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アジアで急拡大、米国も3年で売上3倍!「バロックジャパンリミテッド」の海外戦略とは

バロックジャパンリミテッド(東京都/村井博之社長)は、海外でも成功している数少ない日本発SPA(製造小売)だ。海外市場を開拓できた背景には、マーケティングに裏打ちされた、同社の巧みなブランディング戦略があった。中国では、先行して直営店で成功モデルを作り、有力なビジネスパートナーと二人三脚で事業を急拡大。日本のファッションにとって壁が厚い米国市場も、欧米で定評がある「メード・イン・ジャパンのラグジュアリーデニム」で突破した。さらに、タイやインド、インドネシアなどアジアの新興国市場も、虎視眈々と狙う。

米中市場を開拓できるかどうかで、SPAの成否が決まる

中国マウジー 成都市中心部の商業施設「仁和春天国际广场(RENHE)」内

 バロックジャパンリミテッドは、「ギャル系ファッション」のリーディングカンパニーとして出発しながら、多ブランド戦略が奏功し、今や約20ものブランドを擁する総合ファッションSPAに成長している。その大きな原動力となっているのが、海外事業だ。

 今までに海外市場に挑戦した日本のSPAは少なくないが、海外事業を軌道に乗せたのは、ファーストリテイリングなど数えるほどと言ってもいいだろう。バロックは、そうしたレアな成功例の一つなのだ。成功の秘訣は、何だったのだろうか。

 バロックは2008年、ショッピングモールでの郊外型店舗展開をメーンとする、新ブランド「アズール・バイ・マウジー」の出店をスタートした(前編を参照)。実は、海外事業に着手したのはそれよりも早く、2006年には海外第1号店として、主力ブランド「マウジー」の香港店をオープン。さらに、台湾でも約10店舗を出店するなど東アジアでの事業展開を進め、2009年には中国本土への進出も果たした。その背景について、同社の村井博之社長は、次のように説明する。

 「日本は少子高齢化で、ファッションの牽引役である若者が激減している。ファッションビジネスのチャンスが失われていくのも、火を見るよりも明らかだった。日本のファッションビジネスが活路を見出そうとすれば、海外市場しかない。消費市場として世界第1位は中国、第2位は米国。両国のアパレル市場規模は、今や日本の5倍以上に達している。この巨大マーケットを開拓できるかどうかが、ファッションSPAの成否を分けると言ってもいい。そこで当社としても、米中市場に何としても食い込むという、中長期的な成長戦略を掲げた」

中国市場では、まず「バカ売れ」の先行事例を作った

村井博之社長

 実は、村井社長はキヤノン出身で、同社在籍中にグローバル戦略を手がけていた。ファッションは畑違いだったが、バロックに移籍してからは、豊富な海外経験に基づいて、各国の市場特性に応じたローカライズ戦略を打ち出した。

 「例えば、日本の光学・精密機器であれば、客観的なエビデンス(科学的根拠)を示せるので、優れた機能性などを武器にできる。しかし、ファッションの場合、そうはいかない。メード・イン・ジャパンの品質のよさなどはPRできるにしても、定量評価ではなく、デザインやトレンドといった比較が難しい定性評価で、商品価値が大きく左右されるからだ。そこで、マーケティングを駆使し、海外市場での人気を高めるような、ブランディングに全力を注いだ」(村井社長)

 海外市場の中でも、香港、台湾、中国といった東アジア攻略を優先したのは、「日本のファッションが、アジアのファッションを先導している」という、アドバンテージがあったから。東アジアでは、「日本で今、すごく流行しているブランドなんですよ」といった具合に訴求すれば、手ごたえを得やすいのだ。

 「とはいえ、中国では国内外の、星の数ほどのファッションブランドがひしめき合っている。その中から抜け出すために、まず“目立つベストプラクティス”を作って認知度を高め、それをステップボードにして有力なビジネスパートナーと組み、一挙に中国全土に攻勢をかけるという、二段構えの戦略を立てた」(同)

