国内を代表するカジュアル衣料専門店といえば、ファーストリテイリング(山口県)、しまむら(埼玉県)の2社だろう。ファーストリテイリングの国内ユニクロ事業の勢いは鈍化傾向にあるものの、海外ユニクロ事業、とくに中国を中心とする「グレーターチャイナ」は成長を続けている。一方のしまむらは客数減に苦しんでおり、海外展開もスローペースであることは否定できない。両社の差はどこにあるのだろうか。SPA(製造小売)と仕入れの違い、など多々あるだろうが、本稿では、店頭起点で両社の差が出た理由を論じてみたい。
2社の差は「現場力」にあり!?
結論から述べると、ユニクロ(ファーストリテイリング)としまむらの2社の大きな違いは、「現場の従業員を生かし切れているかどうか」という点ではないだろうか。つまり、「現場力」だ。
個人的な経験から出た意見だが、ユニクロの店舗で「こういう商品が欲しい」とリクエストすると店員が即座に店内を探してくれる。試着室での対応もよい。最近導入が進められているセルフレジを使う場合も、懇切丁寧に操作方法を教えてくれる。
もちろん、「そんなことはない」という感想をお持ちの方もいるだろうが、“つかず離れず”、的確にサポートしてくれるというのが筆者の印象だ。
これに対してしまむらでは、試着をしようとしても、「こちらの試着室が空いています」と案内されることは少ない。それ以前に、売場内の従業員の数が少なく、接客にそれほど力を入れていない印象を受ける。徹底したローコストオペレーションによって店舗人員を適正化しているためだ。
これは、単純に「(十分な接客レベルを維持できるだけの)従業員数が足りているかどうか」という問題もあるだろう。だが、それ以前に従業員のモチベーションが関係しているとも筆者は思っている。
ユニクロとしまむら、給与体系の違い
それを象徴するのが、給与体系だ。ユニクロでは、ランクごとに昇給していく評価システムが確立されている。「店長」になると年収が1000万円を超えることも少なくない。「仕事はハード」という声も聞かれるが、明確に能力が給与に反映されるようになっている。
ただ、努力をしなければ、店長であっても年収400万円台にとどまるケースもあるいう。「格差をつけすぎ」との批判もあるが、現場の長である店長が知恵を絞って顧客に向き合わなければ、売上も評価も上がらない。
一方のしまむらは、こうした給与体系は採用されていない。同社は仕入れ商品を低価格で販売するため、本部が集中的に店舗をコントロールしコストを削減することで、店舗網と売上を拡大してきた経緯がある。
しまむらはかねてより発注を自動化したり、商品の店舗間移送も自動で指示を出すようなシステムを構築してきた。最近は、値下げ指示も自動化する方向に動いているとされ、むしろ現場になるべく知恵を求めないようにしているという話も聞く。
当然、現場の仕事自体は以前と比べるとラクになっているのだろうが、「自動化で捻出したマンパワーを、接客をはじめとしたほかの業務に適切に振り向けられているのか」(アパレル業界関係者)という指摘もある。
「接客の時代」がやってくる?
本部による集中コントロールは、しまむらのビジネスモデル、または文化となっており、簡単に変更できる代物でもないだろう。しかし人口減少時代では、客1人からの少しの取りこぼしが積み重なり、膨大なロスとなって降りかかってくる。セブン&アイ・ホールディングス前会長の鈴木敏文氏が、電撃退任する直前まで「(今後は)接客の時代だ」と力説していたことが記憶に残る。
ユニクロは、よく言えば能力主義的な人事考課で、日本を飛び出しアジア中で事業を拡大している。海外事業においても、この能力主義が成長の原動力になっていることは間違いない。
「現場力」とは少々手垢のついた言葉である。だが、リアル小売がこれからますます必要とされる力であるのかもしれない。