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「LOHACOが乗っ取られる!」ヤフーと対立のアスクル、会見で岩田彰一郎社長が語ったすべて

718日、オフィス用品の通信販売事業を展開しているアスクル(東京都/岩田彰一郎社長)は、前日から報じられていた、親会社のIT大手ヤフー(東京都/川邊健太郎社長)と対立している件について記者会見を開いた。ヤフーはアスクルと共同で運営している通販事業「LOHACO(ロハコ)」の譲渡を要求したが、アスクルが拒否したため、ヤフー側は岩田彰一郎社長の退任を求めるなどの強硬手段に出る構えを見せている。会見には岩田社長自ら登壇し、現在の心境を語った。

アスクルの岩田彰一郎社長

関係は良好だったのになぜ?
「すべてが不可解」と驚きを露わに

 ヤフーとアスクルは2012年4月に業務・資本提携を締結し、同年10月にLOHACO事業を開始した。その後15年5月、ヤフーはアスクルへの出資比率を約45%に引き上げている。岩田社長は「ヤフーとは宮坂学前社長のもと良好な関係を築けており、提携によるシナジー効果もあった。しかし、社長が交代したり、ソフトバンク傘下に入ったりするなど(ヤフー側の)環境が変わったことで、関係性が少しずつ変化してきた」と説明する。

 両社の関係に陰りが見え始めたのは、19年1月のことだった。ヤフーはLOHACO事業の譲渡と、譲渡が可能な場合の条件についての検討を要請。アスクルは独立役員会、取締役会の審議を経て、ヤフーへ譲渡しないことを決定、通告した。その後ヤフーから再度の検討依頼はなかったが、6月27日、ヤフーの川邊社長がアスクル本社に来訪。岩田社長に退陣を求めたという。「突然のことだった。すべてが不可解だ」と、岩田社長は驚きと怒りを込めて話した。

 ヤフーは8月2日に開かれるアスクルの株主総会で、岩田社長の再任に反対することを表明している。また、ヤフーに続く第2位の株主でもあるオフィス用品メーカーのプラス(東京都/今泉公二社長)も、ヤフーの方針に賛同している。ヤフーとプラスの保有株式を合計すると議決権の過半数を超えるため、現状では岩田社長の退任は避けられない情勢だ。

 岩田社長は、「LOHACO事業はまだ収益性に課題があるが、ビッグデータの活用で多くのメーカーが商品開発やプロモーションを行っており、今後の成長が期待できる事業だ。(プラスの)今泉社長はLOHACO事業の赤字(2019年5月期の累積赤字は約90億円)を憂慮し、ヤフーに譲渡することでアスクルの負担を軽減でき、それが時価総額の向上につながるのではないかと考えていた」と、アスクルの設立会社でもあるプラスとの考え方の違いを明らかにした。

 アスクルはヤフー側の要求を拒否。経営思想の違いや、イコールパートナーシップ(両社の対等な関係)精神の喪失などから、ヤフーとの関係修復は困難だと判断し、7月12日に業務・資本提携の解消を申し入れた。

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経営の独立性が脅かされている

経営の独立性が脅かされている

 岩田社長が問題としているのは、アスクルが経営の独立性を保つためにヤフーと結んだ業務・資本提携契約の実効性が脅かされようとしていることだ。「支配株主であるヤフーが、コーポレートガバナンスや少数株主、その他多くのステークホルダーの利益を無視している」と、岩田社長は怒りを露わにした。また、ヤフーがLOHACO事業の譲渡だけを要求し、その後のプランを語らないことに対しても疑問を呈している。「LOHACOは、アスクルの物流やオペレーションのノウハウと組み合わせることで成長できるEC事業である。そのため、LOHACOの運営権だけを切り離しては利益性を確保できない」(岩田社長)。

 ヤフーはアスクルからの業務・資本提携解消の提案を拒否しているが、アスクルは引き続きヤフーに契約解除を求める方針を明らかにした。「まずはヤフーと再度話し合いの機会を設けたい」と岩田社長は説明する。もし平和的解決ができなければ、事業の独立性が損なわれた場合に実行可能な株式の「売渡請求権」を行使することも視野に入れるという。

 今回の記者会見は、「会社は誰のものか」、そして「上場子会社と支配株主とのねじれ(利益相反)」というコーポレートガバナンスに関する問題提起と唐突なヤフー側の変節を、メディアの報道を通じて世論に訴えかけることがねらいだ。世論が盛り上がれば、現時点では「協議の必要性はない」と断じているヤフー側が譲歩する可能性もゼロではないかもしれない。いずれにせよアスクルは、8月2日の株主総会までに、問題解決の糸口を見つけることができるかが焦点だ。