山梨県を地盤に食品スーパー(SM)を展開するオギノ(山梨県/荻野寛二社長)。2008年からの3年間で、同社の商勢圏内には17店の競合店の出店があった。競争環境が厳しさを増す中で、ローカルSMのオギノはどのように勝ち残りを図るのか? 荻野社長に聞いた。
2012年2月期は増収増益で着地予定
──この1年の消費環境について教えてください。
荻野寛二 おぎの・かんじ
1952年生まれ。75年、早稲田大学法学部卒業。同年、カネボウ化粧品入社。78年、オギノ入社。79年、すかいらーく入社。81年、オギノ入社。91年、取締役就任。93年、常務取締役就任。97年、代表取締役社長就任。
荻野 やはり東日本大震災の影響が大きかった1年でした。大震災では、当社の店舗については地震による物理的な被害は軽微でしたが、商品の調達ではとても苦労しました。大震災直後は、計画停電が実施されるかもしれないという状況の中で、社内はその対応に多くの時間を取られました。
消費者の購買動向については、関東圏のほかのSM企業さんと似たような状況だっと思います。震災直後はミネラルウオーターやお米などが多く売れましたし、納豆や豆腐などはメーカーさんの工場が被災したため、商品の調達ができませんでした。お客さまの「買いだめ・買い占め」が落ち着いてからは、数カ月かけて平常に戻ってきたという印象です。当社は、顧客データを集めてお客さまの購買動向を分析しています。まだデータを詳細に分析したわけではありませんが、おそらく平常時の状況にだいぶ近づいたのではないかと感じています。
──2012年2月期の業績はどのような見通しですか。
荻野 計画値には届かないかもしれませんが、売上高は対前期比2%増、営業利益は同50%増の増収増益で着地できる見込みです。直近の第4四半期は、11年12月の年末商戦は成功しましたが、12年1月の年始は集客力のある競合店にお客さまを少し取られてしまったと感じています。13年2月期についても、売上高は今期着地予想の3%増、営業利益は同30%増の増収増益を計画しています。
──山梨県では、イオン(千葉県/岡田元也社長)グループやベイシア(群馬県/赤石好弘社長)をはじめとして、ライバルの新規出店が相次いでいます。競争環境は厳しさを増していますね。
荻野 はい。当社の商勢圏内には、08年からの3年間に17店の競合店が出店しました。過去を振り返ってみても、せいぜい、1年間に1~3店の出店があったくらいで、この数年の出店ラッシュは初めての経験です。
当社の本拠地である山梨県の人口は86万人ほどで、首都圏のほかの都県と比べればマーケットは小さい。そこへ、出店余地がまだあると判断した小売企業さんが積極的に出店している状況です。とくにディスカウントストア(DS)タイプの出店が目立ちます。
──競合店にはどのように対抗してきたのですか。
荻野 当社は、ポイントカードをとおして顧客データを蓄積し、お客さまに「お得意さま」になっていただくことを基本的な戦略にしています。それに磨きをかけ、深化させていくことが競合店対策になると考えています。
ユニー(愛知県/前村哲路社長)さんが09年4月にモール型ショッピングセンター(SC)「ラザウォーク甲斐双葉」(山梨県甲斐市/核店舗:アピタ双葉店)を開業したときもほとんど影響を受けませんでしたし、マックスバリュ東海(静岡県/寺嶋晋社長)さんが数年前にSM「マックスバリュ」を集中的に出店した際も、1年ほどは影響を受けましたが、今では売上を回復できています。これまではしっかりと戦うことができたと自負しています。
今後は、マックスバリュ東海さんが11年5月に「マックスバリュ」を業態転換した、DSの「ザ・ビッグ山梨中央店」(山梨県中央市)、そして11年11~12月にオープンした「ザ・ビッグ櫛形店」(山梨県南アルプス市)と「ザ・ビッグ白根店」(同)の影響がどの程度出てくるのか気になるところです。
変化するニーズに合わせる
──DS「ザ・ビッグ」については、どのような対策を考えていますか。
荻野 ナショナルチェーンで、しかもあれだけの「安さ」です。競争相手としてはやはり脅威です。今までのディスカウント志向のSMとは異なるととらえています。
基本的な部分で、ベーシックアイテムの「安さ」は大きな来店動機になりますから、当社も対応しなければなりません。ただ、野菜やグロサリーの売価を「ザ・ビッグ」さんと同じに設定してしまうと利益を減らしてしまいます。ある程度は値合わせをしなければなりませんが、「価格」という土俵で戦ってしまうと負けてしまいます。
──「価格」以外で勝負するのですね。
荻野 はい。お客さまは「安さ」だけを求めているわけではありません。
たとえば、「ザ・ビッグ」さんの売場を見ると、相当商品を絞り込んでいる印象を受けます。お客さまが、なんとなく「あのお店に行けば私が欲しいものが何でも揃う」と感じるのと、「あのお店はいつも安いけど、いつも買い忘れがある」と感じるのでは、大きな違いがあります。
お客さまがそのときに必要としている商品をしっかり売場に並べることが重要です。「給料日前だから今日は安いものが欲しい」「雛祭りだからちょっといいものが欲しい」「節分だから恵方巻が食べたい」など、お客さまの買物の動機、欲しいものはその時々で異なります。それに合わせていくことが、当社の取り得る対抗手段だと考えています。
お客さまの食のスタイルは、「素材から料理をつくる」「料理には簡便調味料を使う」「ご飯とお味噌汁はつくるが、ほかは総菜で済ます」「料理はまったくしない」など、さまざまあります。そうすると、買物の際の満足度もお客さまによって異なります。素材から料理をする人にとってはレトルト食品は必要ないでしょうし、逆にレトルト食品をメーンに購入する人にとっては、自分のお気に入りや試しに買ってみたくなるような商品が置いてあることがとても重要になります。ですから、お客さま一人ひとりの買物の便利さや満足度を、もっと深掘りしていく必要があります。
