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調剤が強いスギ薬局が、生鮮食品を導入する店を増やしていく理由=スギ薬局 杉浦社長

相次ぐM&A(合併・買収)によりドラッグストア(DgS)業界のクリティカルマス(必要最低限の売上規模)がどんどん高まるなか、ココカラファイン(神奈川県/塚本厚志社長)との経営統合協議が実を結ばなかったスギホールディングス(愛知県/榊原栄一社長)は何を思うか。そして足元の好調な業績を維持しながら、いかにして業容の拡大を図るか、そこに生鮮食品の強化は選択肢としてあるのか。スギホールディングス副社長兼スギ薬局社長の杉浦克典氏に尋ねた。

調剤部門が既存店の伸びをけん引

すぎうら・かつのり●1978年生まれ、岐阜薬科大学薬学部卒。
2003年7月ジョンソン・エンド・ジョンソン入社、06年3月スギ薬局入社。
08年9月スギホールディングス執行役員内部統制室長、09年3月スギ薬局取締役、同年6月スギスマイル取締役。
11年3月スギ薬局常務取締役、14年3月スギスマイル代表取締役社長(現任)。17年3月、スギ薬局代表取締役社長就任(現任)。
18年5月より、スギホールディングス代表取締役副社長(現任)。

──スギホールディングスの2019年2月期決算は増収増益、翌20年2月期上期決算も増収2ケタの営業増益を達成、既存店売上高も19年3月から8月までスギ薬局事業はすべての月で対前期比プラスとなっています。業績好調の理由を教えてください。

杉浦 調剤部門の伸びが大きいでしょうね。当社は創業以来、調剤に力を入れてきたのですが、それが実を結びつつあると考えています。たとえば、調剤部門の処方箋応需枚数は、前期比で13.2%の増でした。

──調剤市場はさほど拡大しているわけではありません。そのなか、なぜスギ薬局の調剤部門は、急成長しているのですか。

杉浦 スギ薬局が展開する調剤併設型ドラッグストア(DgS)が、「かかりつけ薬局」として、お客さまの支持を集めているからだと考えています。高齢のお客さまは、複数の医療機関を受診されているケースが多いのですが、自宅近くの調剤併設型DgSであれば、「門前薬局」と違って、1カ所ですべての処方薬を購入でき、一元的な服薬管理ができます。物販もあるので、ワンストップショッピングの利便性もあります。そうしたスギ薬局をご利用いただくことのメリットが消費者に認知された結果、門前薬局から当社の店舗にお客さまが流れていると考えています。

──とはいえ、調剤併設型DgSは、スギ薬局独自の業態ではありません。ほかのDgSチェーンも、展開しています。

杉浦 調剤併設型DgSは、調剤薬局の中では少数派です。調剤薬局は、「目的買い」のお客さまが来店する調剤単独型の「門前薬局」のほうが、運営効率が優れているからです。よい場所に開設すれば、月間処方箋枚数がすぐに1000枚を超えることも、珍しくありません。だから、大半が門前薬局なのです。

 それに対してDgSの調剤部門は、認知度が上がるまで処方箋枚数が増えません。月間処方箋枚数が1000枚を超えるまでに、長い時間がかかります。薬剤師も採用せねばなりません。当然ながら、その間は店舗の収益を圧迫しますので、調剤部門を併設したDgSは、なかなか増えないのです。

 そうしたなかスギ薬局は、長期的な経営戦略の中で、薬剤師を積極的に採用し、教育を行い、システム投資をし、チェーンオペレーションの効率化を進めながら、地道に調剤併設型DgSを育成してきたので、ここまで増やすことができました。ここが他のDgSチェーンとの大きな違いであり、優位性です。

調剤併設型ドラッグストア(DgS)のパイオニアであるスギ薬局。調剤部門の伸びが、好調な既存店売上高を支えるカギとなっている

調剤市場で3000億円の売上をめざす

──なるほど。既存店成長率がプラスを続けているのも、右肩上がりで処方箋枚数が増えていく調剤部門がカギになっているわけですね。

杉浦 おっしゃるとおりです。当社の調剤併設型DgSは、新店の場合、売上高に対する寄与度は大きくありませんが、店舗年齢を重ねるにつれ、調剤部門の認知度がアップして、売上もじわじわと上がっていくのです。

