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アリババ現地レポート3 日本の有名菓子メーカーが売上5倍にしたB2Bプラットフォーム「リンショウトン」とは?

レポート最終回となる今回は、アリババのニューリテール戦略において、零細小売店舗、いわゆる「パパママストア」のデジタル化領域を担う「零售通(リンショウトン)」と言われるB2Bプラットフォームについて紹介したい。日本ではまだあまり知られていないものかもしれないが、実はこのリンショウトンを活用して売上の大幅アップに成功した日本企業も出てきている。

「パパママストア」をデジタル化!

 リンショウトンをいち早く導入し、中国市場において大幅な売上アップを実現したのが、大手菓子メーカーのUHA味覚糖(大阪府)である。同社は2019年4月からリンショウトンを導入し、わずか3カ月で前年同期と比較して売上を5倍以上に伸ばしたというから、その効果は驚異的である。

 今年のアリババのテクノロジーイベント「雲栖大会」においても、リンショウトンの仕組みがUHA味覚糖のような成功事例とともに詳細に紹介されていた。まずは、日本企業にとって中国市場攻略の重要なカギとなるかもしれないリンショウトンの仕組みを簡単に紹介しておこう

 アリババが提供するリンショウトンとは、UHA味覚糖のようなサプライヤーと、市中のパパママストアを”マッチング”させるB2Bプラットフォームの名称である。日本企業は、リンショウトンにサプライヤーとして参加することで、これまで直接的な営業活動が困難だった中国の地方都市に点在するパパママストアに簡単にアプローチできるようになり、ビジネスチャンスの拡大に繋がるというわけだ。

 最先端のテクノロジーを活用したリアル店舗ばかりが話題に上る中国だが、実際には地方都市を中心に約600万ものパパママストアが存在するとされる。こうした零細店舗のオーナーはデジタルへのリテラシーが低く、「IT化」とは無縁の存在であった。ここに目をつけたのがアリババである。リンショウトンを介して、中国全土にあるパパママストアをオンラインの領域に取り込もうとしているわけだ。

ビッグデータを駆使して精度の高い商品発注が可能に

杭州市内の天猫小店

 パパママストアがリンショウトンを導入すると、まずはアリババから派遣されたサポートスタッフによるレクチャーを受け、さらに「天猫小店(天猫スマートコンビニ)」として店舗内外が綺麗にリニューアルされる。天猫小店の店舗周辺の商圏特性や住民属性はアリババが保有するビッグデータにより科学的に解析され、どういう商品が人気で、売れ筋となり得るのかがオーナーに提示される。在庫管理や発注業務は基本的にスマートフォンで行い、オーナーはリンショウトンで”おすすめ”された商品を発注すればよいというわけである。

リンショウトンの店舗側の管理画面

 筆者は雲栖大会でリンショウトンの説明を聞いたあと、アリババの本社スタッフの案内のもとで本社に最も近い天猫小店を訪問し、店主に話を聞くことができた。曰く、「リンショウトンの提案に従って仕入れた商品は、本当に売れ行きがよい。昔は自分たちで卸問屋に出かけ、自分の勘に頼って商品を仕入れていた。しかし賞味期限間近の商品をつかまされるといったリスクも少なくなかった。現在はリンショウトンを活用すれば、便利で安心なのはもちろん、目に見えて売上も増えているし、店舗運営効率も改善している」と大絶賛だったのである。

食品宅配サービスとも連携 瞬時にOMO型店舗に様変わり

アプリ上で表示される天猫小店

 リンショウトンが提供する機能は、ビッグデータを活用した店舗効率の向上だけではない。リンショウトンに参加して天猫小店に転換すると、ただちに「高徳地図」(アリババが提供するGoogle Mapのような地図アプリ)上に店舗情報が表示され、さらにアリババグループの食品デリバリー企業であるEle.me(ウアラマ)とも自動で連携される。これにより、ウアラマのユーザーがパパママストアから日用品や菓子のデリバリーをオーダーすることができるようになり、逆に言えばパパママストアは食品宅配の配送拠点となる。

 リンショウトンによって、旧態依然としていたパパママストアが瞬間的にOMO(Online Merge with Offline:オンラインとオフラインの融合)型店舗に姿を一変させるというわけである。

 アリババは、約600万あるとされるパパママストアのうち、19年9月末までにすでに150万店舗にリンショウトンが導入されたとしている。パパママストアは、放っておけばデジタル化のトレンドの中で淘汰される運命だったはずだ。しかしリンショウトンによって起死回生の復活を遂げており、その社会的意義は極めて大きいのではないだろうか。

地方部でも”日本ブランド”の商品ニーズは高い

 さて、冒頭のUHA味覚糖の話に戻りたい。UHA味覚糖はリンショウトンによってデジタル化に成功した地方のパパママストアに対して、日本企業としていち早くリーチすることに成功した事例である。同社の味覚糖の商品は、もともと上海などの大都市で人気を博していたが、リンショウトンによって売上が伸びた(=天猫小店からの発注が増えた)ということは、地方都市でもUHA味覚糖のような「日本ブランド」を求めるニーズが予想以上に高いことが示されたということでもある。 

 いずれにしても、リンショウトンはユーザーにとっても、店にとっても、メーカーにとってもメリットの大きいサービスであることは間違いない。これこそまさに、アリババが展開するニューリテール戦略の醍醐味と言えるのではないだろうか。