メニュー

イオン北海道の青栁英樹社長が語る「規模の経済と地域密着を両立する」組織の作り方

北海道のスーパーマーケット(SM)、総合スーパー(GMS)市場は3陣営で占有率8割に達する超寡占化市場である。アークス(横山清社長)、コープさっぽろ(大見英明理事長)とともに「3極」を形成するのが、イオングループ。2020年3月、イオン北海道は同じグループのSM企業、マックスバリュ北海道(出戸信成社長)と経営統合し、さらなる事業基盤の強化、規模拡大を進める。業績好調に推移するイオン北海道の青栁英樹社長に、経営統合のねらいや今後の戦略を尋ねた。

道内3強時代を脅かす他業態の存在

あおやぎ・ひでき●1961年生まれ。83年、信州ジャスコ(現イオン)入社。2007年、同社マックスバリュ事業本部東北事業部長、08年、イオンリテール東北カンパニー人事教育部長等を経て、13年、同社執行役員北陸信越カンパニー支社長。14年、同社執行役員店舗構造改革チームリーダー、15年、同社デジタル推進リーダー。17年、イオン北海道取締役兼執行役員営業本部長。18年、同社代表取締役社長(現任)、19年、マックスバリュ北海道取締役(現任)。

──北海道のSM・GMS市場は、イオングループとアークス、そしてコープさっぽろがそれぞれ約25%ずつのシェアを持つ、3強時代となっています。青栁社長ご自身は、そうした状況をどう見ていますか。

青栁 三者鼎立の状況は当面、変わらないと見ています。アークスさんは、八ヶ岳連峰型のSM連合の形成を進め、全国的にも存在感を増しています。コープさんは、宅配事業「トドック」が道内では独壇場で、配送網をさらに拡大しています。三者の牙城を崩すことは、容易ではありません。とはいえ、楽観はできません。向こう3年ぐらいで北海道の食品流通市場が、様変わりすると見ているからです。三者を脅かすのは、既存GMSやSMではなく、むしろ他業態です。

──といいますと?

青栁 全国でも同様でしょうが、北海道でも、DgS(ドラッグストア)やCVS(コンビニエンスストア)が、食品市場での攻勢を強め、GMSやSMのパイを奪っています。たとえば、北海道のDgSの2強であるツルハホールディングス(堀川政司社長)さん、サツドラホールディングス(富山浩樹社長)さんは、食品売場を拡大し、CVSは今まで手薄だった冷凍食品売場を強化しています。

 さらにリアル店舗は、ネット通販の攻勢にもさらされています。ECの食品流通は、これまでドライグロサリーが中心でしたが、「アマゾンフレッシュ」に代表されるように、これからは生鮮食品でも、ECがリアルのGMSやSMと激突するでしょう。

食を含めた「ヘルス&ウェルネス」を強化する

──そうしたなか、競合各社を、どのように迎え撃とうとしているのでしょうか。

青栁 当社では、グループの経営リソースを最大限活用しながら、他業態も含めた競合に負けないように、商品政策(MD)をテコ入れしているところです。

 具体的には、「ヘルス&ウェルネスの強化」を掲げ、DgSの向こうを張って、医薬品や美容用品に注力しています。北海道は、全国に比べて高齢化が顕著です。「健康寿命」の伸長が、官民共通の大きなミッションで、そうした地域ニーズに応えていかなければなりません。ただし、ヘルス&ウェルネス分野は、医薬品や美容用品だけでは完成しません。人間は、「食べること」ができなければ、「生きること」ができないから、食品の強化が重要なのです。

──では、その食品はどのように強化しますか。

青栁 GMSは、食品の地域一番店をめざします。つまり、幅広いニーズに対応できる品揃え、売場にするということ。たとえば、ヘルス&ウェルネスの実現のために栄養価の高い食品、おいしさや鮮度といった価値訴求型の食品も投入します。またCVSに対抗するために、総菜の品揃えを充実させ、高まる中食需要も取り込みます。その一方で、札幌などの都市圏では、小型SMの「まいばすけっと」も育成しています。家から近いという利便性とともに、リーズナブルな価格を打ち出しています。

経営規模の追求と地域密着を実現する!

