首都圏で食品スーパーを展開するサミット(東京都)、ドラッグストア企業のトモズ(東京都)などの親会社として知られる総合商社大手の住友商事(東京都)。同社のリテール領域のビジネスを管掌するのが、2022年4月にライフスタイル・リテイル事業本部と食料事業本部を統合するかたちで発足した「ライフスタイル事業本部」だ。
「川下目線の取り組みで差別化を図る」
ライフスタイル事業本部の主な傘下企業は、旧ライフスタイル・リテイル事業本部にあった食品スーパーのサミット、ドラッグストのトモズ、マレーシアで医療関連事業を手がけるSC Healthcare Holdingsのほか、旧食料事業本部にあった食品商社の住商フーズやアイルランドの青果物卸会社・ファイフスなどだ。
ライフスタイル・リテイル事業本部と食料事業本部を統合したねらいは、サプライチェーンの川上と川下を一気通貫で管理することにある。統合前、食料事業本部とライフスタイル・リテイル事業本部は「販売者」と「顧客」という関係にあった。これが統合されることによって円滑なコミュニケーションが可能となり、サプライチェーン全体の中で収益が取れる機会が高まると期待する。
ライフスタイル事業本部ではこうした一気通貫のサプライチェーン実現を図る一方、新しい戦略も志向し始めている。
住友商事執行役員ライフスタイル事業本部長でサミット会長を兼務する竹野浩樹氏は「川上目線が強い総合商社の中にあって、消費者と接点のある食品スーパーやドラッグストアなどの小売を傘下に持つ住友商事ならではの川下目線の取り組みで差別化を図っていきたい」と話す。
住友商事が描く「住商首都経済圏構想」
総合商社は川中、すなわち食品卸を資本系列化することによって取引規模の拡大につなげてきた。しかし、住友商事は三菱商事や伊藤忠商事と違って食品卸を傘下に持たないため、自然と異なる戦略に向かう。
そこで、同社が構想しているのが、食と健康をテーマとして掲げるデータ活用ビジネスだ。住友商事は「住商首都経済圏構想」と呼び、青写真を描く。
住友商事は、100%子会社のサミット、トモズ、そして約20%出資する食品スーパーのマミーマート(埼玉県)などの小売企業をグループ傘下に持つ。この強みを生かし、現在は小売各社の会員カードから得られる顧客の購買データなどを一元管理し、分析・活用するというビジネスの検討を進めているという。強みとするのは、それらのデータが自社で収集した「ファーストパーティデータ」であることだ。
「店舗という拠点を持ち、そこで利用された結果得られるファーストパーティデータであることをフルに生かしていきたい。圧倒的に厚みのある日常の購買データという点で価値があり、競争優位性は高い」(竹野氏)
しかも、そのデータは首都圏に特化されている。サミット、トモズなどは、いずれも首都圏に集中的に店舗を展開し、店舗数はサミットが約120店舗、トモズが約210店舗となっている。グループ傘下にある小売各社が抱える会員数は概算で600万に上る。首都圏は人口4400万人、所得も高く、分厚い消費市場を抱える。各社の店舗展開エリアに限ってみると人口は二千数百万人程度で、これを分母とすると600万という会員数は優に2割を超える割合になる。
こうした首都圏に特化して収集した日常の購買データは店舗を組み合わせて分析する。その結果は小売各社に還元するだけでなくメーカーにも提供する。言うまでもなく首都圏はメーカーにとって重要なマーケットだ。食品・健康を含めてライフスタイルに関連する企業にとって有益なデータとなる。住友商事は総合商社という看板を使いさまざまなメーカーにアプローチし、分析の提供先を広げていく考えだ。
食と健康のニーズを探る研究所を新設へ
住友商事では現在、事業展開の準備段階として、サミットとトモズのポイント連携、会員情報の統合を進めているところだ。「サミットとトモズを掛け合わせることでデータ分析の解像度が上がる。食品スーパーだけではなく、ドラッグストアのデータがあるという強みを生かしていきたい」(竹野氏)。
購買データだけでなく、住友商事がサミット、トモズと組んで、サミット店舗に試験導入している健康コミュニティコーナー「けんコミ」のデータも活用する。同コーナーでは、来店客がセルフチェックできる健康測定器を設置するほか、常駐するトモズの管理栄養士が栄養指導や健康相談を行っている。ここで得られるデータのデジタル化を進め、購買行動の変化、行動変容などを把握し分析に生かしていく考えだ。
さらにライフスタイル事業本部内に、「エイジング」や「食と健康」など特定のテーマをもとに未来のライフスタイルを洞察するための研究所を新設する。研究所はデータ分析というよりも、消費者の声を吸い上げ、将来的に求められる商品やサービスを探ることに主眼を置く。2023年4月には研究所に専任メンバーを配置する予定だ。
さらなるM&A、業務支援も選択肢に
住商首都経済圏構想が実現し首都圏で一定の成功モデルができあがれば、ほかの地域にも同様の事業を拡大し、サミットやトモズ以外のほかの小売にもデータ活用基盤を開放していくという。食品スーパーのM&A(合併・買収)についても機会があれば検討するが、資本系列化だけでなく、サミット経営で得た知見を生かした業務支援を行うことも視野に入れる。
提携した小売に対して、住友商事の持つデジタル支援機能も活用する。社内横断組織としてDX(デジタル・トランスフォーメーション)センターを設置しているし、メディア・デジタル事業部門傘下にDX支援を手がけるインサイトエッジ、デジタルビジネス開発のSCデジタルメディアなどを抱えおり、系列の事業会社に対するAI活用やデータ分析などのDX支援を行っている。こうした住友商事の持つリソースも事業展開の一翼を担うことになる。