5月8日、新型コロナウイルスが季節性インフルエンザと同じ5類になり社会は急速に元に戻っている。この3年間、マスク警察や3密やソーシャルディタンスなど日々の情報に右往左往しながらもようやく長いトンネルを抜けたようにも感じる。しかし、コロナ禍が終わっても社会は「元には戻らない」と各方面で幾度となく聞いてきたが果たしてどうだろうか。感染者数の集計にFAXが使われる日本のアナログぶりが顕在化したのも束の間、やはりそこに後戻りするのか、今回は考えてみたい。
コロナ禍で迫られた対応とみえてきたこと
この3年間の動きについてショッピングセンター(SC)を前提に評価すると以下の通りに整理できる。
行動 |
求められた事 |
プラス効果 |
マイナス効果 |
学び |
非接触 |
ソーシャルディタンス |
― |
コミュニケーションの不足 |
リアルコミュニケーションの重要性 |
3密回避 |
興行の停止、集合の禁止、パーテーション |
― |
集客活動の制約、販促活動の縮小 |
集客が収益の源泉であることを再確認 |
オンライン化 |
非接触での業務推進と効率化、省人化 |
ECの強化、オンラインサービスの拡充 |
リアル店舗の価値(意義)の低下 |
EC、BOPIS、D2Cなど新たな取り組み促進 |
テレワーク |
在宅ワーク |
住宅立地SCの再評価 |
都心の流動客の減少、被服履物が不要に |
商圏、地域の見直しと流動客の脆弱性 |
行動自粛 |
不要不急の移動禁止 |
地域の再確認、近隣商圏強化 |
通勤通学の減少、旅行客の激減 |
既存客の重要性と商圏実需の再認識 |
マスク着用 |
防護と他者への配慮 |
― |
接客の難しさ |
規律や周囲を重んじる日本人気質と危険性 |
検温 |
感染者の発見 |
― |
煩雑な運営業務 |
― |
上図の評価は人それぞれで異なると思うが、少なくとも次のことが見えたと思う。
①リアル店舗の脆弱性
リアルは人が来ないと始まらないビジネスであり、今後も同様のことがあれば同じ窮地に追い込まれること。
②限定的な収入項目
SCでは賃料、小売店舗では販売差益など顧客の消費によって発生する収入に依存。不動産業であるはずのSCも、売上連動賃料制による流動の低下で、直接ダメージを受けること。
③固定費の重圧
SCや店舗は土地建物など不動産を使うビジネス。そこには賃料、公租公課、保険、保安警備、販売社員の人件費など休業になったとしてもかかる固定的なコストがあること。
④労働集約産業
店舗ビジネスは生産、物流、店舗運営、アフターサービスなど各局面で「人」が介在しており、その自動化が遅れていたこと。現在も人手不足を理由に出店できない店舗が存在する。高齢化によって伸びるサービステナントが、最も労働集約性が高いのも特徴である。
⑤成功モデル
SCは1969年に開発された玉川高島屋SCから本格的にスタートするが、それ以降、売上金預かり、販促活動、接客指導、ミステリーショッパー、テナントコミュニケーション等、アナログな活動に終始してきた。これらは感染症の前ではなすすべもなかったこと。
新型コロナウイルスが我々に提示した大きな2つのこと
以上のように新型コロナウイルスは多くのことを我々に気づかせたわけだが、特に注目すべきは、既に始まっている人口減少はますます流動客を減少させ消費市場を縮小させる点だ。コロナ禍は、この起こりうる市場の縮小を3年間にわたる「行動の自粛」と言う制約を通して現実のものとして我々に見せつけた。人口減少はかなり以前から指摘されているが、我々は茹でガエルのごとく今に至っている。
もう一つは、収益モデルが「賃料収入1本」というシンプルであり分かりやすい構造である反面、変化には非常に脆弱であったことである。2011年の東日本大震災の際も、計画停電によるSCが休業を余儀なくされた。その時の経験が今回に生きたかというとそうではなく、SC(賃貸人)とテナント(賃借人)は同様に苦しくなり、賃料交渉で双方疲弊することを経験した。
「元通り」の日本のSC 創意工夫を無駄にするな
最近ではコロナ前を超える、超えないと報道が毎日のようにされる。要はコロナ前と同じことが再開されたということである。SC業界でも接客ロールプレイングコンテストもミステリーショッパーも再開した。これも悪いことではないが、また同じことを繰り返し、次の災禍の時、同じように窮地に追い込まれることになるだろう。
コロナ禍でECとBOPIS(EC購入・店舗引き取り)、デリバリー、D2C、ゴーストレストラン、SNSによるコミュニケーションとライブコマース、アプリによる接触チャネルの増加、多彩な決済手段など多くのことがスタートし拡大した。これらすべてが消費者に受け入れられないにせよ、この流れを止め、また昔のアナログな毎日に戻らないことを期待したい。コロナ禍の3年間を我慢の3年間ではなく、次のステージに向かうための準備期間とすることが、我々に課された使命だと考える。
西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役
東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