 当時は、中国でもリアル店舗が販路の主流だったので、手始めに直営店を開設し、30店舗まで拡大した。日本のファッションシーンを席巻した「ギャル系のトップブランド」を、「渋谷109のカリスマ店員」が培った接客のスキルとノウハウで売りまくり、「バカ売れしている日本ブランドがある」と、中国でたちまち話題となった。中国企業は“現金”だ。「こちらの思惑通りに、一緒にビジネスをやろうと、向こうのほうから声をかけてきました」(同)

その中から、提携相手に選んだのがベル・インターナショナル・ホールディングス(百麗国際)。2013年に、同社と中国市場の流通を担う合弁会社を設立した。ベルは、ナイキやアディダス、インティデックス(ザラ)、ユニクロなど、日米欧のファッション企業とのビジネスで豊富な実績がある。

現在では、上海や北京など27省に、約330店舗を展開するまでになった。そこで、日本企画商品だけでなく、20代向けの中国企画のオリジナルアイテムも投入しているという。中国の流通業界で力を持つベルと組んでいるだけに、「立地条件のいい店舗物件を確保しやすいし、スケールメリットも生かせるので採算性も高い」と、村井社長は満足げだ。

日本製のラグジュアリーデニムで、欧米に攻勢

「マウジー・ビンテージ」のデニム

 中国の次に、バロックがターゲットとしたのが米国市場。東アジアのような新興国市場と違って、「ファッション先進国」である米国市場は、日本のSPAでなくても、敷居が高い。それなのに、なぜ米国市場にトライしたのか。

 「難しいマーケットだからこそ、トライする価値がある。なぜなら、それだけに、ライバルも少ない。もし成功すれば、それこそ儲けもの。ブルーオーシャンで獲物を総取りできる先行者利益は、計り知れないほど大きい」(村井社長)

 とはいえ、米国事業もあくまでビジネスであり、闇雲に資金をつぎ込むギャンブルではない。村井社長は、「利益を確保して3年間で黒字化する」という、短期決戦の事業計画を立てた。そのためのスキームとして考えたのが、「ラグジュアリーブランド路線」だ。

 「日本のファッションの強みは何かと検討した結果、“ジーンズ”という答えが出てきた。実は、日本はプレミアムジーンズの産地として世界的な定評があり、名だたるスーパーブランドからも信頼されている。ジーンズなら、当社にとっても得意分野。そこで、ハンドメードで日本製、有名なディーゼルなどよりも価格帯が上、300ドルオーバーのラグジュアリーデニムで、勝負をかけることにした。付加価値が高いだけに、売れれば利幅も大きい」(同)

 2011年に米国進出の準備に入り、ラグジュアリーデニムの新ブランド「マウジー・ビンテージ」を立ち上げた。「ニューヨーク・ファッションウィーク」(ニューヨーク・コレクション)に参加したり、バーニーズ・ニューヨークに期間限定ストアとして出店したりしたところ、好評を博したので20169月、ニューヨークに直営店をオープンした。一方で、米国市場でのブランディングにも、余念がなかった。

 「ラグジュアリーブランドの場合、ボトムアップよりも、トップダウンのほうが浸透しやすいと考えた。まずセレブリティの間で、口コミで人気が広がり、それをアーティストなどのファッションリーダー、インフルエンサーが紹介することで、一挙にブレークするパターンが多い。そこで、当社のビンテージについても、ハイソサエティに人脈を作り、セレブに地道に売り込みをかけた」(同)

「マウジー・ビンテージ」ニューヨーク店外観

 そうした取り組みが実を結んで、米国事業の売上は、直近3年間で約3倍に伸びたという。「ニューヨーク店は、情報発信機能などもあるが、家賃などランニングコストも高い。米国事業では、ホールセールやECで売上拡大を図りたい」(同)

 ビンテージは、すでに中国市場でも富裕層向けに販売しており、フランスなどEU圏でにも展開する予定だ。一方で、アジアの新興国市場も、引き続き狙っている。

 「タイは日本企業が参入しやすいので、コロナ禍が沈静化したら、出店を計画している。若者の人口増加が目覚ましく、経済成長も期待できるインド、インドネシアなども市場として有望視している。アジア事業は、中国に近いビジネスモデルになるだろう」と、村井社長は意気込む。海外事業が、バロックにとって第二の経営の柱に育つ日も、そう遠くではなさそうだ。