さらに言うと、地域によって食文化も異なります。たとえば、節分の豆の撒き方は、山梨辺りだと豆を1粒ずつバラバラに撒きますが、長野県だと豆は小袋入りの状態で撒いたり、豆以外のお菓子を撒く習慣もあります。
そういった要素を含めて、お客さまの消費生活をしっかり把握して、エリアそれぞれで商売をしていく。それが私どもにとって大事な仕事だと考えています。
──消費生活を把握するうえで、顧客データ分析が重要になるのですね。
荻野 そうです。数年前からは、お客さまのデータだけでなく、当社の従業員1000人に対してアンケートを行い、商品政策や販売施策に活用しています。たとえば恵方巻は、「恵方を向いて丸かじりする」のは大多数ではありませんでした。そこで、節分は、恵方巻を食べるイベントというよりも「お寿司を食べるひとつの機会」ととらえ直し、恵方巻とお寿司とその関連商品を重点的に販売するようにしました。そうすると、売上や粗利益高を前よりも稼げるようになりますし、結果的にお客さまの満足度も高くなります。
──顧客データの活用で、最近取り組まれたことはありますか。
荻野 08年から11年12月までに30店舗の改装を行っていますが、その際、売場のゾーニングや品揃えの変更に顧客データを生かしています。それまでは、本部のバイヤーが売場規模別にパターンを決めて基本となる棚割を作成していましたが、顧客データが集まれば集まるほどお客さまが求めているものとの違いが鮮明になりました。同じ売場規模の店舗でも、商圏内の年齢構成や世帯人員数が違えば購入する商品は異なります。この数年間、顧客データを活用していろいろと試行錯誤しながら「個店ごとの最適な品揃え」に取り組んできました。
──ポイントカードの発行枚数は43万枚、精算時のカード提示率は90%超と聞いています。だから、きめ細かなデータ分析が可能になるのですね。
荻野 そうです。カード提示率の高い店舗だと95%ほどになります。そこまで利用率が高まると、どのお客さまが「お得意さま」なのかすぐにわかります。
データ分析は面白いもので、お客さまは皆、何かのヘビーユーザーだということも見えてきます。データを平均化してしまうとわかりませんが、「この商品はあのお客さまが必ず購入している」ということがわかってきます。たとえば、コーヒーやアイスクリームなどの嗜好品にそのような傾向が見られます。その商品があるから「オギノのお店に行こう」という来店動機にもなっています。売れ数が少なくても、そのような商品をしっかり揃えることがお客さまの満足度につながるのです。
お客さまの買上点数が現状10点だとしても、一人ひとりのお客さまがそのときに必要としている商品をしっかりと品揃えすることができれば、点数は11点、12点と伸ばすことは十分可能です。当社の売場にはまだまだ見落としている商品や提案方法がたくさんあります。それを発見して売場で提案することは、実際はとても難しいことですが、勝ち残りを図るためにも継続して取り組んでいかなければならないことだと思っています。
メーカーとの関係強化は店舗の強さにつながる
──顧客の購買データの分析にあたっては、メーカーが参加する研究会を開かれていますね。
荻野 はい。当社は、食品、非食品のメーカーさん117社と「FSP(フリクエント・ショッパーズ・プログラム)研究会」を年4回実施しています。取り組みは今期で8年目になります。
メーカーさんは、新商品が予想に反して売れなかったり、定番商品がだんだんと売れなくなった原因を突き止めることがあまり得意ではありません。メーカーさんがしっかりとターゲットを決めて開発した商品が、当社のデータを分析してみると、当初の想定とはまったく異なる層に受け入れられていたことがわかったことが何度もあります。それがわかれば、対策を打つこともできます。
メーカーさんにとっては、ある商品がヒットし、それが一定のプライスで半永久的に売れ続けるならばいいでしょうが、そのような例はきわめて稀です。一時的にヒットしても、その後は売れなくなったり、安売りの目玉商品になったり、競合する商品が増えたりと、さまざまなかたちで商品の魅力は薄れていきます。多くの商品がそうだと言えます。しかし、その商品に替わる新しいコンセプトの商品をつくる手助けは、小売業こそがやるべきだと私は考えています。それがメーカーさんに対するお返しだと思うのです。
──メーカーとの関係を強化するねらいは何ですか。
荻野 当社のようなローカルSMは、独自にオリジナル商品を開発する力がありません。商品開発においては、メーカーさんにかなうはずがありません。企業規模が大きくてもかなわないでしょう。
メーカーさんに、お客さまの購買動向をフィードバックすることが今まで以上にできれば、新しい商品を育てたり、お客さまの隠れたニーズを顕在化したり、新たなマーケットを創造することにもつながります。
それは、私どもにとって競合対策にもなります。「オギノには私が欲しいと思う商品がある」と感じるお客さまが増えれば、それは店舗の強さになるのです。
──最後に、今後の出店計画について教えてください。
荻野 12年2月期は衣料品専門店を1店舗出店しました。そのほかにも計画していた物件はあったのですが、東日本大震災が発生したことで、計画はすべて白紙またはペンディングになりました。再度、出店エリアや立地環境などを検討しているところです。