3面の大型LEDビジョンを備えた「ユニカビジョン」で知られる新宿の名所「ヤマダ電機LABI新宿東口館」が閉鎖したのが2020年10月のこと。その後釜として名乗りをあげたのがスポーツ用品販売大手のアルペン(愛知県/水野敦之社長)だ。
そして2022年4月、ヤマダ電気の跡地に「Alpen TOKYO」がオープンした。地上8階・地下2階建て、同社最大のフラッグシップショップだ。ちなみに、ユニカビジョンも存続されたようだ。
オープンから半年余りが経過し、出足は順調なのか。アルペンは個店の売上を公表していないが、既存店売上合計・全店売上合計とも22年4月以降ずっと前期実績を上回っており、全般的に調子がよいことは間違いない。
今回の記事では、「Alpen TOKYO」を切り口に、アルペンが東京・新宿の地に大型店を立ち上げた背景、最近の業績と今後の動向について見ていきたい。
実は低い「スキー・スノボ用品」の構成比
『絶好調、真冬の恋スピードに乗って』
1995年にリリースされた広瀬香美の「ゲレンデがとけるほど恋したい」の一節だ。同名の映画とアルペンCMのタイアップもあって、この曲は現在も歌い継がれる大ヒット曲となっている。
そうした経緯もあって、アルペンの名前を聞けば当時のCMを思い出し、スキー・スノボを連想する人は多い。
だが、今やアルペンの売上高におけるスキー・スノボ用品の割合は5%にも満たない。売上を支えているのは、「ゴルフ」「スポーツライフスタイル」「競技・一般スポーツ」といったカテゴリーだ。
業態的にも、約400ある店舗のうち「アルペン」の名を冠しているのは2割弱に過ぎず、店舗の大部分は「ゴルフ5」「スポーツデポ」が占めている。
苦難の時代を乗り越え……
アウトドアムーブにも支えられ、直近の業績は『絶好調』とまでは行かずとも好調に推移している。
2021年6月期は過去最高の売上(2332億円)を更新、22年6月期は微減収となったものの前期と同水準を維持している。11月8日に発表した2023年6月期第1四半期決算では、通期売上予想を過去最高の2480億円に据える。
2010年代のアルペンは苦難の時代が続いた。大手スポーツ用品店各社は出店拡大でシェア争いを繰り広げるものの、人口減少やネット販売へのシフトへの対応が遅れ売上が低迷した。
2018年になると、アルペンはリストラに追い込まれ、2018年6月期だけで24店舗を閉鎖。偏在在庫を償却すると同時に、400人近い希望退職も実施した。
先が見えない状況の中で、降って湧いたのがコロナ禍で人気を呼んだゴルフとアウトドアだ。直近5年(2018→2022年)の売上構成比でも、「一般・競技スポーツ」が▲7.7ポイント低下した(50.3%→42.6%)のに対し、「ゴルフ」は4.6ポイント(35.5%→40.1%)、「アウトドア」は6.2ポイント(6.5%→12.7%)も伸ばしている。
首都圏エリアでの遅れを挽回できるか
そうして波に乗ったアルペンが打ち出したのが「Alpen TOKYO」構想だ。ただ、都心の大型店は出店コストがかさみ、リスクも高い。なぜアルペンは勝負に出たのか。
スポーツ用品販売店業界は、ゼビオホールディングス(福島県:以下、ゼビオ)とアルペンの2強が3位以下を大きく引き離している。僅差でトップ争いにしのぎを削る両社だが、強みとするエリアはまったく異なる。
首都圏とくに東京・神奈川では、ゼビオの店舗数がアルペンの3倍近くある。イメージ的にも、ゼビオがターミナル駅のビル内などでよく見かけるのに対し、アルペン系の店舗は郊外のロードサイドに店舗を構えているように感じる。
見方を変えれば、首都圏エリアはまだまだ伸びしろがあるとも言えよう
ただし、好立地の物件はそう出てこない。そこに舞い込んだのが「ヤマダ電機」の新宿撤退だ。アルペンにとってはまたとないチャンス到来というわけだ。
売上は堅調も利益面は……
売上は堅調に推移するアルペンだが、利益の展望は決して明るくない。2022年6月期の営業利益は71億円と、前期(150億円)から半減。今のところ2023年6月期通期予想も横ばいを見込む。
新規出店・既存店強化・光熱費増などによる販管費増の影響もあるものの、減益の最大の要因は、なんといっても粗利益率の悪化だ。2022年6月期通期の粗利益率は前期から2.6ポイントも低下している。
円安や資材価格の高騰で、仕入負担は重みを増す一方だ。物価高と騒ぐ割に、日本の消費者物価(CPI)上昇率は欧米よりはるかに低い。ただ、ビジネスにおける仕入価格を反映する企業物価指数は10%近く上昇し、企業収益を圧迫している。ライバルとの価格競争も厳しく、価格への転嫁が難しい点も災いした。
今のところ好調な売上も、「アウトドア特需」が鈍化傾向にある中で先行きは楽観できない。
事業環境を踏まえたうえで、アルペンの戦略はどうあるべきか。巨大旗艦店によるシェア争いもよいが、それだけではレッドオーシャンから抜け出せない。プロダクトミックスによる粗利改善、また、新分野の開拓などブルーオーシャンに向けた取り組みも必要だ。アルペンは最近、キャンプ場を自ら経営するといった新たな試みも打ち出している。レッドオーシャンを抜け出し利益成長を実現できるかに注目だ。