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価値商品を開発、売り込むことで1点単価の引き上げを実現=オークワ 福西拓也 社長兼COO

オークワが地盤とする和歌山県の人口は、この8月に100万人を割り込んだ。人口減に直面する同社だが、これこそがオークワをさらに成長させる原動力となるかもしれない。なぜなら、少ない商圏人口で成立する店舗ノウハウと、現在注力している1点単価の引き上げ策は、“客数減少時代”に勝ち残るための必須条件だからだ。福西拓也社長に今後の施策を訊ねた。

1点単価の引き上げに必死になって取り組む

オークワ代表取締役社長兼COO ふくにし・たくや 1955年生まれ。78年、大阪経済大学経営学部卒業後、オークワに入社。99年、SL事業部長、2000年、三重ゾーンマネージャー、01年、SCゾーンマネージャー、02年、食品事業部ゼネラルマネージャー、03年、食品事業部長を歴任、同年取締役就任。05年、常務取締役営業本部長。08年、代表取締役社長兼COO就任。

──2011年2月期第2四半期決算は、連結ベースで営業収益は対前期比1.8%の減収となりましたが、営業利益は同4.6%の増益を達成しました。まずは上期を総括してください。

福西 依然として競争激化による客数減と消費者の生活防衛意識の高まりによる客単価の下落が続き、非常に厳しい経営環境だったというのが正直なところです。

 とくに既存店客数は、上期で対前期比3.1%減と苦しみました。ただ、8月9月は猛暑の追い風もあり、ようやく単月ベースで対前期売上高をクリアできるようになりました。消費不振も底打ちしたものと見ています。

 これまで当社は、客数が減少した分を挽回するために、買い上げ点数アップを図ることで客単価を引き上げていくという施策を打ってきました。

 たとえばそれが奏功したのが高質スーパーマーケット(SM)業態の「メッサ」です。既存店売上高が対前期比で1.6%伸長と好調で買い上げ点数も0.3ポイント(pt)上がっています。

 リーマンショック以降落ち込んだ消費マインドは、ここにきて、徐々に上向きかかっていると肌で感じられるようになりました。

 そして当社が今、いちばん重視しているのは1点単価の引き上げです。

──価格競争が激化している中で、1点単価を上げるということは、容易なことではないと思います。

福西 そのとおりです。当社の1点単価は、対前期(10年2月期)既存店比で2.9%減となりました。

 これは当社全体にしてみれば、売上が約66億円も吹き飛ぶことと同じ意味です。当社の主力業態である「スーパースーパーマーケット(SSM)」3店舗分の売上に匹敵するのです。いくら新規出店しても単価下落分で帳消しにされてしまうわけですから、単価下げ止まりに力を入れなくてはいけません。いかにして下落幅を最小限にとどめるのかが、最大の課題なのです。

──具体的には、どのような施策で、1点単価を上げようとしているのですか?

福西 たとえばステーキ肉では、通常の倍ぐらいの厚切りにして、1ポンドステーキという名称で売り出したところ、たいへんよく売れています。厚みがあったほうが豪勢ですし、おいしそうに見えるからです。そんな普通のアイデアの積み重ねです。しかし、だからこそ難しい。

 ディスカウントストア(DS)業態の「プライスカット」でも同様です。

 鮭を売るにしても、従来はトラウトなどの安い鮭を1切れ70円で販売するなどしていましたが、そうではなくグレードの高い北海道産やカナダ産のサーモンなどのよい品を、競合他店よりも安い価格で売り込むようにしています。

 まぐろも冷凍ではない中トロを品揃えます。当然1切れ当たりの値段は高いですから、単価が上がります。単価は高いけれども、このような価値商品が他店よりも割安であれば、お客さまは支持してくださるのです。

 現在、商品部にはそうした価値訴求型商品を重点的に開発するように指示しています。
ナンバーワンカテゴリーをより多く持つことで差別化

──価値訴求型商品を開発して1点単価アップを図る一方で、競合他社との戦いに勝ち残るためにはどのような施策を打っていますか?

