前回の記事で、「カルビ丼」と「スンドゥブ」のファストカジュアルチェーン「韓丼」が郊外ロードサイドで勢いを増していることをレポートした。こうした業態はいまや外食チェーンのトレンドになっており、2024年もこうした店舗が展開していくと筆者は予想している。ここで改めて整理しておきたいのが、「ファストカジュアルとは何か」という点だ。
4000円の“焼肉の味”をワンコインで提供
「ファストカジュアル」とは、ファストフードに似た形態の飲食店で、カウンターサービスを基本としており、接客の要素は少ない。メニューはカジュアルレストラン(ファミリーレストランとディナーレストランの中間の位置づけで、客単価は2000~5000円ほど)のクオリティで、専門性が高く、注文を受けてから調理を開始する「クックトゥオーダー」を基本とする。店舗空間は35~40坪程度で、それほど狭い印象はない──ざっと、こんな感じだ。
ファストカジュアルの事例として、外食大手の物語コーポレーション(愛知県/加藤央之社長)の事例を紹介したい。
物語コーポレーションといえば、食べ放題の焼肉チェーンである「焼肉きんぐ」を郊外ロードサイドで積極出店していることで有名だ。2023年12月22日現在、店舗数は315店舗。2023年6月期の連結決算では売上高922億円を稼いでいて、そのうち「焼肉部門」は488億円と52.9%を占める。
物語コーポレーションは2021年8月にファストカジュアルの位置付けの「焼きたてのかるび」の1号店を愛知県豊橋市にオープン。2023年12月末時点で、店数は14店舗まで増えている。2号店を出店したのが2022年3月であり、約20カ月で現在の陣容をつくったことになる。2023年12月には3店舗をオープンするなど、急ピッチな出店で勢力を拡大中だ。
「焼きたてのかるび」の開発の経緯と展望について、物語コーポレーション焼きたてのかるび事業部長の笠原浩揮氏を取材したので、以下に紹介していこう。
業態開発の経緯について、「通常、焼肉店で食事をすると、会計金額は4000円ほどになる。このような店の“焼肉の味”をワンコインで提供できたら革命的ではないか考え、業態設計を進めていった」と笠原氏は振り返る。
「焼きたてのかるび」のメインターゲットは30~40代の男性だ。ただ、メニューのラインナップは女性でも注文しやすいものを意識したという。目をつけたのがスープだ。「焼肉店では定番の玉子スープが候補に上がったが、『これでは弱い』と。そこで焼肉店らしく、ごちそう感のある『ユッケジャンスープ』を焼肉に次ぐ名物商品に育てたいと考えた」(笠原氏)。「焼きたてのカルビ丼(並)」はコンセプトどおりに税込490円(オープン時の価格、現在は税込550円)とし、そのほかに焼肉定食や盛岡冷麺など品揃えにバラエティを加えていった。
開店し、オペレーションが整うようになってからは、牛タン丼や牛ハラミ丼などの「特選丼」もメニューに加える。店舗ブランドが認知されるにつれて客単価は上昇傾向にあり、当初想定の750円から大きく上ブレし、現在は850~900円(税抜)で推移しているという。
2~3㎞商圏のお客にリピートしてもらうには
焼きたてのかるび事業部長の笠原氏は次のように語る。
「『焼きたてのかるび』はファストフードに近い商売だが、『物語コーポレーションらしさ』も表現していきたい。小さい店ではなく、カジュアルレストランの居心地のよさを感じさせる適度な広さ。オープンキッチンで従業員がてきぱきと働いている様子を見せることで安心感を抱いていただく。あるいは、キッチンからお客さまに爽やかにお声掛けをする。このような取り組みで、当社らしさを表現していく」
焼きたてのかるびでは、店舗面積35坪~40坪を標準とし、20台の駐車場を含めて敷地面積は300坪。月商は900万円を想定する。
出店は、同社の「焼肉きんぐ」「寿司・しゃぶしゃぶ ゆず庵」と同様に郊外のロードサイドを中心だったが、「これまでのノウハウがあまり通用しない」(笠原氏)という。
「『焼肉きんぐ』は人口15万人を商圏とするのに対し、『焼きたてのかるび』の商圏は5万人ほど。つまり、「焼肉きんぐ」の3倍は店舗をつくることができる。1店舗当たりの利益額は『焼肉きんぐ』の方が圧倒的に高いが、3倍の店数を出店することで『焼肉きんぐ』に近い利益額を稼ぐことができる。
これまでの事業展開で見えてきた「焼きたてのかるび」は“適地”は、ロードサイドの中でも住宅街が近接するエリア。この立地でテイクアウト45%、イートイン55%の構成比だとういう。ちなみに「焼きたてのかるび」では現在、「岡崎北店」「千葉弁天店」「清水春日店」「座間立野台店」の4店舗でドライブスルーを併設している。このタイプの店舗では、テイクアウトを目的とするお客がドライブスルーに流れ、岡崎北店ではドライブスルーの利用率が25~30%ほどで推移している。いずれにしろ、テイクアウトに強い業態と言えるだろう。
「焼きたてのかるび」は今後の展開について、笠原氏は「5年間で100店舗体制をめざす」と話す。オペレーションはアルバイトがメインで、1店舗当たりの社員数は1~2人となっている。「ただ、効率化を進めていくと、専門性の実現が難しくなる。何かをプラスしたら何かをマイナスしなくてはならない。専門性も重要だが、標準化や簡素化も重要だ」(笠原氏)。専門性が高いフードを値ごろな価格で提供するためには、トレードオフが必要というわけだ。
「焼きたてのかるび」の店舗から2~3圏内の住民を主要顧客としており、今後の成長にはリピートをどう高めていくかが重要になる。「メニューをころころ変更するのではなく、期間限定商品のアピールに力を入れている。夏季に発売した『すだち冷麺』は非常によく売れた」(笠原氏)。「焼きたてのかるび」は「焼肉きんぐ」に並ぶ成長業態となるか。物語コーポレーションは確かな手応えを感じているようだ。