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流通再編の衝動その5 ココカラ争奪戦で燻る再編の火種

マツモトキヨシホールディングス(千葉県)とスギホールディングス(愛知県)による、ココカラファイン(神奈川県)の争奪戦は近く結論が出る見通しだが、この結果をドラッグストア(DgS)上位陣は固唾を飲んで見守っているに違いない。結果いかんでは、ウエルシアホールディングス(東京都)やツルハホールディングス(北海道)といった大手が動き出す公算も大きく、また、中堅DgSも“最終バス”に乗り遅れまいと浮足立つ公算が高い。市場規模10兆円をめざすDgS業界は今、大きな転機を迎えている。
本文ではホールディングス=HDと略称を使用

「規模のメリット」を求め、M&Aが相次ぐDgS

 「どちらかというとスギHDの可能性の方が高いのではないか」

 あるDgSの首脳はココカラファインの統合相手先についてこんな見方をする。

 発表が近いため予断を許さないが、ココカラファインの相手がマツキヨ、スギどちらに転んでも、DgSの大型再編が加速するのは必至だ。

 前出のDgSの首脳はココカラファインとマツキヨHD、スギHDの経営統合の検討について「特段、気にしていない。うちもよい(縁談)話があれば検討していく」と平静を装うが、内心は穏やかではないはずだ。

 一般に、DgSは「規模のメリット」が出しやすい業態と言われている。医薬品が主力商品であるため、DgSは人件費の高い薬剤師や登録販売者を常に確保しなければならない。規模の拡大は認知度を高め、薬剤師や登録販売者を集めやすくする。そればかりか、拠点を多く持っていれば、処方箋を集めやすいというメリットもある。このようにDgS業態はコンビニや食品スーパーとは異なった経済合理性が働く。だから、競うように上位企業はM&A(合併・買収)を繰り返してきたのだ。

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ツルハ、ウエルシアの経営統合の可能性

イオン系の大手2社はどう動く?!

 さて、ココカラファインがマツキヨホールディングスとスギホールディングスのどちらを選んでも売上高は1兆円を超える。DgS業界では、7824億円(2019年5月期)のツルハHDが売上高ランキングのトップに立っているが、ココカラファインの経営統合が実現すれば、業界トップの座は取って代わられる。ツルハHDに抜かれ業界2位に転落したウエルシアHDもさらに順位を落とすことになる。

 「業界トップ」や「大手」という“金看板”で人材を確保したり、不動産の取得・賃貸などおける信用力を担保するという面でも、規模のメリットはある。そのため業界ツートップの2社も、次の相手探しに注力すると業界では囁かれている。

 そうしたなか、ある中堅DgSの幹部は「ツルハHDとウエルシアHDが統合する可能性だってなくはない」と自説を披露する。

 確かに、可能性はゼロではない。その最大の理由は、両社ともにイオン(千葉県)が大株主であるからだ。イオンは現在、食品スーパー事業を地域ごとに再編し、地域で規模を拡大する戦略をとっている。イオンが食品スーパー再編に続く次の戦略としてDgSの再編に乗り出すのではないかという説は腑に落ちる。

 イオンは元来、食品スーパーとDgS、専門店を組み合わせた近隣型ショッピングセンター(NSC)を全国に多店舗化するというねらいのもと、DgS企業と次々と提携してきた。ツルハHDもウエルシアHDもその方針に沿ってイオン傘下に入ったという経緯がある。

 また、イオン系DgS各社は、医薬品のプライベートブランドの開発製造などを行うハピコムグループに加盟しており、ツルハHDやウエルシアHDの両社も定期的に顔を合わせている。そのうえ、ツルハHDは北海道・東北に強い一方で、ウエルシアHDは関東を地盤としながら中部、近畿にも店舗が多く、地域的な補完関係もある。

 仮に、ツルハHDとウエルシアHDが統合すれば、売上高は1兆5000億円超に達し、ココカラファインがマツキヨHDやスギHDと経営統合しても売上高で引き離すことができる。ツルハHDの鶴羽順専務は「業界は2、3社に集約されるかどうかはわからない。だが、確実に企業数は減っていく」と話しており、今後も大手同士の再編が起こる可能性を示唆している。

 ココカラファインに端を発する再編の火種は、燎原の火のように広がっていくことになるのかーー。(次回に続く)