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不況下で支持基盤を広げて大躍進、満を持して九州に乗り出す!=大黒天物産 大賀昭司 社長

岡山県を地盤に中四国、関西エリアでディスカウントストア(DS)を展開する大黒天物産が元気だ。1月に発表され た2009年5月期の第2四半期決算は売上高対前期比10.4%増、営業利益同18.2%増の増収増益。不況下でも快進撃を続けている。今年5月には、九 州・福岡県に九州エリアの1号店を出店し、新規エリアでの店舗網拡大にも乗り出す。激しい低価格競争の中で勝ち残る強さとは──。

不景気も追い風に、新たな客層を獲得し絶好調

大賀 昭司(おおが・しょうじ) 1956年生まれ。86年大黒天物産の前身である有限会社倉敷きのしん設立。93年大黒天物産株式会社に改組、同年から現職。53歳。

──リーマンショック以降も、業績は順調に推移しています。足元の状況はどうですか。

大賀 既存店売上高は、対前年比5~10%増くらいで推移しています。

 今期(2009年5月期)は増配も達成し、賞与も通常2回の賞与とは別に、冬と夏それぞれに決算賞与を出しました。利益はお客さまと従業員と株主に還元していくというかたちですね。お客さまに対しては、12月は2億円還元セールを実施しました。

 利益が出るから安く売る、安く売るからお客さまが来店される。またそれで利益が出る。いい循環ですね。

──好調の要因をどのように分析していますか。

大賀 お客さまが変化したことが大きな要因だと思います。最近のお客さまは、今まで以上に価値のあるものを求めて、厳しい目で商品を選ぶようになっている。あるいは価格を重視する傾向が強まっています。

 かつては「高いものは品質がよい」と錯覚されていましたが、必ずしもそうではないと考えるお客さまが増えたのではないでしょうか。

 今まで食品スーパー(SM)や食品スーパー(GMS)に行かれていたお客さまが、当社のようなDSで買物してみて「品質はSMやGMSと全然変わ らない」と気づかれた。それで「今まで買っていた価格はなんだったのか」と、リピーターとして来店していただけるようになっているのだと思います。売上の 金額以上に、来店客数が相当伸びていますね。

プライベートブランドは売上高構成比7割が目標

──大黒天物産の低価格展開を支えるものに、プライベートブランド(PB)「D-PRICE」があります。

大賀 まだ20店舗くらいしかなかったころからPB商品を開発してきて、現在は450~500アイテムを展開しています。

 PBの売上高構成比は現在25%くらいですが、販売点数の構成比は33~35%の間を行ったり来たりしています。つまりお客さまが購入される商品の3個のうち1個はPBですから、PBを抵抗なく買っていただいているということですね。

──PBの売上高構成比はどの程度が目標ですか。

大賀 7割程度が目標です。アイテム数というよりは、販売数量や売上金額を増やしていきたいです。

 アイテムについては、PB化してもそれほど販売点数が見込めない商品もありますから、そこはナショナルブランド(NB)にお任せします。基本的にPB化する商品は、ある程度の販売ロットが必要ですね。

──PB開発の際のメーカーの選定は、どんなかたちでやっていますか。

大賀 PBメーカーは、当社のつくりたい商品に関心を持っていただいた企業数社でコンペをします。製造や物流の方法を具体的に伺い、当社が希望する価格で実現できるかどうかで決めています。

──PBの「味」は、どのようなプロセスで決まるのでしょうか。

大賀 週に3回開く商品会議で、20人ほどのバイヤーが全員で試食・試飲をして多数決を取っています。基本的に比較するのはNBと、PB試作品2種類。それぞれがどれなのかをわからないようにして、試食するわけです。

 全員で食べてみて多数から評価された味が、お客さまからも受け入れられる味なんですね。

──商品の改廃については、どの程度の頻度で見直しをしていますか。

大賀 いい商品があれば、その都度です。いったんPBを開発しても、よりいい条件の提示があれば、即座に替えます。

──総アイテム数が4500アイテムある中の400~500アイテムがPB、残りの4000アイテムはNBです。NBの品揃え基準は?

大賀 まず、同じメーカーA社の商品であれば、ベンダー数社から相見積もりを取ります。一方、同じカテゴリーの異なるメーカーの商品については、メーカーA社、B社、C社で相見積もりを取ります。

 常に単品レベルでベンダーとメーカーの相見積もりを取って、お客さまにとっていちばん魅力的な商品価格を打ち出していきます。

──価格のプライオリティが高いわけですね。

大賀 どちらかといえば、当社は価格に重点に置いています。ですからNBのトップブランドメーカーではなくて、2番手、3番手であっても価格がトップブランドに比べて安いメーカーがあれば、そちらを重点的に販売します。

 さらにPBの「D-PRICE」なら、NB価格に対して3~5割は安く売るのがコンセプトです。1割程度ならPBにするメリットがありません。

販管費の低さは今後を勝ち抜く必須条件!