福西 競合他社と差別化するには、売場に特徴を出すことが肝要で、その手法としては、ナンバーワンカテゴリーをより多く持つことだと考えています。

 これは一朝一夕でできることではありませんから、農産部門はこれ、畜産部門ではこれ、というように、競合に絶対負けないというカテゴリーを、一つひとつ増やしています。それによって、そのカテゴリーを目当てに来店されるお客さまが増えていけば、他社にない強みになるはずです。ただ悠長に構えている余裕もありませんから、スピード感を持って取り組むように努めています。

 その戦略に気づいたのは、02年ぐらいに、大桑啓嗣現副会長とアメリカの小売業を視察に行ったときです。世界一の小売業であるウォルマートを相手に、規模でははるかに劣るリージョナルチェーンであるHEバット社が優位に戦いを進めていました。

 HEバット社の戦略は、(1)価格感度の高い商品はウォルマートに負けない価格を打ち出す、(2)圧倒的なSKU数で差別化、(3)そして複数業態展開戦略による商圏の深耕、の3つでした。

 当社でも価格感度の高い商品は、競合他社に負けない価格を打ち出し、強化カテゴリーにおいては圧倒的な品揃えで差別化する。これを徹底的にやり続けていきます。

──販促面では、チラシ以外にどのような打ち手を施していますか?

福西 当社はフリークエント・ショッパーズ・プログラム(FSP)を実践しています。お客さまを「健康志向」や「価格志向」などの属性に応じていくつかのグループに分け、属性ごとにクーポンを適時発行し、来店動機につなげています。

 オーカード(自社ポイントカード)利用のお客さまを、購入金額が多い順にM4~M1(Mはmonetaryの略で購買金額のこと)まで4段階に分けて分析したところ、M3とM4のお客さまの数は全カード会員の14%にすぎないのですが、実に売上構成比の50%を占めるのです。この層のお客さまから嫌われずに、同時にM2をM3に、M3をM4に引き上げていきたいところです。そのため当社は、とくに大切なお客さまに対して、ダイレクトメールなどを送付しています

──購買履歴を活用して、バスケット分析も行っていると聞きます。

福西 ええ、食用油を特売チラシに掲載すると、パン粉も一緒に売れるなど関連性がはっきり見えますから、バスケット分析の結果を販促に生かしています。

 こういうデータはたくさんありますから、うまく活用して、よりお客さまにとって買いやすい売場や棚割、プラス1品につながる売場づくりを実現していきたいです。

──新しい販促や売場提案の可能性に満ちていますね。それができてくると、いよいよチラシの必要性はなくなってくるのではありませんか?

福西 すでにチラシとポイントに使う販促費は年々減少中で、販促費はFSP関連費用に重点的に移しています。やみくもにチラシを打って売上をあげるのではなく、お客さまの動きを分析しながら、効果的な販促を心がけています。またそうしなければ、とても利益は残りません(笑)。

 当社は、目標とする販促分配率(対粗利益高)を7.5%に設定しています。不動産分配率もできるだけ低く抑えて出店しておりますから、競合他社さんよりも損益分岐点が低い構造になっています。

トヨタかんばん方式を導入 効率化を図る

──さらに販売管理費率を引き下げるべく、今年1月に業務改革室を新設しました。そして豊田自動織機(愛知県/豊田鐵郎社長)からコンサルタントを招き、カイゼンに取り組んでいます。

福西 プロジェクトチームを立ち上げて、SSM業態の本社中島店(和歌山県)で実験・検証を開始しています。コスト削減、生産性の向上、ジャスト・イン・タイムを追求しており、単店の業績ではありますが、10年8月期の販売管理費が対前期比で7.1%減となるなど着実に成果を出し始めています。

 現在は、7つあるゾーンそれぞれ1店舗ずつ水平展開を始めており、今期中に21店舗にまで拡大する予定です。

──具体的には、どのような取り組みを行っているのですか?

