メニュー

ITで流通を変える! AI・IoTを駆使した“第4次産業革命”を起こす_トライアルホールディングス代表取締役社長 亀田 晃一

AIカメラやタブレット付きカートで、レジ決済不要のスマートストア「スーパーセンタートライアルアイランドシティ店」(福岡県福岡市)を今年2月にオープンし、業界の耳目を集めたトライアルホールディングス(福岡県:以下、トライアルHD)。同社の亀田晃一社長は、「ITを活用し、流通業界に革命を起こす」と言う。

中核事業会社に45歳の新社長就任

──まず、グループ全体の足元の業績を教えていただけますか。

かめだ・こういち●1964年3月、大分県北海部郡佐賀関町生まれ。87年3月、横浜国立大学卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)入行。2008年4月、トライアルカンパニー入社。08年6月、同社 取締役CFO。10年6月、同社 専務取締役。12年6月、同社 取締役副社長。15年9月、トライアルホールディングス設立、現職

亀田 トライアルHDは、ディスカウントストアやスーパーセンターを運営するトライアルカンパニー(福岡県/石橋亮太社長)など、15の事業会社を傘下に収めています。2018年3月期の連結業績は、売上高4086億円、経常利益93億円で増収経常増益でした。

 最大の増収要因は、近年、年間15~20店舗出店している新店です。また、既存店売上高も前期水準を維持しています。待遇改善等による人件費の上昇により販売管理費の比率は高まっていますが、それ以上に粗利益率の改善が進んだおかげです。

──計算すると、売上高経常利益率が約2.3%となります。この数字をどのように評価されますか。

亀田 上場しているわけではないので、経常利益率2%程度を目安にしています。決して高収益企業をめざしているわけではありません。これを超える利益は、世の中の役に立てるよう、IT投資による作業効率の改善や快適な購買体験の演出などで、お客さまに還元していきたいと考えています。

──今年6月、石橋亮太氏が中核企業トライアルカンパニーの社長に就任されました。この人事はどういうねらいがあるのでしょうか。

亀田 われわれは、これまでも早いうちに経営陣の世代交代をしてきました。基本は5~10年サイクルです。短期間で変わってしまうと中長期的な課題に取り組むことができませんし、長期政権になってしまうと過去の成功体験に固執して環境の変化に対応できません。

 石橋は現在、45歳。今回の社長交代も若いうちから引き継いで、中長期で戦略を考えられるようにするのが目的です。社長から会長となった楢木野仁司は、現在進みつつあるデジタル革命を流通業界に取り込むべく、店舗の無人化・メディア化・キャッシュレス化等を推進するスマートストアプロジェクトに取り組むことになります。

オープンイノベーションで「第4次産業革命」

──約3年前に持ち株会社のトライアルHDを設立した経緯を教えてください。

亀田 トライアルHDとトライアルカンパニーは、米国のアルファベット(Alphabet)とグーグル(Google)のような関係性をめざして設立しました。トライアルHDはIT企業で、トライアルカンパニーが事業会社としてITを活用したリテールに取り組む、ということです。

 この考えは、「そもそも小売業とは何か」という話とつながってきます。

 日本では1960年代に普及し始めたチェーンストアのかたちが、ここ50年、ほとんど変わってきませんでした。その状況を、米アマゾン(Amazon.com)や中国のアリババ(阿里巴巴集団)などのECを主体とする企業が変えつつあります。

 われわれは、これを「第4次産業革命」がもたらしつつある流通業界における革命的変化だと認識しています。

──第4次産業革命ではどのような変化が起きますか。

亀田 買物の主権がメーカーから消費者に移るのが本格化したと思っています。それを可能にしたのが、EC企業が持つデータの力です。ECの強みは、消費者が購入した商品だけでなく、クリックの履歴などから、何に興味を持っているのかまで分析してレコメンドを行うOne to oneマーケティングが可能になりました。

 また消費者は、ネット上の比較サイト等で、商品の価格比較や口コミによる利用者の評価を、スマホ等のモバイル端末を利用して簡単に確認できるようになりました。

 われわれはEC上で起きたこの革命を、AI、IoTを活用することで、リアル店舗でも可能にする第4次産業革命の波をつかもうと考えています。

 単純なデジタル革命では先進の米国や中国企業に勝てないかもしれませんが、これから進む「第4次産業革命」は、IoTの進化においてはモノを動かすTQM(総合的品質管理)による「kaizen(改善)」が重要になり、AIの進化においてはヒトを感動させる丁寧な接客サービスによる「omotenashi(おもてなし)」などの、日本が強みを持つ領域が重要になってくると思っています。

