。株式会社は(諸説いろいろあるが、原理的には)株主、つまり、投資家のものである。そして、その投資家の期待は株価を上げたり配当金を増やしたりすることで投資家自身の資産を増やすことだ。だから、会社は果てしない努力と創意工夫をもって利益を追求してゆく。この競争に勝てれば市場でも競争優位を築くことが可能だ。

 しかし、「会社は株主のもの」と「利益追求」は、得てしてその構造上、パラドックス(矛盾)に陥る時がある。だから、製造業のデータ改ざんによる不良品の隠蔽、魚や野菜の相場があがれば、今のように物価も上がる。これを視点を変えて「会社は消費者のもの」となれば、赤字をだしてもフリーキャッシュフロー(FCF)さえポジティブであれば誰も困らないし、会社も潰れない。ここに生活協同組合という概念を理解するヒントがある。Wikipediaで生協について書かれたところを抜粋すると、以下のように書かれている。 

 生活協同組合(せいかつきょうどうくみあい、英語: consumers’ co-operative、略称:生協〈せいきょう〉、COOP〈コープ〉)は、一般市民が集まって生活レベルの向上を目的に各種事業を行う協同組合である。

  平たく言えば、株主の代わりに、その組織の活動に賛同するすべての利用者(消費者)が出資し、平等にオーナーになってもらうという意味だ。したがって、会社のオーナーが消費者である生活協同組合には大株主がいないのである。また、生活協同組合というのは、ビジネス用語でいえば「業態」のことを指しており、スーパーでも病院でもコンビニでもない。オーナーが消費者であるというこの一点につきるのだ。

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生協が生み出す「ブランド価値」とは

スイスでは最大の小売業の一つがコープだ(yuelan/istock)

 生協のこの特異なビジネスモデルはさまざまな作用(副作用含む)を生み、私の初版である『ブランドで競争する技術』でも大いに語られている。オーナーが投資家である株式会社のオーナーの目的が「利益追求であるのに対し、オーナーが一般消費者かつ利用者であれば、会社の事業目的は「消費者に向けられる(はずだ)」と多くの人が理解できるようになった。そこからいろいろな伝説やストーリーが生まれてきた。

 例えば、野菜が不作で全国的に価格が高騰していたとき、「生協で売られている野菜だけは価格を不作前と合わせていた」という話を聞いたことがある。これは聞いた話なので、本当のことなのか、そしていつのことなのかは残念ながらわからない。しかし「理屈上。生協であれば可能なことで、あり得る話だ」と感じられる。一方、株主の元で利益を追求しなければならない一般企業であれば不可能なことであっただろう。

 当然、生協運動を強く推進、賛同する人が資本主義の「資本家」側と距離を置きたがる傾向は、今も残っているだろう。逆に、直接は一切関係ないのだが、共産主義、社会主義のように、人を搾取する側と搾取される側にわけ、搾取される側に立ち変革を叫ぶ政治的イデオロギーと結びつきやすく、それらの主義・主張を持つ人達から称賛されることも副作用の一つだ。また、非資本家側ということで労働組合と生協は実際、連携の事例がある。

 資本主義の象徴とも言える「株式会社」というメカニズムはときに私たち消費者を騙し、儲け主義を優先させる。生協なら、その活動そのものがシステムとして消費者の方を向いているという意味で、一定の層にとっては「ブランド」なのである。

  こうしてできあがった単協(個別の生協)をとりまとめる役割として、日生協(日本生活協同組合連合会)というまとめやくがボトムアップでできあがったのだ。同じ食品を売るといっても、例えばイトーヨーカ堂が本社をつくり、店舗をあちこちに作っていったというのとは根本的なところで違っている。ボトムアップのヒエラルキーなのである。

 しかし、現実的にはイトーヨーカ堂やイオンなどの株式会社同士の熾烈な競争を勝ち抜いた小売企業の方が、消費者にとっては全体として「コスパ」がよい。簡単に言えば、消費者は同様のものを安く購入することができる。株主が利益追求しかしないので、コスパが悪くなるというのは幻想であり、実態は「競争に勝つためには徹底的な経営努力を行い、高いコスパを実現している」のである。利益追求型の人達がオーナーだから、品質を犠牲にしてでも利益最大化を狙うというのは過った考え方である。徹底的な経営努力がとくにイノベーションを起こしている。

 こういう背景から、熱心な生協組合員のペルソナ像は以下のような人達になる

  1. 学校の先生、公務員などいわゆる「堅実」「真面目」志向の人が多い
  2. 食品の安全性についてこだわる人が多い(生協に対する食の安全性の信頼は企業組織と比べて高い)。子育てをきっかけに利用を開始する人も少なくない
  3. とくに高齢者層の生活に溶け込んでおり、母から子へという流れで続いている

  株主が取締役を選び、取締役が事業をドライブする株式会社に比べ、生協は消費者自身が消費者のために運営する。しかし、目的だけでは「高いコスパ」や「イノベーション」は生まれにくいということなのだ(もちろん例外はあるだろう)。一方、その目的と特異性ゆえ、「生協」は大きな「ブランド」なのである。

 

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プロフィール

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

筆者へのコンタクト
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