「百貨店は都市型アウトレットにした方がいいのではないか」「やはり、ネットとリアルを融合したモデルを構築し、店舗を生かした道を探るべきだろう」――。再生をめぐって業界関係者の間で議論百出の百貨店業界。今後、百貨店が進むべき道はどこにあるのだろうか――。
アパレル大手のリストラで苦境迎える百貨店
今年に入り、百貨店業界にとっておもしろからぬニュースが相次いでいる。
それは、これまで二人三脚だったアパレルメーカーの店舗閉鎖である。中でもインパクトが大きかったのが、オンワードホールディングス(東京都)の国内外600店舗閉鎖の発表だ。
最近は百貨店の店舗閉鎖が相次いで発表されており、アパレルメーカー側としても「背に腹は代えられない」ということだろう。百貨店という販路が縮小するなかで、自社の店舗網を見直して、売上を確保できる店舗に資源を集中させるなど、運営の効率化を迫られている。
一方、アパレル大手のレナウン(東京都)は2019年10月、これまで実施していた早期退職の募集を中止した。メーン販路である百貨店の相次ぐ店舗閉鎖によって、自社の構造改革計画の前提が崩れたことによるものと観測されているが、今後百貨店の業績が回復していく見込みも薄く、先行きは依然不透明だ。
アパレルメーカーの一連のリストラ策については、「地方にある百貨店はさらに苦境に置かれる」(ある百貨店OB)という指摘もある。
地方百貨店は都市部にある百貨店よりもアパレルメーカーへの依存度が強く、まさに運命共同体といってもいい。
アパレルメーカーは、個店で取引するケースが多い。大手百貨店だからといって、いわゆる「セントラルバイイング」ではなく、本店・支店それぞれの店舗で仕入れを行っているケースがほとんどだという。大手アパレルのリストラ措置により、企業あるいは店舗規模による選別傾向が強まる可能性がある。
店内にアウトレットを導入! 地方百貨店の挑戦
では、店舗閉鎖にしか百貨店の生き残り策はないのだろうか。前出の百貨店OBは「たとえば百貨店の大部分を都市型のアウトレットに衣替えしたらどうだろうか」と話す。
その一つの例が青森地盤の百貨店企業、中三が運営する「中三弘前店」だ。同店は今年8月、店内にアウトレットフロア「MACHINAKA RACK(マチナカラック)」を開設した。店舗4、5階の52区画で展開する同フロアは、メンズ、レディースカジュアル衣料の「セオリー」やレディースファッションの「ジル・スチュアート」、アウトドアスポーツ用品の「ロシニョール」、キッズファッションの「べべ」など80のブランドを揃える。
モール数も増加し、一時期ほどの盛り上がりはないといわれるアウトレットモールだが、人気モールはいつでも混雑しており、ブランドの神通力は健在だ。最近では、イオン(千葉県)も広島市郊外に「THE OUTLETS HIROSHIMA」を開業している。
アウトレットモールの多くは大都市圏の郊外や観光地にあり、お客は遠隔地まで出向かなくてはならない。一方で、「中三弘前店」は百貨店の中にアウトレットを設けるという思い切った発想で、青森県のほか隣接する県含めた広域から集客をねらうという。
「とにかくなんでもやってみること」
他方、「デジタル化への取り組みは、大手から中小までどこも遅れている」(百貨店OB)という。
米国では、店舗とネットを組み合わせたシームレスな購買体験を実現している百貨店が現れ始めている。スマートフォンアプリを活用して、店に出向かずとも商品の情報を取得したり、購買できたりなど、店舗にショールーム的な役割を持たせている。こうした施策により、百貨店は店頭に不要な在庫を持つ必要がなくなるので、経営効率も好転しているというのだ。
日本でも三越伊勢丹ホールディングス(東京都)がデジタル化を推進する方針を打ち出している。「とにかく何でもやってみることが必要ではないか。暖簾に胡坐をかき、アパレルメーカーに依存していたら将来はない」(同)。
アパレルメーカーと二人三脚の「消化仕入れ」を前提とした“ぬるま湯”の中で改革の機会を失ってきた百貨店。気が付いたらぬるま湯がすっかり冷めきっていたということにならぬよう、変革に一歩踏み出すことが今の百貨店には求められている。(終わり)