──その調剤市場の将来性を、どのように見ていらっしゃいますか。

杉浦 調剤の市場規模は現在、約7.5兆円と言われています。今後、日本では高齢化はさらに進みますが、調剤の市場規模は高齢化のスピードほどには拡大しないと言われています。国は、医療保険制度を堅持するため、薬価を引き下げ、薬剤費の伸びを抑える政策をとっています。調剤薬局の利幅も、薄くなっていくでしょう。店舗数においても、既存の中小の調剤薬局はシステム投資ができなかったり、後継者を確保できなかったりするので、ある調査によると、調剤薬局は現在の5万5000カ所から、3万~3万5000カ所にまで減少するという予測も出ています。その際、同時に一部のDgSチェーンによる調剤市場の寡占化も、進むと見られています。

──そうしたなか、スギ薬局の調剤部門は現在、売上高1000億円規模(※2020年2月期上期で511億円)まで成長していますが、今後も強化していくのでしょうか。

杉浦 そのつもりです。今後の調剤薬局の方向性は、①調剤併設型DgS、②メディカルモール併設型DgS、③医療機関の「敷地内薬局」が有力だと、私は考えています。そこで、当社では①に加え、②の業態も増やしており、③についても今年11月、名古屋大学医学部附属病院の敷地内に開設する予定です。調剤市場に占めるDgSのシェアは将来的には20%くらい、売上規模に換算すると約1兆5000億円までは拡大するものと予測されます。その中で当社の調剤部門を、DgSの中で20%のシェア、つまり、売上で3000億円規模にまで成長させたいと考えています。当社の売上構成比における調剤部門のシェアは現在、約20%ですが、今後は30%台に拡大するでしょう。

生鮮食品の導入店拡大へ

生鮮食品と総菜の販売については、商圏のニーズを見ながら、拡大していく方針だ

──もう一方の売上の柱である、物販についてもうかがいます。中でも、食品部門の商品政策(MD)については、どのように考えていますか。

杉浦「 健康と利便性」が、キーになるものと見ています。当社はDgSなので、健康を差別化の武器にして、「スギ薬局らしさ」を打ち出していきます。店頭MDは発展途上ですが、来店したお客さまに関心を持っていただけるように、食品の健康効果の訴求について、陳列やPOPなどで、いろいろと工夫しています。食品メーカー様からも、健康に資する付加価値を持った商品の販売力については評価をいただいています。

──一部の店舗では、実験的にコンセッショナリー形式で生鮮食品や総菜も販売しています。ワンストップショッピングの利便性を追求するのが目的ですか?

杉浦 そうです。「歌島店」(大阪府)で生鮮食品を取り扱ってみたところ、売上が伸長したため、現在では生鮮食品の取り扱いを3店舗に増やしています。「高石駅前店」(同)では、昨年3月から総菜の販売をスタートしたのですが、周辺店舗でも取り扱うようになりました。生鮮食品と総菜の販売については、商圏のニーズを見ながら、拡大していきたいですね。

──DgS各社が強化している、プライベートブランド(PB)については、どのようにお考えでしょうか。

杉浦 PB比率については他の大手と同様の水準で、PB開発において他社の後れを取っているわけではありません。PB比率は現在、10%弱ですが、中期的には12~15%に拡大する計画です。

 PB開発の方向性については、他社にはないようなユニークで、とんがった商品を出そうと、社内に号令をかけています。たとえば、今年12月には、品質志向のオリジナル化粧品を発売する予定です。大きく育っていく可能性があり、楽しみです。

編集部注:本インタビューの後半は11月11日月曜日公開!破談となったココカラファインとの話についても、杉浦社長に伺います。

スギホールディングス企業概要

本社 愛知県大府市
設立 1982年
資本金 154億3400万円
売上高 4884億6400万円(19年2月期)
営業利益 258億1700万円(同)
調剤売上比率 18.6%(同)
店舗数 1190店(19年2月期末)