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2席の予約確保に40万円?飲食業界震撼の新サービス「食オク」とは

飲食業界を驚かせた、これまでにない新サービス「食オク」をご存知だろうか?“食のオークション”を意味するこのサービスは、数ヶ月先、一年先の予約すら取れない“超”のつく予約困難店の予約権をオークションにかけるというもの。しかもオークションで落札して約束されるのは、予約する権利のみ。つまり、飲食代はまた別というから物議を醸し、2022年10月11日にローンチされると「転売と同じではないか」という声が挙がって大炎上。それでも会員数は増えており、開始から1ヶ月で3000人を突破。そんな注目のサービス、食オクの実態をまとめた。

現在、東京、京都、静岡の予約困難店9店舗が登録する食オク。今後、店舗も増えるという

オークションで競う高級店の席代

 始まるやいなや「鮨さいとう」の1席の予約が10万円、「aca」が11万円で落札されて話題となり、最近では「鮨さいとう」の2名席が40万円、「aca」の2名席が422000円という高値がついた「食オク」。そのほかの食オク加盟店の座席も7万円〜8万円の値が付くなど、熾烈な予約権争いが繰り広げられている。

 こうした落札価格に加え、落札者はさらに落札価格の10%を手数料として支払い、食事後は普通に飲食代を支払う驚きのシステムだ。一方、売上の内訳は10%が飲食業界を支える非営利団体に寄付され、残りを飲食店と食オクで分配するとされている。

 運営する株式会社食オク(東京都/山澤孝司社長)は、20228月に専用サイトをリリースし、予約困難店に特化した予約権利のオークションサービスとして会員募集を開始。1011日にサービスをスタートした。

 開始当初の登録店は「鮨さいとう」(東京都/寿司)、「aca」(東京都/スパニッシュ)、「鮨しゅんじ」(東京都/寿司)、「グルマンディーズ」(東京都/ビストロ)、「CHIUnE」(東京都/イノベーティブ)、「斎華」(京都/中国料理)、など9店舗。そのほとんどが他の予約サイトでは露出しておらず、電話番号すら非公開とし、常連客だけで回している店。しかし開始当初炎上したせいか、12月現在ではすでに2軒の店が入れ替わっており、今後は登録店舗を増やす意向だというが動きは鈍い。

 

食オク誕生の背景にある業界の深刻な課題とは

 そもそも山澤氏が同サービスを始めたきっかけは、飲食業界の課題解決のためだという。というのも、飲食店の売上は当然ながら客単価と席数、回転数、営業日を掛け合わせた数字で、それ以上は望めない頭打ちにある。

 そもそも他業種と比較して平均年収は低く、近年が原材料・人件費の高騰に直面している。その反面、頻繁に値上げできない難しさも滲む。何より「日本の高級店」が世界レベルで見れば、「屈指の安さ」と言われるなか、日本の飲食店が仕入れ競争で敗れて、原材料の品質が劣ることを山澤氏は懸念した。

 そこで飲食店が新たな収益を確保できる仕組みをつくることで、これら問題の解決をめざした。

 また売上の一部を、一次産業など食文化の発展に関わる非営利団体に寄付し、食文化の発展に貢献するとしている。

 こうしたコンセプトに対し、「実態は食オクがほとんどの席を抑えてオークションにかけ、転売しているのでは」という声も挙がった。

 それに対して食オクの解答は「あくまで飲食店から昼と夜の間の席や休みにするはずだった席、キャンセルが出た席などを提供してもらい、その席をオークションにかける」というものだ。

 また以前から予約の転売が横行しているのにもかかわらず、飲食店には一銭も入らないことやお金を出しても特別な日に特別な店へ行きたいニーズがあると考えて始めたサービスだと話した。

 

「食オク」が予約困難が助長するかもしれない理由とは

Q&Aではサービスの趣旨を説明する

 参画した飲食店の考えとしては、「常連客以外で予約したい人がいてもこれまで予約を受けられなかった。この要望に応えられることや食文化を守ることに貢献できることが魅力だ」と話す。

 また利用者は、どうしても利用したい際に店の選択肢の間口が広がるという声も挙がった。とはいえ、従来は1円も支払う必要がなかった「予約権」に莫大なお金がかかることからも、「富裕層向けのサービス」ということは瞭然だ。

 初めてのサービスだけに物議を醸すことは当然として、課題は依然と多い。

 例えば転売を懸念して作った公正なサービスだと主張するが、オークションシステムである以上、需要が上回った場合は価格がつり上がることは必至だ。また食オクで落札した予約の権利は転売厳禁としているが、何かしらの転売対策システムを取り入れることも必要だろう。

 また、「食オク」を通じて、常連が増え、さらに予約困難が助長されるという懸念もぬぐえない。食オク側は、「食オクで落札して高級店へ足を運んだ際、次回の予約は取れない」としているものの、あるお客が立て続けに落札して何度か店へ足を運んだ場合、事実上“常連”として認められることが考えられるからだ。

 結局はモラルの問題ばかりが目につき、参画する飲食店への印象も深刻化することも懸念材料だ。

 一方で、コロナに罹患したお客によるキャンセルやダブルブッキングしてしまったお客によるキャンセルなど、飲食業界にとって近年特に深刻な直前キャンセルによる食材ロスや不利益への対策としては極めて有効だ。

 今後、食オクは運営しながら徐々に対策を講じると話している。そしてやがてはパリやニューヨークといった海外の予約困難店でも展開することを示唆している。物議を醸しているからか、秋以降、オークションがオープンになることは無く、動きは鈍いものの、今後も注視したい新サービスだ。