 しかし、この流れをつくるのはトライアルグループだけではできません。

──第4次産業革命に向けて、具体的にどのような方針で動いていますか。

亀田 17年5月、小売業、食品メーカー、日用品メーカー、卸など、流通小売業に関わる業種を超えた企業が参加するリテールAI研究会(東京都/田中雄策代表理事)が発足しました。当社もそのメンバーの一員です。

 この研究会は、オープンイノベーション(複数の企業や組織で技術やアイデアを共有し、新しいビジネスモデルを開発する手法)を採用しています。AI、IoTを駆使して、売場の可視化や、受発注の自動化、レジなし決済などをテーマに研究を進めています。

 今後、業態を問わず、有力小売業の皆さんの参加も募り、研究を進めていきたいと思っています。当社の無人店舗技術を開放し、研究会の加盟企業等への実験導入を積極的に支援します。小売業の皆さん、ぜひ、一緒に「第4次産業革命」を推し進めていきましょう。

カメラが欠品を認識、自動発注の精度上げる

──研究会ではどのようなことを検証していますか。

亀田 大きく分けて3つです。スマートカメラを利用することで「人間の目を機械の目に替える」こと。機械の目によって得たビッグデータを「人間ではなくAIが分析、判断する」こと。その判断に基づいた行動を「人間ではなく機械(ロボット)が実行する」ことです。

 近年、カメラの単価が安くなり、画像認識の精度も上がっているため、機械の目に置き換え、AIが判断するところまではできるようになりました。ロボットによる行動はこれからの課題です。

──機械の目、AIによる判断を、リアル店舗でどのように活用しますか。

18年2月にオープンしたアイランドシティ店

亀田 いちばんわかりやすいのは受発注の自動化です。生鮮食品、日配品以外は多くの小売業で自動化されていますが、トライアルはこの2つも自動発注できるように実験をしています。

 アイランドシティ店のように、スマートカメラを店内に張り巡らせることで、これまで人の目で確認していた欠品を、カメラが認識できるようになりました。欠品してから人が気づくには一定の時間がかかりますが、カメラは正確な時間を把握できます。どの商品がいつ欠品したかという正確な情報を得ることで、より精度の高い自動発注を実現できるようになるのです。

 また、これまで長年経験を積んだ職人が考えてきた棚割りをAI化する実験も行っています。この4月からAIベンチャー企業と提携し、職人の知識をAIに学習させることで、AIが棚割りを提案できないか、実験と検証を進めています。

 店舗の運営コストを下げるうえで最も効果的なのは、レジのない決済です。アイランドシティ店は、事前に登録しているプリペイドカードを入口ゲートにかざし、購入したい商品をスマートカートについている端末でスキャンし、出口ゲートを出れば、自動決済されるという仕組みで、レジレス決済を実現しました。

 

カメラの単価が安くなったことにより、「人間の目を機械の目に置き換える」ことができるようになった
トライアルのタブレット付きスマートカート。顧客情報、買物履歴、位置情報などを紐づけることで、ショッパーマーケティングを行う

「AI、IoTを活用して、買物客の購買意欲を刺激する」

リアル店舗の強みは8割の非計画購買

──AI、IoTの活用によって、店舗運営の効率化以外に、売上アップにつながる施策はありますか。

亀田 今、大手広告代理店と提携し、ショッパーマーケティング(消費者全体をターゲットにするのではなく、店に買物に来た人に対して、店頭での購買を促すマーケティング手法)を研究しています。

 これまでのマス媒体による広告は、見る人のほとんどはその商品に興味のない人達なので、決して効率的なマーケティングとは言えなくなってきていると私たちは考えています。そこで、ECが行っているようなOne to oneマーケティングにできるだけ近い広告を、タブレット付きのスマートカートでやってみようと考えました。

 また店舗全体をサイネージ化することで、売場を1つの商品でジャックすることが可能になります。その商品が最も売れる時間帯に、店舗全体のサイネージで一括プロモーションすることで売上は劇的に変わります。山手線の広告ジャックと同じで、施設全体でのプロモーションは小さな画面と異なり迫力があります。しかも、その商品をその場で買うことができるのです。