青果売場は什器の高さをおさえており、店内の見通しがよい

──価格訴求の原資をつくるためには、低コスト経営が必須となります。業務改革については、去年から「業務システム改革プロジェクト」を始めました。

大賀 人時生産性の改善にはずいぶん前から取り組んでおり、作業の標準化が進んだことで確実に生産性が上がってきています。また自動発注システムも稼働していますので、店舗の従業員が発注することはほとんどなくなりました。

 一つひとつの作業や規定、マニュアルづくりもそうですが、すべてはいくつかの実験を重ねて最終的に1つのかたちに決まっていきます。たとえば什器についても、新しい設備を導入したら、作業はどう変化するか。生産性は上がるのかと、実験と検証を繰り返しています。

 まだまだ実験段階ですが、総菜の作業改善にも取り組んでいます。広い作業場のある店舗で近隣5店舗分の総菜をつくり、プロセスセンターのような役割を担わせるというものです。

 将来的には、総菜も含めた生鮮4品でプロセスセンターの活用を検討していきます。

──より低コスト経営を実現することで、企業体力を高めていくということですね。現在の大黒天物産の売上高販売管理費率(以下、販管費率)は17%台後半ですが、これを13%台まで落とそうと計画しています。

大賀 13.5%が目標です。そのレベルまで持っていかないと、DSは生き残れませんから、段階を追って販管費率は引き下げていきます。

──具体的な取り組みとしては何が考えられますか。

大賀 店段階の作業をどれだけ減らすかにかかっていると思います。「効率よく」ではなくて、「やめる」発想で考えなくてはいけません。おそらく他の企業に比べたらかなり低コスト体質になっていますが、まだまだ改革の余地はあると考えています。

 とくに物流費に関しては、当社は日本国内の小売業の中でもハイコストな部類に入りますので、これから出店してドミナント化を進める中で下げていきます。

──作業改善に取り組んだことで、店舗の人員は減りましたか。

大賀 そうですね。パート社員については、シフトの組み方を改善することで、人数や勤務時間を減らすことができるようになっています。

 社員については、来期以降の出店に備えて採用を増やしたこともあり、逆に余剰人員を抱えています。

 それにもかかわらず1店舗当たりの人件費は下がっていますから、店舗段階の作業人員は相当に効率化されていると自負しています。

──販管費率の目標が13.5%なら、粗利益率は?

大賀 経常利益率5%を出すのが当社の方針ですから、粗利益率は18.5%程度になります。ただし、粗利益率以前に仕入れ原価が問題です。仕入れ原価が高ければ売価は高くなってしまいますから、徹底的に安い仕入れをしていきます。

 世の中には粗利益15~16%という企業もあります。これから先は、価格競争が熾烈になっていく中で、コストをどれだけ抑えられるかに勝負がかかってくると思います。

──現状に満足しては、来るべき競争には絶対に勝てない。

大賀 今、各社とも売上も客数も利益も減っていながら、価格だけは低価格競争をしている状況です。小売業は、目 の前の戦いに乗り遅れたら淘汰されてしまいます。だから各社は利益よりも売上と客数に重点を置いた取り組みをしています。こうなったときに、やはり販管費 率の低さは勝ち抜いていくための大きな条件になってくるでしょうね。

原点にある“商人の心”を社員にあらためて説く

──一般的には不況と言われ、新卒採用を控える企業が多い中で、採用も増やしています。

大賀 今年は170人の予定です。来春も同程度を計画しています。小売業に限らず大手企業が新卒採用を抑えている状況ですから、これから出店を加速していく当社にとっては、ちょうどいいチャンスですね。

──人材教育にも力を入れています。教育機関として「大黒天大学」を一昨年の11月に立ちあげてから、丸一年がたちました。

大賀 「大黒天大学」は、店長研修や、次期店長研修、同期生の研修などを、社内のスタッフや外部の教育機関、あるいは専門家を招いて指導、教育する場です。コンセプトは「心と頭と体の教育」です。

──「心の教育」というのは何を意味していますか?

大賀 「商人の心」です。人間として社会人としてはもちろんですが、サラリーマン化せずに、商人の心を持ってほしいということです。

 店舗数が増え、企業が成長してきた過程で、標準化や仕組み化、システム化も進めてきました。そうした過程で、企業はどうしても官僚的になり、大企 業病にかかってしまう。でも当社は大根1本、巻き寿司1本が売れて始めて成り立つ会社です。そういった原点が忘れ去られて、管理体制や組織によって経営が うまくいっているかのような錯覚に陥ってしまうのは危険なことです。

 もちろん管理体制も組織づくりも重要ですが、常に原点に立ち返って社員一人ひとりが商人の心を持って仕事をしなくてはいけないと思っています。

 日ごろから話してはいますが、ここのところとくに強く感じ始めたので、店長会議や営業会議、大黒天大学といった場で話すようにしています。

 それから、流通業だけではなしに、最終的には人をつくっていかなくてはいけない。当社で働く以上、従業員にはいい人生を送っていただきたいという思いがありますね。

いざ、九州へ「必ず勝って、根を下ろす」

──昨年夏に、M&A(合併・買収)を担当する企業戦略室を設置しました。

大賀 M&Aは、西日本エリアを想定しています。今の時代は後継者問題等もあり、案件自体は山のようにありますが、当社にとってプラスになる案件を精査していきますから、時間がかかる話です。

──そして、いよいよ九州に進出します。

大賀 2010年5月に福岡県に九州1号店の水巻店をオープンします。

 ここ数年、企業も大きくなって、スタッフもよくやってくれていますので、経営者として安閑としていた部分がありました。20年以上経営していて、 闘志満々で武者震いがする高揚感を久しぶりに味わっています。今回の九州進出には、熱いものがあります。もう少年に帰ったような気持ちでワクワクしていま すね(笑)。

──地元九州の有力ディスカウンターとの一騎打ちになります。

大賀 10年後、20年後に、「九州水巻店のあの戦いがあって、今の大黒天物産があるんだ」と言えるようにしたい。お互いに切磋琢磨して、学んで努力しながら成長していって、そこから21世紀の日本の小売業をつくっていきたいですね。

 九州の出店は必ず成功させなくてはいけません。九州に根を下ろしますよ。水巻店の店長には「勝って帰らんと、本州には帰さん」と言っています(笑)。