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ヨークベニマル大髙善興会長が語る、“つぶれない中小小売業”の条件とは

10月1日に消費税が引き上げられ、軽減税率の導入、キャッシュレス決済によるポイント還元がはじまった。食品小売業を取り巻く環境は急速に変化しており、各社はその対応に追われている。足元1カ月間で見えてきた、課題と今後の経営の方向性について、ヨークベニマル(福島県)大髙善興会長が語った。
※10月25日にヨークベニマル黒磯店で行われた会見をもとにオンライン編集部が構成。

ヨークベニマルの大高善興会長

サバイバルの時代が到来

――10月から消費増税が始まった。ヨークベニマルではどのような変化が見られますか?
大髙
 10月に入り、最初の1週間は買い控えがあったものの、食品については2週目あたりから売上が戻ってきた。当社では10月以降、nanacoカードでの支払いで、nanacoポイント5倍キャンペーンを実施しており、キャンペーンがお客さまの購買につながったのか調べているところだ。なお(キャンペーン開始後)、nanacoの利用率が全体で54%から57%に上昇している。

――小売各社の状況について、何か違いがあったのでしょうか。
大髙
 首都圏ではよかったところと、横ばいだったところとで結果が分かれたと聞いている。お客さまが感じるロイヤルティが高く、施策を提案した企業ほどよい結果を出しているように思う。
 今の時代は「サバイバル」だ。政府が消費環境の活性化のための施策(キャッシュレス・ポイント還元)を打ち出した結果、全体の1520%程度が現金払いからキャッシュレス払いへと移行したものの、消費のパイ自体は広がっていないように見受けられる。そして、必ずしもポイント還元の対象となった中小企業が勝っているというわけでもなさそうだ。

――11月以降の小売各社をどのように見ているか?
大髙
 (キャッシュレス支払いのお客に対しては)ポイントの還元合戦が激化するだろう。さらに、現金払いのお客さまに向けた価格競争をするようになり、デフレに向かう可能性がある。マーケットが広がらない中で、生き残りをかけた競争になるため、現在、当社が実施している300品目の値下げのような販促イベントを今後も続けていく必要がある。
 キャッシュレス決済は、あくまでも手段であり、お客さまが求めているのは、「よい買物体験」であると思う。当社では、サービスと商品で差別化し、“あのお店でなければ”という圧倒的な価値を創造し、自社のロイヤルカスタマ―を創出することを基本的な柱としていく。

 

強い中小チェーンには、エネルギーと緊張感がある

――スーパーマーケット業界では再編の話が持ち上がっているが、ヨークベニマルとしてはどのように考えているか。
大髙 将来、自分たちと哲学や理念を共有でき、スケールとシナジーをお互いに生かし、常にイノベーションを共有できる企業であれば、協業も可能性の1つとしてある。
 当社では、商品開発などをセブン&アイグループで推進してきた。とはいえ、売上規模が大きくなったからと言って、マーケットの中で強いかと言われれば必ずしもそうではない。
 会社が大きくなると、(売上高や利益が大きくなったと)錯覚してしまい、環境の変化に対応できないケースがある。先日もある中小チェーンが大手の傘下に入った。だが、緊張感と危機感を持っていたからこそ、こうした中小小売は経営を維持していけたのだと思う。

――今後、中小チェーンが生き残っていくには何が必要か。
大髙
 「自分の会社は自分で守る」という哲学を持っている中小チェーンは、絶対につぶれないと考えている。規模が大きくなり、商品と販売が分かれてチェーンオペレーション化し、緊張感がなくなると会社はつぶれていく。スケールとシナジーを生かさない、バラバラの経営では企業は崩壊してしまう。
 当社は、(店舗づくりに関して)7割がチェーンオペレーションで標準化しており、残りの3割は店長や地区のスーパーバイザー、ゾーンマネージャーで地域のマーケットのニーズや特性に応える体制にしている。
 (市場環境の変化が激しいなかで、)外部環境を嘆くのではなく、内部にあるムリ・ムダ・ムラをなくしていくことが成長につながると思っている。当社としては、「今日よりも明日。明日よりも明後日」の精神で原理原則をしっかり押さえ、技術やマネジメントレベルを地道に上げていきたい。