福西 2S(整理・整頓)と多能工化です。2Sの徹底のために、余分なモノをすべて捨てたところ、モノを探す手間などムダな時間が劇的に削減されました。

 多能工化については、さまざまな部門で進めています。たとえば、現在7店舗で実験的に進めていることは、生鮮食品以外の部門を1人のチーフが兼任するという仕組みです。従来は、各部門チーフの下に、パートさんがいて、それぞれ部門内の作業をしていましたが、それを3部門横断型の人員配置に変えました。部門によって商品の入荷時間、品出し時間は異なりますから、効率的に人時を使えるようになりました。

 まだスタートしたばかりですから、本格的な成果が出るのはこれからです。

好調SuCが次期主力フォーマット!

──さて、業態別の売上動向を見ていくととくに「スーパーセンター(SuC)」が好調です。次期主力フォーマットと位置づけているのですか?

福西 当社としては次期主力フォーマットと考え、順調に出店を重ねており、SuC10店舗、300億円体制が見えてきました。今後、東海圏がメーンの出店エリアになってきます。

──ルーラルニーズの一切合切を取り込んでいくのがSuCの業態特性です。和歌山県という限られた商圏人口の中で利益を出せるフォーマットとして磨き上げた、その自信が見られますね。

福西 ええ。たとえばSuCオークワ南紀店は、人口わずか3万人のエリアで売場面積4000坪の広さがありながら成功しています。和歌山県内の他のSuCもすべて利益に貢献していますし、岐阜県1号店のSuC養老店も、足元商圏がとても薄い中で順調に推移しています。

 当社は損益分岐点を低く抑えられる独自のノウハウを、これからも構築していきます。

──好調なSuC業態の一方で、DS業態の「プライスカット」が苦戦しています。今どきの消費動向にマッチする業態と感じていただけに、少し意外な印象を持っています。

福西 「プライスカット」の10年8月期既存店売上高は、対前期比6.4%減と低迷しました。

 「プライスカット」が苦戦する理由は、買物する楽しみがないからだと思っています。同じディスカウント販売をする「SuC」がなぜ好調かといえば、広い売場を活用して、売場随所でさまざまな提案を打ち出しているからです。

 「プライスカット」の場合は、わずか150~300坪ですから、そういったことができません。それでも、当社が打ち出す価格に驚きや感動があったときは優位性がありました。ここにきて競合店も価格を下げていますから、その優位性がなくなったということです。

──いかにして立て直しを図る考えですか。

福西 「プライスカット」は、低価格で販売する業態です。ですから1点単価が下落する分を、買い上げ点数アップを実現することで、客単価ダウンを補って成長を図っていくのが基本戦略となります。

 04年からそのように買い上げ点数アップに取り組んできたわけですが、6年以上も継続して上げ続けるのは、正直厳しいのが現状です。したがって前述したように価値商品を低価格で売ることにより、1点単価の下落を防ぎ、客単価を引き上げていきたい。

 「プライスカット」は今後も継続しますが、現時点では、新規出店の計画はありません。

──最後に、神戸物産(兵庫県/沼田昭二社長)との共同事業で展開する、総菜専門店「グリーンズK」の1号店をオークワ和泉小田店(大阪府)内にオープンしました。どのような期待を持っていますか?

福西 10月2日にオープンしたばかりです。まだお客さまは「グリーンズK」がどのような特徴を持っているのかわかっていませんから、日を追うごとに数字は上がっていくものと見ています。

 非常に価格が安いですから、「グリーンズK」の商品を買う人と、通常の当社の総菜を買う人とで、2極化していくものと思っています。ということは、新たな客層を開拓できることになります。客数増につながるのでは、と大いに期待しているところです。

 オーダーを受けてから調理するメニューもありますし、カレーライスはできたて熱々を提供しています。競合他店にはない武器ですから、絶対に差別化になると思っています。