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実録!働かせ方改革(2) 働くママが7割の職場、“仲良しコンビ”を組んで残業大幅削減

働き方改革が進み、ブラック職場撲滅を進める世の中の動きが進む。こうしたなか本シリーズでは、部下の上手な教育、働きがいのある職場環境の提供を通じて、業績を改善する、“働かせ方改革”に成功した具体的な事例を紹介する。いずれも私が信用金庫に勤務していた頃や退職後に籍を置く税理士事務所で見聞きした事例だ。諸事情あって特定できないように一部を加工したことは、あらかじめ断っておきたい。事例の後に「ここがよかった」というポイントを取り上げ、解説を加えた。
今回は、働き方改革の一環として残業を大幅に減らした医療クリニックを紹介しよう。その秘訣は何か…。そこに焦点を合わせた取材を試みた。ぜひ、参考にしていただきたい。

Photo by tdub303

第2回の舞台:医療クリニック

(理事長以下、医師7人、看護師40人、事務スタッフ11人)

 

2人1組で仕事することで、互いの都合をカバーし合う

 午後3時半、30代半ばの田口が、横に座る吉本に声をかける。

  「お先に失礼させてね。後はお願いね…」

  「心配しないで。じゃあ…気をつけて」

 その後、吉本は2時間程の残業をした。給与計算の確認作業なのだが、実は2人で今日中に終えるはずだった。だが、田口は子どもが通う小学校に行く用事があるためにこの日残業ができない。そこで、コンビを組む吉本が代わりに対応することになった。

 総務課は課長以下、計4人。課長を支える係長の下に田口と吉本がいる。2人はほぼ同じ仕事をする。課長の判断で、分量、難易度、納期なども同じようになっている。

 2年前、理事長の指示により、クリニック内の12の部課でこのようなコンビをつくるようになった。常に同じ内容の仕事をすることで、欠勤や休暇、休業、遅刻、早退などに迅速に対処できるようにするのが狙いだ。育児との両立をする女性が全職員の7割を超えることや、残業時間を減らし、有給休暇の消化率を上げるためでもある。採用力強化を念頭に置いたものとも言えよう。

 田口と吉本は年齢がほぼ同じの女性で、総務課に配属されて共に4年目。それ以前は、田口が経理課、吉本は秘書課にそれぞれ数年いた。2人とも20代半ばに中途採用で入社し、後半で結婚し、30歳前後で出産した。経歴が似ていることもあり、 “仲良しコンビ”と言われている。

 同じセクションとはいえ、1つの仕事をほぼ同じスピードで、進め方ややり方で取り組むのは難しい。だからこそ、2人の呼吸が合わないと混乱する場合がある。実際、ほかの部課のコンビは半年程で解消したケースもあった。その場合は、ほかの人と組んで、再結成するようにしている。中には、再々結成のコンビもある。

 総務課3人(課長を除く)の残業は、2年前は月平均が35時間程。現在は、約15時間に減った。クリニック全体では、月平均は約35時間から、 20時間程になっている。

 

相性が合うまで、コンビを変え続けるのも重要

 今回の大きなポイントは2人がコンビを組んで仕事をするところにあるが、この事例から私が導いた教訓を述べたい。

ここがよかった①
コンビを組んで効率化を図る

  残業を大幅に減らすには、何らかの仕組みをつくる必要がある。個々の社員に「残業を減らすように」と指示をしたところで、限界がある。それぞれがバラバラに取り組むのではなく、組織として力を注ぐのが大事なポイントだ。今回の事例は、そのヒントになりうるものだろう。2人がほぼ同じ仕事を同一の進め方ややり方で対応するから、何かがあったときに互いが「代替」となり、お互いの時間を融通し合うことができる。

 残業を大幅に減らそうとする場合、可能な限り、同じ仕事をするコンビをつくることだ。その繰り返しで、やがては社内にコンビを組む人たちが増える。このような人たちが増えるほどに、業務の共有化や効率化が進み、残業だけでなく、有給消化や休業、退職などへの対処にも迅速にできるようになる。職場の雰囲気もよくなっていくのではないだろうか。労働生産性の向上にもつながるはずだ。

 

ここがよかった②
相性が合うまで、組む相手を変え続ける

 コンビを組む場合、互いの性別や年齢、入社年次、仕事の経験、仕事力などがある程度、バランスが取れているのが望ましい。さまざまな事情で上手くいかない場合、組む相手を変えて、新たに試みるべきだ。継続することが、大切なのだ。その姿勢がブレていなければ、いずれは社内に業務効率化の文化が浸透し、コンビを組んで仕事をしようとする風土になる。

 2人で同じ仕事をするならば、意識し合い、支え合いながらも刺激になり、いい意味で競い合うようにもなるかもしれない。少々の意見の違いなども生じるだろうが、意識は高まっていくはずだ。これもまた、大切なことだろう。本来、会社員は組織人なのだから、常に共有の意識を持ち、力を注ぐべきなのではないだろうか。

 

神南文弥 (じんなん ぶんや) 
1970年、神奈川県川崎市生まれ。都内の信用金庫で20年近く勤務。支店の副支店長や本部の課長などを歴任。会社員としての将来に見切りをつけ、退職後、都内の税理士事務所に職員として勤務。現在、税理士になるべく猛勉強中。信用金庫在籍中に知り得た様々な会社の人事・労務の問題点を整理し、書籍などにすることを希望している。

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