──そうしたなかイオン北海道は20年3月、マックスバリュ北海道と経営統合する予定です。経営統合に先立って、すでに両社の食品部門を統合されたそうですが、どのようなシナジーが、期待できますか。

青栁 すでにマックスバリュ北海道とは、共同で商品の仕入れや開発を行っていますが、そうした取り組みがよりスムーズに進むようになるでしょう。当社は翌21年、プロセスセンターを開設する予定ですが、マックスバリュ北海道とともにこれを利用すれば、効率が高まります。また、マックスバリュ北海道は、食品売場の運営が得意です。当社がそのノウハウを導入すれば、人手不足のなか、オペレーションの効率化に役立つでしょう。半面、SM企業のマックスバリュ北海道にとっては、当社のヘルス&ウェルネスのノウハウが生かせるはずです。さらに、当社は、財務基盤が強固ですから、出店意欲旺盛なマックスバリュ北海道の投資需要を満たすこともできます。

生鮮食品ではマックスバリュ北海道との間で共同仕入れを行い、産地との関係強化、鮮度向上をねらう。写真の釧路産パプリカはグローバルGAP認証商品だ

──GMSとSMでは「同じ食品売場でもMDが異なるので、経営統合してもシナジーが少ない」といった見方もあります。

青栁 そこは、マックスバリュ北海道とすでに議論済みです。簡単に言えば、MDを2段構えにしたのです。食品部門の組織は、まず、食品の仕入れや開発などを担う商品部を、カテゴリー別に一本化しました。これをしなければ、スケールメリットが得られません。

 その一方で、商品部の各グループにMDを担う統括マネジャーを配置し、エリアのMDを踏まえたうえでGMS、SMをそれぞれサポートする体制にしました。各店に最適の品揃えを実現することがねらいです。それに合わせて、棚割りも、全店統一のプロトタイプをベースとして、各店舗の商圏状況などに応じて調整する仕組みにしました。たとえば、GMSとSMは、プライシングが違うと言われますが、必ずしもそうではありません。札幌・円山エリアにあるSMでは、高級食材もよく売れます。結局MDは、個店対応が極めて重要なのです。カテゴリーとエリアのマネジメントを組み合わせることで、相反する「経営規模の追求と地域ニーズへの密着」を、両立したいと考えています。

住関連も衣料品も好調な理由とは!?

衣料品、住関連品が好調なのは、地域に合ったMD、商品開発が進んでいるため。イオン北海道限定でコールマンとタッグを組んだ商品などが並ぶ

──興味深い取り組みですね。ところで、イオン北海道も、すでにEC事業を進めていますが、手ごたえはいかがでしょうか。

青栁 売上高は、18年度に比べれば、2倍以上に伸びています。今後も、EC事業の拡大を図ります。とりわけ、力を入れたいのが地場の生鮮食品です。北海道ブランドの生鮮食品は、全国的にも人気があり、ECなら道外にも拡販しやすいからです。生鮮食品は、「自分の目で確かめたい」という要望が強いのですが、「イオンの店頭と同じ食品なら、ECでも安心」という長所もあります。その一方、ECでは、商品をネットで注文して最寄りの店頭で受け取る「クリック&コレクト」の機能も重要です。マックスバリュ北海道の店頭でもクリック&コレクトがスタートできれば、それも経営統合の利点の一つになるでしょう。

──全国的にGMSの非食品部門は大苦戦中ですが、イオン北海道は例外です。19年2月期上期実績で、衣料品、住居関連部門とも既存店ベースでプラスとなりました。その秘訣は何でしょう。

青栁 ここ3年ほどで、地域ニーズをきめ細かくフォローできるようになったからだと見ています。北海道では、衣料品や住関連のニーズは天候、とりわけ、降雪に大きく左右されます。たとえば、衣料品は、本州と違って、春夏物は7月までに売り切り、秋冬物を8月までに揃えなければなりません。天候にフィットした商材を機動的に投入できるかどうかが、勝負の分かれ目になるわけです。そこで、メーカーさんとタッグを組んで、イオン北海道専用商品の開発をアパレル等で進めており、その成果が着実に出ている格好です。

──では、経営統合後の投資計画を教えてください。

青栁 物流センターの建設費なども含めて、年間では100億円規模を予定しています。店舗への投資は、GMSの大型改装が中心になるでしょう。GMSは、グループのアンカーとして5年先、10年先も、地域一番店であり続けねばなりません。人口減少下では、大型店は一番店しか勝ち残れないからです。その一方、SMは年間数店舗のペースで新規出店する見込みです。

──経営統合後の業績は、どのようになると予想していますか。

青栁 当社とマックスバリュ北海道を合わせた売上高は直近では3200億円以上、食品売上高は1800億円以上となる見込みです。イオングループでは統合後の地域子会社の売上として5000億円を目標としていますが、25年に向けて近づけ、また規模だけでなく、キャッシュフローや営業利益といった質も重視します。財務のバランスが取れ、再投資と持続的成長が可能な企業をめざしていきます。

イオン北海道会社概要

設立 1978年
本社所在地 札幌市白石区
代表者 青栁英樹
売上高 1857億円(19年2月期)
営業利益 営業利益82億円(同)
店舗数 78店舗(うちまいばすけっと37、イオンバイク1)