──スマートカートをどのように活用しますか。

亀田 スマートカートは、プリペイドカードに登録している顧客情報、買物履歴、カートの位置情報などを紐づけることができます。たとえば、過去の購買履歴や似たような購買特性がある顧客の購買履歴に基づいて、適切なクーポンを発行することで、興味がある人に特定の商品を宣伝することができます。さらに地域特性や性別、季節や時間帯などの情報を加えることで、さまざまな提案ができるようになります。

──こういったビッグデータの活用を、ECではなく、リアル店舗で行う強みはどこにありますか。

亀田 すでにOne to oneマーケティングをモノにしているECと比べて、リアル店舗の持つ強みは非計画購買にあります。実店舗で買物をする際、約2割が計画購買、約8割が非計画購買と言われています。買物客の購買意欲を刺激できるような売場づくりを、AI、IoT技術を活用することでつくっていきたいと考えています。

 ID-POSをはじめ、ビッグデータを持っている小売業はたくさんあります。しかし、その中でどのデータを抽出すべきか、どうやって分析するのかがわからない企業が多数です。研究会は、試行錯誤しながらそのノウハウを蓄積しています。

──アイランドシティ店の現状の利用状況はいかがですか。

亀田 17年11月に導入したプリペイドカードは、アイランドシティ店での利用率は約6割で、スマートカートの利用率は約4割。これは計画以上の数字です。とくに利用率が低くなるだろうと予想していたシニア層の利用率が想定以上でした。

 プリペイドカードの利用率がもう少し高くなれば、現金利用不可で、プリペイドカード決済のみ可能、ということもチャレンジできるようになるのではないかと考えています。そうなれば経費削減が実現するので、その分をさらにお客さまに還元できると思います。

──アイランドシティ店の次のスマートストアについては何かお考えですか。

亀田 まだ検討中です。まずは特定のエリアで同様のコンセプトの店舗を展開したいと考えています。

 いずれは、品出し作業のロボット化等も可能になるかもしれません。これからも色々なことにチャレンジしたいと考えています。

 

新店は小型中心、生鮮とH&BC強化

──スマートストアに限らず、店舗への投資はどのようにお考えですか。

トライアルホールディングス代表取締役社長
亀田 晃一

亀田 近年は15~20店舗の新規出店を続けてきました。今後もこの出店ペースは維持する予定です。

 トライアルは、02年の金融恐慌時に、九州で不振が続いていた小売店舗の居抜き出店で急成長してきました。そして、08年から約10年間、1200坪のスーパーセンターを地方の郊外に出店するというモデルを続けてきました。

 しかし、この数年人件費単価が年率で約3~4%ずつ上がり続けているうえ、地方は人口が減り続けているため採用自体が容易ではなくなってきています。

 そのために取り組んでいる1つが、上記のデジタルを活用した無人化・省人化で、同時に実験を進めているのが小型化です。300坪や150坪タイプで、生鮮食品とH&BCを強化した店舗にチャレンジしています。とくに生鮮食品は後発ですが、企業規模による仕入れ価格差がそこまで大きくなく、まだまだサプライチェーンの効率化が進んでいないカテゴリーなので、力を入れていきたいと思っています。

 また、小型店舗ほどデジタル活用による自動化もしやすいのです。

──既存の1200坪型のスーパーセンターはどのようにされますか。

亀田 まだまだ工夫の余地があります。たとえば、来店客のほとんどは車で来ているのに、カー用品、自動車整備、保険等のサービスは十分に提供できていません。「グローサラント」が話題となっていますが、飲食サービスの提供も可能だと思っています。

 われわれは小売企業ではなく、サービス企業になる必要があります。いろいろな企業と提携することで、地方のライフラインとなるような店舗をめざします。

──新規出店のペースを維持し、既存店をてこ入れすることで、これからも拡大を続けていく計画ですか。

亀田 われわれは将来、株式上場も視野に入れています。上場時に売上高1兆円を目標にしています。また単なる小売企業ではなく、IT企業、サービス企業として、第4次産業革命が進む中で、日本の流通業界を変えていきたいと考えています。

 

>>他のインタビューを見る