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第7回 勘違いした「若き女性課長」のパワハラ指導

このシリーズは、部下を育成していると信じ込みながら、結局、潰してしまう上司を具体的な事例をもとに紹介する。いずれも私が信用金庫に勤務していた頃や退職後に籍を置く税理士事務所で見聞きした事例だ。特定できないように一部を加工したことは、あらかじめ断っておきたい。事例の後に、「こうすれば解決できた」という教訓も取り上げた。今回は、30代前半の女性課長が、指導や育成のつもりで接しながらも、部下を次々となえさせてしまうケースを取り上げた。

 

第7回の舞台:パソコン機器メーカー

社員数(パート含む)120人ほどのパソコン機器メーカー

 

女性活躍を盾に、苛烈な叱責が止まらない

 

「言ったよね?聞いていなかったの?」
「違うよ。同じことを言わせないでよ」
「まだ、できていないの?しっかりしてよ」
「ダメじゃない」
「わかんないな~」
「どうしてできないの?」……

 管理部(広報、総務など)のフロアに、30代前半の女性課長の声が響く。部下への助言や指導のようだが、周囲には叱責、時にパワハラに聞こえるらしい。しかも、1日に5∼10回続く。4人の部下は、黙ったままだ。うち1人は不満を抱え、数か月前に他部署へ異動願いを出した。

 それでも、課長は続ける。「あなたたちには、早く一人前になってほしい…」。課長の前職は中堅の外資系メーカーで、IR・広報に7年間関わった。噂では、女性の上司にいじめ抜かれ、辞めざるを得なくなったという。精神に軽い疾患を抱え込むようになったともささやかれる。フロアの隣の営業部課長は「前職での挫折がトラウマになり、脅迫観念として現在の部下に必要以上に厳しいんじゃないか」と話す。

 この会社は10数年前のリストラで人員削減が行われ、40∼50代の社員が10数人しかいない一方で、20∼30代は70人を超える。課長は中途採用試験で3年前に入社し、多数の同世代がいる中で頭角を現してきた。

 役員がこの女性を30代前半で課長に抜擢した背景には、「若き女性課長」として「女性が活躍しやすい会社」を世間にアピールし、新卒や中途の採用力を高める狙いがあったといわれる。前述の営業課長は「彼女を利用し、世代間のいびつな社員構成を正そうとしている」とも語る。

 課長は“後ろ盾”があるからか、昇格以降の1年半というもの、一貫して部下に厳しい。助言や指示の中には、意味不明なものや現実離れしたものが少なくないようだ。しかし、それを諭す人は社内にいない。

 

 今日も、声が響く。「この前の話、聞いていなかったでしょう?」「もう、ひとりでできなきゃいけないのよ」

 重苦しい空気がさらによどむ。

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こうすればよかった!解決策

気負いすぎの新任管理職はまず自問自答しよう

 懸命にがんばっている若き課長ではあるのだろうが、気負いすぎの一面もあるように見える。こういう新任管理職は読者諸氏の職場にいないだろうか。私は、次のような教訓を導いた。

こうすればよかった①
なぜ、厳しいのか」と自問自答せよ

 部下に厳しいことが即、問題になるわけではない。上司なのだから、時には叱責が必要だろう。しかし、許容範囲を超え、部下を潰してしまうならば深刻な状況である。今回は、それに近いのではないか。

 なぜ、ここまで厳しくするのか。理由の1つには、前職でいじめを受け、退職せざるを得なくなった苦い経験があるのではないか。それが今も心に残り、不満や怒りを発散するがごとく、部下に当たるのではないか、と私は考える。つまりは、脅迫観念である。私が取材を通じて、厳しすぎると思える上司を観察すると、過去に「傷」をもった人が少なくない。例えば、生い立ちや学歴、新卒時や中途採用時の就職活動、入社後の扱い、人事評価や私生活などにおいて、何らかの挫折や大きな失敗があるように思えてならない。

 課長は、自分自答をしたほうがいいのではないだろうか。向かい合うのは、自分のいたらなさや非力さではないかと私は思う。それができないから、部下をいじめるのかもしれないが、その弱さこそが問題の本質なのではないか。

 

こうすればよかった②
指導や助言の意味を正しく理解する

 課長は、経験が浅いから今は難しいのかもしれないが、育成の意味を心得たほうがいい。部下の仕事力を時間内である程度のレベルに引き上げるのが「育成」だとすると、育成のためにどうすべきかを踏み込んで考えないといけない。叱り、怒るだけならば、一般職でもできる。管理職ならば「育成できる」力が当然あるはずなのだから、それを発揮しないといけない。ないならば、上司(部長や役員)に事情を話し、助言を得ながら育成をしたほうがいい。

 その際、自分が育成される側に回るが、「どのような言葉をかけられると、やる気が沸いてくるのか」を考えたい。本来は、昇格前にこういう繰り返しで、育成力を身につけるべきだったのだ。

こうすればよかった③
後ろ盾は本当にあるのか

 課長は、「役員たちから期待されている」「同世代のエースだ」などと信じ込んでいるのかもしれない。その一面はあるのだろう。しかし、あくまで現時点でのことであり、今後、社内の状況や人事異動などにより、変わる場合がある。

 課長がパワハラに近い行為を繰り返し、部下を次々と潰すならば、やがては孤立し、どこかのタイミングで社外へ排除されるのかもしれない。ここまで考えたうえで、日々の育成に取り組んだほうがいい。

 課長にあえて言いたい。あなた自身は育っていますか?部下を持つレベルに達していますか?人の上に立つ器でしょうか?

 

神南文弥 (じんなん ぶんや) 
1970年、神奈川県川崎市生まれ。都内の信用金庫で20年近く勤務。支店の副支店長や本部の課長などを歴任。会社員としての将来に見切りをつけ、退職後、都内の税理士事務所に職員として勤務。現在、税理士になるべく猛勉強中。信用金庫在籍中に知り得た様々な会社の人事・労務の問題点を整理し、書籍などにすることを希望している。

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