アパレル業界に地殻変動が起こっている。今や2兆円超の売上高を誇るファーストリテイリング(山口県)の「ユニクロ」は海外事業が好調に推移する一方で、国内は横ばい状態。しまむら(埼玉県)の前期(2019年2月期)決算も振るわず、2期連続の減収減益だった。青山商事(広島県)などのスーツ専門店も今年発表された中間決算では軒並み赤字だ。反面、ファッションECは依然として拡大中で、ワークマン(東京都)のように快進撃を続ける企業もある。次の主役となるのはどのプレイヤーか――。
ユニクロの成長ペースに異変!?
大手カジュアル衣料専門店の最近の販売動向は、“老舗”のカジュアル衣料専門店が転機を迎える一方で、ECを筆頭とする“新興勢力”が売上および利益を伸ばす構図が鮮明になっている。
今や“老舗”になりつつあるユニクロの19年8月期通期業績は、中国を中心とする「グレーターチャイナ」事業が急拡大したほか、ネット通販も大きく伸長し、連結売上高は2兆円の大台を突破した。
一方で国内ユニクロ事業に目を向けると、決して手放しでは喜んでいられない状況だ。好調な海外事業と裏腹に、国内ユニクロ事業の既存店売上高(19年8月期通期、Eコマース事業を含む)は、対前期比1.0%増と微増に留まったからだ。
内訳を見ると、客単価というよりも客数の伸びによって既存店売上高が増えていることがわかる。4~5年前の相次ぐ値上げによって客離れを招いた反省が生かされ、販売戦略を修正したユニクロの底力が垣間見える。
「このご時世に既存店が伸びているだけ立派だ」(大手スーパー関係者)という声もあるが、これまでの成長率を考えると、やや心もとない数字である。国内アパレル一強と言われて久しいユニクロの既存店売上高が低い伸び率にとどまった原因はどこにあるのか。ワークマンのような近年力をつけている新勢力に需要が流出していること、それとEC勢との“空中戦”が激しくなっていることとも、決して無縁ではないだろう。
“店舗依存型”のチェーンは軒並み苦戦
リアル店舗に依存してきた衣料品チェーンは、厳しい状況が続いている。その代表例がしまむらで、19年2月期業績は2期連続の減収減益で、経常利益は同40.2%減と大幅減となった。
しまむらは、“下駄履きで行ける”生活道路を中心に店舗を増やし、地域密着によって成長を図る戦略を志向してきた。また、ドン・キホーテ(東京都)と同じように「こんな掘り出し物があった」「この商品がこの値段で買える」といった、品揃えに重きを置いた商品政策により、消費者に“商品を探す楽しみ”を提供することで支持を集めてきたという背景がある。
だが、ここ数年のしまむらは、商品の絞り込みや、高価格帯へ誘導するような価格政策を展開している。これにより、「旧来のMDの魅力が薄らいでしまった」という指摘も少なくない。
スーツ専門店チェーンも、同様に強い逆風にさらされている。各社が直近で発表した業績をみると、青山商事が最終損益64億円、AOKIホールディングス(神奈川県)も最終損益9億円で(ともに2020年3月期第2四半期累計)、コナカ(神奈川県)も19年9月期通期の最終損益で53億円と、大手そろって赤字に沈んでいる。
台頭するアパレルの新興勢力
各社が苦戦するなか、ワークマンやZOZOといった新興勢力は好調をつづけている。
ワークマンの19年3月期の第2四半期決算では、売上高が対前年同期比45.2%増の418億円、営業利益は同55.1%増の86億円と増収・営業増益をマーク。Zホールディングス(東京都:旧ヤフー)による電撃的な買収で耳目を集めたZOZOも、19年3月期第2四半期決算では、増収・営業増益を果たしており、営業利益の増収率は同31.8%と依然高い伸びを示している。
こうした新興勢力の台頭には、これまで市場をけん引してきたユニクロやしまむらの衣料品に、消費者が飽きてきているという背景もあるだろう。だが、それ以前に「アパレルはオーバーストア状態であることに加え、各社は製品をつくり過ぎである。過剰な在庫を抱え、マークダウン(値引き)に依存していることが元凶ではないか」。(ある経営コンサルタント)と指摘する声もある。
大量生産・大量販売という旧来から続くアパレルのビジネスモデルは転機を迎えていと。“老舗”の専門店は目下取り組んでいる、デジタル化による在庫コントロールや、新しい商品づくりによって復活できるのか。
メーカーや個人が消費者に直接商品を販売する「DtoC(ダイレクト・トゥ・カスタマー)」といったような、新潮流のビジネスモデルも登場している。次の主役となるのはどのプレイヤーか。アパレル業界の勢力交代が静かに、そして激しく進んでいる。(次回に続く)