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20代の“モンスター社員”を生んでいるのは、家でも学校でもなく、実は会社だ!

このシリーズは、部下を育成していると信じ込みながら、結局、潰してしまう上司を具体的な事例をもとに紹介する。いずれも私が信用金庫に勤務していた頃や退職後に籍を置く税理士事務所で見聞きした事例だ。特定できないように一部を加工したことは、あらかじめ断っておきたい。事例の後に「こうすれば解決できた」という教訓も取り上げた。今回は、60代の役員(部長課長兼務)が、20代の社員に極端なまでに寛大であるところから生じる問題を紹介しよう。

 

Photo by NoSystem images from iStock

第12回の舞台:アミューズメント会社

都心を中心に居酒屋やカフェなどを運営するアミューズメント会社(社員数100人程)


経験が未熟にもかかわらず、20代で実質的に部長を任される

 「彼は、ガッーと(意見を)言ってくるだろう?誰にでも、そんな具合にするんだよ。私にも…。自分の意見を押し通すしかできない。意思疎通が苦手なんだろう。こちらが、彼を生意気だとして潰すのは簡単。だけど、仕事熱心で、若手の中では有望だよ。まぁ、長い目で見てやって」

 総務、経理担当役員(61歳)の山崎が、業務委託として給与計算を請け負う袴田(個人事業主)をたしなめる口調で話す。袴田は、4年前から山崎から発注を受ける。社員数が100人近い会社だけに、「大口スポンサー」である。その場では黙っておいた。

 しかし、20代後半で経理担当の松本の言動にはどうにも理解ができなかった。25歳程上の袴田に命令口調で指示らしきことを頻繁に言ってくる。しかも、めちゃくちゃな判断によるものだった。

 例えば、自社内で社員の残業管理ができていないのに、「給与計算で残業をきちんと算出してほしい」と言ってきた。袴田が「まず、御社内で残業の管理を徹底してほしい」とメールを送ると、「おっしゃっていることの意味がわかりません」と返してきた。その後に「山崎からは、(袴田さんが)きちんとした仕事をする人だから…と伺っております」と書いてくる。

 袴田は、言葉が出ない。数日間迷いながらも、こんなことを書いてメールを送った。

 「まず、自社内で所定内、所定外(残業)の時間の管理を正しく行う。そのルールにもとづき、個々の社員が正確に時間を記録する。この一連の流れができていて、はじめてできるのが、給与計算。御社の場合、社内の仕組みが十分ではないから、個々の社員が残業時間数を思うままに記録している。ここにメスを入れるのが最優先」

 不愉快だったのか、松本は5回も下にスクロールをしないと全部を読めないほどの量をメールに書いて返信してきた。「会社の問題はさておき、まずはご自身の計算を正しくしていただきたい」とのことだった。

 つい最近、こんなメールを送ってきた。

 「うちの社員から、給与の額が違うのではないかと指摘を受けました。こちらで計算したところ、誤りがありました。今後は、このようなミスがないようにしてください」。

 袴田は計算し直したが、誤りを見つけることはできなかった。むしろ、松本の計算式こそが、誤りなのだ。この4年間で、こんなやりとりが数百回に及ぶ。

 袴田は1つずつの言動に怒りながら、生活のためと言い聞かせ、必死にこらえてきた。本来は、松本の上司である経理課長に言うべきなのだろうが、役員である山崎が部長と課長をも兼務している。したがって実質的には、20代後半で、数年のキャリアしかない松本が部長兼課長なのだ。

 思い切って山崎に面談を求め、松本の言動について「なんとかしていただきたい」と打診した。だが、山崎はのらりくらりとかわす。

 袴田は、この会社とは縁を切ろうと決めている。代わりの大口企業が見つかりつつあるのだ。このままではストレスから、心が病みそうなのだ。

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こうすればよかった!解決策

育成と丸投げ、寛大さと甘やかしをはき違えるな!

 寛大なまなざしで若手を見ることは、時には必要だろう。それが度を超えると、今回のような問題が生じる。私は、次のような教訓を導いた。

こうすればよかった①
育成の態勢を早急に整える

 致命的な問題は、社員を育てる態勢や仕組み、風土、文化がほとんどないことだ。その象徴が、役員が課長、部長を兼務していることだろう。社員数や定着率が低い状況を考慮すると、ある面では止むを得ないのかもしれない。しかし、20代後半が事実上の管理職をするのは、いかんせん無理がある。しかも、給与計算という何かとトラブルが起きやすい仕事を丸投げしている。揚げ句に、外注先の自営業者への指示までさせていた。ここまでくると、役員は極めて無責任と言えないだろうか。

 注意すべきは、このような20代の社員が現れると、「今の若者は何を考えているか、わからない」などと扱う世論や空気である。実は、この“モンスター”を生んでいるのは、人を育成しようともしない社長、役員や管理職なのだ。「長い目で見る」ことの意味を心得ていない役員ならば、期待はもてないかもしれないが、育成の態勢や仕組みを少しずつ作るようにしたいものだ。

こうすればよかった②
度をこえた「寛大さ」を捨てるべき

 この事例は、役員が育成の意味を心得ておらず、野放しにした結果、トラブルが起きているとも言える。度をこえた「寛大さ」が部下の成長の可能性を閉じてしまうのだ。そして、外注先の自営業者の自尊心や心を潰していく。この悪循環を理解しないといけない。

 特に30代半ばくらいまでの部下には、状況いかんで言うべきことを言い、叱るところでは叱るのが育成なのだ。育てるのは、時間とエネルギー、お金などがどうしても必要になる。漫然と仕事をさせて、そのままほかっておけば成長すると信じ込んでいるならば、もはや話し合いはできない。私は、役員に「あなたは部下を育てる考えがあるのか否か」を聞いてみたい。

 

神南文弥 (じんなん ぶんや) 
1970年、神奈川県川崎市生まれ。都内の信用金庫で20年近く勤務。支店の副支店長や本部の課長などを歴任。会社員としての将来に見切りをつけ、退職後、都内の税理士事務所に職員として勤務。現在、税理士になるべく猛勉強中。信用金庫在籍中に知り得た様々な会社の人事・労務の問題点を整理し、書籍などにすることを希望している。

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