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沈まぬアパレルその6 逆風に立ち向かう! カジュアル衣料チェーンの生き残り策

アパレルチェーンの多くが長引く不況から抜け出せない中、逆風に立ち向かい健闘を続けている企業も存在する。その代表格が、「ローリーズファーム」「グローバルワーク」などを展開するアダストリア(東京都)、「アースミュージック&エコロジー」を主力ブランドとするストライプインターナショナル(岡山県:以下、ストライプ)である。

アダストリアとストライプ、堅調の背景にあるのは?

 アダストリアが公表している2020年2月期の通期業績予想では、売上高は対前期比1.0%増の2250億円と微増に留まるが、営業利益は100億円と前期比39.1%増となる見通しだ。同社は19年2月期も同43.7%増の71億円と大幅増益を果たしており、2期連続で営業利益を大きく伸ばすことが見込まれる。

 ストライプはアダストリアとは異なり非上場企業であるが、企業サイトで公表している電子広告を見てみると、19年1月期の単体売上高は914億円と微減収だったものの、営業利益は3億円と黒字化を果たしている(前期の15億円の営業赤字)。

 両社の業績改善の主要因は、在庫を最適化することで、値引きによるロスをコントロールできたことにある。この取り組みはいわゆる「在庫の適正化」であるため、売上高は伸びないものの、顕著な利益改善効果が見られている。

 ストライプの石川晴康社長は、「ダイヤモンド・チェーンストア」誌のインタビューで、「これからのアパレルの生き残りのキーワードは『AI』、『EC』、『東南アジア』の3つである」と指摘している。ストライプの19年1月期業績で、営業利益が大幅に改善したのも、AIによる在庫最適化によるところが大きいと見られる。

 ストライプは18年から主力ブランドの「アースミュージック&エコロジー」でAIによる在庫最適化の検証を行っている。同社によれば、これによって値引き率が改善され、建値消化率がアップしているとのことだ。

 前出のインタビューで石川社長は「当社のようにショッピングセンター(SC)に店舗展開し多くの在庫を抱えるアパレル企業は(AIの)効果が期待できる」(石川社長)と発言しており、2020年1月期から全ブランドにAIによる在庫の最適化を展開していくとしており、さらなる利益改善効果が期待される。

AIがアパレルを救う!?

 アパレル企業の多くはこれまで、「経験と勘」に依存した経営を是としてきた。需要予測、在庫管理など、アパレル経営にとって重要な局面における判断が経験則、ときには勘頼みで行われてきた。

 これにより、少なくない企業が過剰生産、そして過剰在庫となり、増えた在庫をバーゲンで販売。その結果、大赤字に陥るというケースが半ば常態化してきた。しかし最近は、AIの技術進歩によって、需要予測や在庫管理を機械的・システム的に実行できるようになってきている。

 ただ、ストライプの石川社長は、AI活用による在庫適正化は「消えそうな線香花火のようなもの」と見ており、AIバブルは長続きしないと言い切る。しかしそれでもアパレル企業が従来の構造から抜け出し、新たなビジネスモデル構築に向けて一歩踏み出した意義は大きい。

 一方のアダストリアは、「店頭起点の小売型SPA」(SPA:製造小売業)という方針を15年から掲げており、モノづくりから販売まで一体化させる垂直統合型のビジネスモデルに変革すべく改革に取り組んでいる。前期からは、主力ブランドにおいて「適時、適量、適価」の徹底による値引き販売の抑制を推進しており、これによって20年2月期の上期業績では粗利益が前年同期と比べて2.3ポイントも改善している。

 人口減少に伴う市場縮小やファストファッションの台頭などを背景に、従前のような大型ブランドを開発・育成するハードルは高い。こうした仕組みの見直しによる収益改善は不可欠となっている。

 在庫コントロール、値引き販売の抑制などでねん出した原資を、EC事業拡大や海外展開に振り向けているのも両社の特徴だ。アダストリアの20年2月期上期における国内EC売上高は、全体の19.4%を占めるまで成長しており、新たな収益柱として着実に育っている。ストライプも19年1月期のEC化率は10%に到達しているという。また、ストライプはファッションレンタル「メチャカリ」が黒字化を達成したほか、ECプラットフォームを提供する「ストライプデパートメント」も取り扱いブランドが1000を超えるなど、アパレル販売以外の分野への投資が収穫期を迎えつつある。

 事業構造の変革にカジを切ることで、逆風下でも健闘を続けるアダストリアとストライプ。次はどんな新しいサービス、分野、ビジネスに踏み出していくのか――。(次回へ続く)