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「ブルーノート」での演奏体験も!コト売りで業績伸ばす島村楽器の戦略とは

2年連続で過去最高売上を更新した島村楽器(東京都/廣瀬利明社長)。ECでの販売強化、人材育成、音楽教室拡大の3本柱で、経営を盤石にしてきた。店舗に委ねられていた人材育成を一新、楽器別の資格制度や階層別の研修制度を導入することで従業員のスキルアップを図っているほか、各地のニーズに合わせた音楽教室の開校、サントリーホールやブルーノート東京でのイベントを通して、顧客の心を掴んでいる。

人材育成を現場任せにせず会社で体系化

音楽教室でのレッスンの様子

 島村楽器には、創業者から受け継がれる哲学として「モノの前にコトを売り、コトを売る前に人を売る」という言葉がある。「たとえばギターが欲しいお客さまは、モノとしてのギターが欲しいのではなく、友人とバンドを組みたい、学園祭のステージに立ちたい、YouTubeで演奏を配信したいなど、やりたいコトがある。それを探って最適な楽器を提案するのが私たちの役割であると考えている」(廣瀬社長)

 この哲学は「ドリルを買おうとしている人は、ドリルが欲しいのではなく、穴を開けたいのだ」というセオドア・レビットのドリルの穴理論に通じる。島村楽器では設立当初からソフト主導型の経営を柱として「音楽を楽しむ人を一人でも多く創る」ことを追求し続けている。しかし、それだけでは従業員の能力に頼るところが大きいように思え、むしろサービス提供面での課題となるようにも思える。「ある意味、人任せ、つまり現場任せになっていた側面は否めない」と廣瀬社長は振り返る。熱心な店長の下に配属されるスタッフは成長するものの、指導があまり得意ではない店長の下ではあまり人が育たない。そこで2つの打ち手を講じたという。

  1つ目は販売スタッフに対して楽器別の専門性を育成するための資格制度だ。食品スーパーなどでワイン、チーズといったジャンル別の資格制度の導入が増えていることを参考に、ギター、ピアノ、バイオリン、管楽器など、それぞれの楽器について、専門性の高い試験問題を社内で作成した。各楽器二段階の試験を段階的にパスする必要があり、社内の専門的な商品研修を受講するためには例えば初級試験の合格を条件にするなど、資格制度と社内研修制度もリンクさせられるようになった。廣瀬社長は「ギターだけに詳しかった販売スタッフがバイオリンを勉強して、自信を持って接客できるようになったり、逆もまたしかりという現象も見られた」と話す。

  2つ目は営業マネジャー、店長、副店長といった階層別の研修制度だ。研修そのものは以前から実施されていたが、単発的になりがちなことが課題だったという。それをあらためて、受講が必須となる資格取得講座や研修プログラムを体系化した。「たとえば営業マネジャーになったら、社内だけでなく、グロービスのMBA講座でマーケティングを学ぶなど、明確な研修カリキュラムを設定した」(廣瀬社長)。教育を現場任せにするのではなく、会社として1本筋の通った研修体系を作り、総合的に底上げしていく体制を整えた。

すべては「音楽を楽しむ人を一人でも多く創る」ため

サントリーホール開催された「YOUR STAGE」の様子

 島村楽器の人材登用は実力評価で、新卒社員も48年にわたって毎年採用しているが、アルバイトとして入社し、契約社員、社員と雇用形態が変わり、店長を任せられるケースも多い。現在の店長も半数がアルバイト出身で、役員に登用されている人もいる。店舗での販売実績を公平に評価する制度が根付いている証明といえるだろう。しかし、実力評価の負の側面として、ピアノや高級ギターなど高額商品の販売にばかり力を注ぎ、音楽教室の運営に熱が入らないスタッフも一定数いたという。

 「音楽教室というのは利益率が高く、店舗の業績、会社の経営という視点で見るとメリットが大きい。毎週レッスンに通っていただける生徒さんは非常に大切なお客さまで、その方たちをしっかり増やしていくべきなのだが、一部スタッフにその意識が足りていなかった面があった。売場が広すぎるために営業効率が悪くなっている店舗もあり、音楽教室のニーズを調べてみると、生徒さんをもっと増やせる店舗が十数拠点あった。それで売場を縮小して音楽教室に使うスペースを確保し、指導する先生を採用して開講すると、かなりの成果をあげることができた」(廣瀬社長)

  前編で詳細したECでの販売強化に加え、人材育成、音楽教室の拡大。3本の矢を放ち、さらに強い企業として経営体制を整えているように見える島村楽器。ECで購入した楽器の相談に店舗を訪れ、専門知識を備えた販売スタッフに相談する、演奏の上達のために音楽教室に通う。このような流れも思い描ける。ECによる購入割合は非公開で、数字は明らかにできないものの、2桁を超えているそうだ。今後さらに成長していきそうな気もするが、廣瀬社長は「ECの比率が高ければ高いほど良いかというと、そうではない」と言う。店舗でのリアルな接客を通じて、最初から間違いのない楽器選びができることは、島村楽器ならではの大きな魅力であり強み。「全国に店舗があるので『オンラインで買ったけれども、ちょっと困りごとがあるので、店舗に持って行って相談したい』といった使い方を積極的にしていただければ」(廣瀬社長)

 島村楽器の取り組みは、そのすべてが「音楽を楽しむ人を一人でも多く創る」ため。子どもの成長にあわせてサイズアップしていくバイオリンなどクラシック楽器のレンタル、ギターの上達をサポートする月額制の動画配信サービス『ギターセンパイ』の提供などのほか、音楽教室の生徒がサントリーホールなど一流のホールで演奏を披露できる『YOUR STAGE』(ユアステージ)やブルーノート東京でジャズライブができる『Swing Dream』といったイベントも企画・開催している。今後の展開について、廣瀬社長は「新しい事業を始めるにしても、やはり音楽に関係したもので、お客さまのニーズにしっかりお応えできるものを作っていきたい」と話しており、これからの取り組みも注目される。