総合スーパー(GMS)の改革が遅々として進まず、多くのチェーンが苦戦している。GMSの苦境は有力専門店の台頭、ネット通販のシェア拡大といった外的要因が取り沙汰されている。もちろんそれもあるだろう。しかし、最大の要因は、成功体験を捨てきれず自己変革できないところにあるという指摘もまた少なくない。GMSは一定の役割を終えたのか。それとも、再び蘇るのか――。
GMSの隣で売上を伸ばす青果店が意味すること…
川崎市に本社を置く青果物専門店チェーン、フレッシュグッズ(神奈川県)。同社のある店舗は、大手GMSの食品売場に隣接した場所に立地している。一見、熾烈な競争にさらされ、苦戦しているかと思うかもしれないが、同店の売上高は順調に伸びている。
強さの秘密について、フレッシュグッズの藏重拓社長は「GMSの価格を常にマークし、価格では負けないようにしている」と明かす。GMSがチラシで目玉商品を価格訴求すれば、すかさずその下をくぐる売価を設定し、お客を引き寄せているのだ。
巨大化したGMSの組織は「地域、お客、そして競合先が見えていない」(あるディスカウンター幹部)という指摘も少なくない。
「小売業は地域での競争に負けては意味がない」――。ドン・キホーテ(東京都)を創業した安田隆夫創業会長の発言だ。
ドン・キホーテのある店舗では、老人用の杖を扱っている。全店で置いているわけではないが、商圏に高齢者世帯が多い店舗で取り扱っており、しかも入り口近くに置いている。それもドン・キホーテが個店に裁量を持たせているからなせる技だ。
ドン・キホーテでは仕入れの権限のかなりの割合を個店が持っている。それこそ、全体の6~7割前後は個店による仕入れだと言われるほどだ。市中で過剰在庫になっている仕入れ商品を安値で集め、驚くような安い価格、同社が言うところの「驚安価格」で売る――。このような仕入れが、ドン・キホーテの商品政策、価格政策を支えている。
ドン・キホーテの経営は、個店が自ら商圏を分析し、お客を引き寄せる仕入れを考えて実施している。いわば、あたかも個店という“細胞”1つひとつが自立しており、それがドン・キホーテという全体像を形成しているのである。
GMSはこれまで本部が仕入れをコントロールしてきた。それはそれで、商品を置けば売れた時代には有効に機能した。また、大量仕入れによってバイイングパワーを発揮し、仕入れ価格の引き下げを可能とし、粗利益率向上に貢献してきた。
しかし、“モノ余り”の時代である。少しの取りこぼしが売上高・利益にスパイラルのように影響する。商品政策にしても、プライベートブランド(PB)開発ばかりではなく、新しい商品や仕入れ先を発掘することもGMSの役割である。
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総合は終わらない、これだけの理由
“総合”は終わらない
商品ということで言えば、セブン&アイ・ホールディングス(東京都)とイズミ(広島県)は2018年4月に業務提携した。イズミは19年5月、日本流通産業(大阪府:通称、ニチリウ)を脱退すると発表。今後は現在取り扱うニチリウのPB「くらしモア」を「セブンプレミアム」に切り替えていくという。
提携は商品だけではない。
「テナントミックスの手法など学ぶところは多い」――。イズミとの提携について、セブン&アイの伊藤順朗取締役常務執行役員はそう話す。
イズミでは、早くから自前で売場を埋める形態をやめ、テナントを多用している。イズミはGMSのなかでもトップクラスの高収益を誇り、GMS改革が成功している唯一のチェーンともいえる。19年2月期の連結売上高は7321億円で、営業利益は352億円、売上高営業利益率は5.1%と大手GMSのなかで群を抜く。セブン&アイとしては、イズミのノウハウを取り入れ、改革が遅々として進まないイトーヨーカ堂(東京都)の立て直しを急ぎたいところだ。
他方、愛知県地盤の古豪であるユニーはドン・キホーテの完全子会社となり、“ドンキ流”のノウハウを取り入れた「ドン・キホーテ」「UNY」の「ダブルネーム店舗」を着々とオープンさせている。これら業態転換した「アピタ」「ピアゴ」などのGMSは、たちまち売上高や客数、粗利益率がアップしているのである。
これは何を意味するのか。ドン・キホーテは衣料品、住居関連商品、食品とフルラインで商品を扱う総合業態。つまり、“総合”の2文字は決して終わったわけではないのだ――。(次回に続く)