「グローバルワーク」「ニコアンド」などカジュアルファッションブランドを展開するアダストリア(本部・東京都)。アパレル業界全体がコロナ禍から回復基調にある中、同社の好調ぶりは際立っている。昨年9月には、「フォーエバー21」のライセンスビジネスに乗り出したことでも話題となった。木村治社長に好調の秘訣や、直近の施策のねらい、今後の戦略について聞いた。
3つのアプローチで売上総利益率を改善へ
――アダストリアの2023年2月期決算は、売上高が対前期比20.3%増、営業利益同75.4%増と期初予想を大きく上回って着地し、売上高はグループ連結で過去最高となりました。
木村 3年前の2020年春、新型コロナウイルスの感染拡大が本格化した時期に、もともと組んでいた成長戦略をコロナ禍に対応する形でアップデートしました。結果として、22年2月期で黒字回復、3年目の23年2月期で成長軌道を回復し、成長戦略で描いていたスケジュールどおりに推移したと振り返っています。
――先の読めない環境下で、計画通りに回復を果たせた要因は。
木村 一概にはいえませんが、まずはコロナが一段落して、お客さまの消費意欲が戻ってきたことは大きな要因です。全国に約1200店舗をかまえるリアル店舗の売上も、23年2月期は既存店ベースですべての月が前年を上回り、通期で12.4%増となりました。
加えて、自社ECサイトの「ドットエスティ」を中心とするWebストアの売上が好調でした。23年2月期の国内ECの売上高は626億円(対前期比8.9%増)で、直近の会員数は1600万人と一気に伸びました。
――そのコロナ禍のさなかの21年5月、副社長から社長に就任しました。
木村 オーナーの福田(三千男・現代表取締役会長)も代表権を持った形で会長に残ったので、実質的に2トップの経営体制を敷いています。成長戦略のアップデートも、コロナのまっただ中、誰もいないオフィスで福田と話し合いながら練り上げたものです。この大変な時期に、迷いのないスピード感のある意思決定ができたわけですが、私自身も改めてオーナー企業の強みを感じました。
――中期経営計画(22~25年度)では、売上総利益率の向上を定量目標の一つに掲げています。
木村 当社は在庫管理の精度については絶対の自信を持っています。その強みをベースに、大きく3つのアプローチで売上総利益率の改善を図っています。
第一に、価格の見直しです。ただし、定番商品も含めて一律に値上げをしたのではありません。今のお客さまはECでの買い物にも慣れ、高い消費リテラシーを持っているので、品質の変わらない商品の価格を上げてもすぐ見抜かれてしまいます。あくまでもいい素材を使い、価値ある商品を提供し、それに見合った価格設定をしている、ということです。
第二に、コスト面においては製造ラインのアセアンシフトを強化しています。現状のアセアン比率は20%弱ですが、今後は50%くらいをめざし、スピーディに進めています。私も毎年必ず、生産本部のトップと一緒にベトナムやカンボジアの工場を訪問し、自分の目で現場を見てまわっています。
第三に、「適時・適価・適量」のさらなる徹底。値引きの抑制も、最近ではディベロッパーが小売にセールを任せるようになってきているので、私たちのコントロール下で改善が進んでいます。
マルチブランドでポートフォリオを最適化
――売上総利益率とともに、販管費の抑制も定量目標に掲げています。販管費はアパレル業界に共通する課題でもありますが、どう改善を進めていますか。
木村 中期経営計画にも示していますが、当社では、50を超えるブランド群を収益型・成長型・独立型の3つのグループに分類しています。したがって、販管費に対する戦略は一律ではなく、グループごとに変わってきます。
例えば成長型の新規ブランドに関しては、ある程度販管費をかけてでもブランドとして認知させることが優先されます。一方、収益型に関してはある程度認知度があるので、販管費を抑えながら収益を確保していく必要があります。
具体的には、最大の柱として500億円規模の「グローバルワーク」があります。次に200億円以上の「ローリーズファーム」「ニコアンド」「スタディオクリップ」がある。これらの基幹ブランドだけで1000億円以上はあります。ここであまり横ぶれしないようにベースを確保しておけば、ある程度リスクをとって成長型のほうに投資することができる、という考えです。
――基幹ブランドが確立されているからこそ、マルチブランドでポートフォリオを組みながら、全体として販管費を最適化する戦略がとれるのですね。
木村 かつては、「マルチブランドは効率が悪い」と多くの批判を受けた時期もありました。しかし、結果的にこのマルチブランドが今のアダストリアの強みになっています。
「店舗数×売上」で成長できる時代ではない
木村 「グローバルワーク」のような基幹ブランドはある程度店舗数を増やす必要がありますが、ブランドによっては店舗数を増やすことがかえってブランドを毀損することにもなります。
そもそも、前提として「店舗数×売上」でリニアに成長していける時代ではないのではないか、と考えています。
――ECが重要な成長戦略になると。
木村 そうです。極論をいえば、ECだけで売れるのが最も効率はよいです。一方で「アダストリアの強みとは何か」という問いを突き詰めると、リアル店舗があって、そこにスタッフがいるということに行き着きます。だからEC単体で考えるのではなく、常に「リアル×EC」を軸にして考えています。
当社には、スタッフのスタイリング投稿が閲覧できる「スタッフボード」があり、全国の店舗にいる約4000人のスタッフが日々、思い思いのスタイリングを動画や写真で日々投稿しています。
リアル店舗というベースがあるからこそ、ショップスタッフの存在が強力な「コンテンツ」となり、ファンを獲得して、結果としてECでの売上が上がっているわけです。
――今後のECの成長イメージを教えてください。
木村 現状の国内EC売上が626億円で、中期経営計画では800億円を目指しています。その目標に向けての投資も、情報システム、物流、人材育成と毎年のように継続しています。投資にゴールはないですね。