セブン-イレブン・ジャパンのトップ交代の人事が発表され、4月8日付で新社長に永松文彦氏が就任する。前任の古屋一樹氏は取締役会長に就く。4日に開催された記者会見では同社の現在の経営課題が語られた。
組織に生じた
“パイプの根詰まり”
大阪府東大阪市の加盟店オーナーが人手不足により営業時間を短縮したことを発端とした“24時間営業問題”が注目を集めていた最中の発表だった。
会見に永松文彦次期社長とともに登壇した、セブン&アイ・ホールディングスの井阪隆一社長は、社長交代の理由について次のように説明した。
「組織にコミュニケーションにおける“パイプの根詰まり”があった。チェーン店規模が拡大したことで組織の縦のレイヤーが増え、とくにここ1年を振り返ると現場の情報が本部に上がりにくい状態になっていた」と語る。
セブン-イレブンの2019年2月末の店舗数は2万876店。かつては、加盟店の経営指導を行う「オペレーション・フィールド・カウンセラー(OFC)」が全国から東京・四ツ谷にある本部に週1回集結して「FC会議」を実施、経営方針や商品情報を現場に直接伝えることが「強さの源泉」になっていた。
しかし、現在は店舗数の拡大とともにOFCが増えて全員が一同に集まることが難しくなった。会議の頻度は2週に1回になり、テレビ会議という方法をとることもある。コミュニケーションの密度が薄くなった結果、現場、個店の課題が本部に上がりににくくなっているのだという。
そこで新体制の下、現場とのコミュニケーションを強化する。全役員がすべての地区(全200地区)を訪問し、加盟店オーナーと膝詰めで対話し、個店の状況に合わせた経営改善を進める。
この状況下、新社長に指名されたのが永松氏だ。同氏は1980年にセブン-イレブンに入社し、オペレーション本部ゾーンマネージャーを経て、14年3月にニッセンホールディングス(京都府)の副社長に就任。15年3月からセブン&アイの執行役員に就いたのち、人事部門の責任者を歴任してきた。「人材が何よりも重要になるなか、人事や教育、労務管理に精通している。また、当社で最も重要である加盟店オーナーさまとの接点を長く持ってきた経験もあり、現場の声を適切に吸い上げることのできる資質を持っていると考えている(井阪社長)。
新規出店数を
500店以上削減
会見では井阪社長が今後のセブン-イレブンの「事業構造改革」についても述べた。改革は3つの施策によって進める。
1つ目が、新規出店のあり方の抜本的な見直しだ。出店の基準を見直し、店舗の数ではなく「質」を追求して精度を高める。2020年2月期の新規出店数は850店と前期よりも539店減少する計画で、閉店の750店(対前期比23店減)を差し引いた店舗純増数は100店にとどまる。
2つ目は、既存店の強化だ。これまでは設備投資の約6割を新規出店の費用に投じていたが、20年2月期は約6割超を既存店投資に充てる。改装により新レイアウトを導入して売上向上を図るとともに、セルフレジのほか、AIやIoTなどの先進技術を店舗に導入して省力化を図る。
3つ目は、本部の構造改革で、なかでも店舗開発や会計などの業務を見直し本社経費を削減していく。
これまで毎年1500店前後のスピードで出店することで成長してきた同社だが、このように、方向性を大きく転換させる方針を打ち出している。
営業時間は
個店ごとに対応
さらに、“24時間営業問題”についても今後の方針が語られた。
セブン-イレブンは2019年3月から24時間営業の実証実験を10店で実施しており、その結果を踏まえて営業時間についても個店の状況に合わせて柔軟に対応していくという。現在、全体の0.5%に当たる96店のオーナーから「営業時間を短縮したい」という申し入れがあるという。
コンビニエンスストアは24時間営業を行うと「いつでも開いている」という信頼感を得られることなどから売上が伸びると言われている。実際、セブン-イレブンの実証実験では営業時間を短縮した店舗では売上が減少する結果が出た。
永松氏は「われわれには加盟店オーナーさまを守る義務がある。今回の実験結果や、営業時間短縮で生じるリスクについてもしっかりお伝えし、そのうえで個店ごとにこれからの営業体制について決めていく」と説明した。
コンビニエンスストアのトップランナーとして他社の追随を許さぬ勢いで成長を遂げてきたセブン-イレブン。しかし、ここにきて、組織が巨大化したゆえの課題が明るみとなった。永松新体制のもと、これからの時代に即したコンビニエンスストアのビジネスモデルをつくることができるか。