メニュー

マッシュグループが英老舗ライフスタイルブランド「バブアー」を日本で販売する意外な理由とは

2022年9月から、イギリスの老舗ライフスタイルブランド・バブアーの販売をスタートしたマッシュホールディングス(東京都/近藤広幸社長)。1894年創業、まもなく130周年を迎える歴史あるブランドとして全世界で愛され続けるバブアーの理念を引き継ぎ、ファッション業界に新たな価値観を発信する。その価値観は今の時代がもとめるファッションの在り方とうまく合致し、販売も好調だ。「良いものを長く大切にする」というブランドのコンセプトを、幅広い世代に性別問わずいかに広めていくのか。マッシュスタイルラボ専務取締役、バブアー パートナーズ ジャパン代表取締役社長の濱田博人氏に聞いた。

「サステナブル」「ジェンダーレス」「長く着続けられる」がコンセプト

マッシュスタイルラボ専務取締役、バブアー パートナーズ ジャパン代表取締役社長の濱田博人氏

 バブアーの日本での販売ライセンスをもつのは、ジェラート ピケをはじめ数多くの自社ブランドを展開するマッシュホールディングスが100%出資するバブアー パートナーズ ジャパンである。マッシュグループにはすでに自社で立ち上げた20のファッションブランドがあるが、数年前から、歴史ある海外ブランドが長く愛される背景や歴史、共感できる理念などに学びを得ながら手を組むことでグループ全体の成長につなげていこう、という動きがあったという。

 そんな中、TSI傘下のナノ・ユニバース社長からマッシュグループに入社した濱田博人氏が、協業先の伊藤忠商事から紹介を受けたブランド候補の一つがバブアーだった。

 濱田氏は「バブアーといえば、英国王室御用達で約130年の歴史がある、広く国民に受け入れられているブランド。そしてブランドの理念の一つが、『親子代々長く着られる』『サステナブル』なライフスタイルを提案すること。マッシュグループが大切にしたいブランド像と見事に一致したと感じた」と話す。

 さらに、「これまで、日本ではバブアーといえばワックスジャケットというイメージで、男性客が中心。しかし、英国では性別に関係なく楽しめるアイテムが揃っており、『ジェンダーレス』なファッションである点も時代にマッチしていると感じた」と続ける。 

 「こうしたコンセプト、さらに、一朝一夕では作り上げることができない、受け継がれている歴史や文化も含めてバブアーの価値を日本にも伝えていきたい」

 そこで、伊藤忠商事が英国バブアーとの間で独占輸入販売権を取得し、伊藤忠商事を通じてバブアー パートナーズ ジャパンが販売権をもつ形で日本でのブランド展開を行うことが決まった。

ワックスジャケットは日本の「着物」のように代々引き継がれる

バブアー ルクア イーレ店

 現在、伊勢丹新宿メンズ館、大丸東京店、ルクア イーレ店、大丸札幌店に店舗を構え、公式ECサイトに加えてZOZOタウンでの販売もスタートしている。「親子代々長く着られる」「サステナブル」「ジェンダーレス」というブランドのコンセプトは、意識の高い消費者に受け、売上は順調に伸びている。2023年秋冬から2024年春夏にかけて56店の新規出店が確定しているという。

 バブアーを代表するのが、コットン生地にワックスを塗り込んだワックスジャケットだ。撥水、防風性能が高く、着れば着るほど味が出てくるところが魅力で、定期的なリワックスやリペアにより、父から子へ、さらに孫世代へと受け継がれ、長く愛用できる。

 もちろん、ラインナップにはワックスを塗り込んでいないジャケットも揃う。さらに、Tシャツやトレーナー、ポロシャツなど普段使いのアイテムや、レインコートやレインシューズ、帽子や手袋などの小物類、さらにドッグアイテムまで幅広い品揃えとなっている。

 濱田氏は「ワックスジャケットのように世代を超えて長く着続けられるものは本当に珍しい。日本でいうなら、着物と同じようにイメージしてもらいたい。サステナブルな商品を選び、親子代々受け継いでいくという理念を日本全国に伝えていきたい」と語る。

 一方で、「日本では、ファンが多い男性にもバブアーはアウターブランドとしての印象が強い状態」と指摘する通り、バブアーがジャケット以外にもさまざまなアイテムを取り揃えていることや、男性、女性問わず楽しめるライフスタイルブランドであることはまだまだ知られておらず、認知度に課題がある。事実、売上に対する構成比は、男性8割、女性2割という現状だ。

 「ポートフォリオ上、よりジェンダーレスへ、より幅広い年齢へと顧客の幅を広げていく必要がある。アウターブランドというイメージから一早く脱却し、ライフスタイルブランドとして知ってもらえるようなマーケティング戦略を進めていく」

アウター以外のアイテムも充実

 直近の目標は、男性7割、女性3割、最終的には男性6割、女性4割となることを目指して、男性女性どちらにも対応できる商品をアピールしていく。

 具体的には、「すでにブランド認知度が高い男性向けには、夏であればポロシャツやTシャツなどへも洗濯の幅を広げてもらい、早い段階でライフスタイルブランドへと進化させる。一方、まだまだブランド認知度の低い女性に対しては、SNSはもちろん雑誌などでのPRを強化し『女性も着られるブランド』としての認知を高めていく」とのことだ。

「長く大切に着る」プロジェクトを推進

定番のワックスジャケット

 マッシュグループが、歴史ある海外ブランドと手を組むライセンス事業に注力するのは、その国で長く愛されるブランドの背景や歴史、理念を学びグループ全体の成長につなげようとの考えからだ。バブアー以外では、先行してニュージーランド発のナチュラルデイリーケアブランド「エコストア」を展開しており、今後は、セサミストリートのオフィシャルストア、芸術家であるアルフォンス・ミュシャのオリジナルブランドの展開を予定している。

 その中でも、サステナブルファッションの先駆者的存在であるバブアーのもつ価値は強力だ。クロエやモンクレールといったグローバルブランドがバブアーとのコラボ商品をこぞって発表しているほか、中国、韓国でも人気のライフスタイルブランドとして躍進しているからだ。

 バブアー パートナーズ ジャパンとしても、今後オープンを予定している路面店では、ブランドを上げて推進するサステナブルプロジェクト『WAX FOR LIFE』を体現できる店づくりを計画している。

 濱田氏は「バブアーのワックスジャケットは、定期的にリワックスを行うことで本来の機能を保ち、長持ちさせることができる。そんなケアが身近にできる場所として、路面店の一区画に常設のリワックスカウンターを設置し、リワックスデモンストレーションやリワックスイベントができるスペースを設ける予定」と話す。

 さらに、破れたりエイジングによるダメージがひどい箇所をワックスドコットンでリペアして大切に使いながらも、いよいよ着れなくなったバブアージャケットを回収し、まだ使える部分を組み合わせて新たな1着としてリプロダクトする『Re-Loved』プロジェクトも検討中だ。目標は、「日本でも、イギリスのように祖父から父、そしてそのまた息子へと代々受け継がれ長く愛されるブランドとして定着させること」。「良いものを長く大切にする」というサステナブルの原点に立った、バブアーだからできる取り組みを日本でも本格的に進めていく。