衝撃のニュースが舞い込んできた。ウエルシアホールディングス(東京都:以下、ウエルシアHD)とイオン九州(福岡県)は9月1日に共同記者会見を開き、同日付で2社の合弁企業、イオンウエルシア九州(福岡県)を設立したことを発表した。同社は今後、ドラッグストア(DgS)であるウエルシアHDと、食品スーパー(SM)・総合スーパー(GMS)を主軸とするイオン九州それぞれの知見とノウハウを生かした新業態の開発・出店を進めるという。イオン(千葉県)グループ傘下の上場企業同士が共同企業体(JV)を設置するという異例の動きは、九州、そして国内の小売市場にどのような影響を与えるか。
「フード&ドラッグ」業態を専門的に追求する新会社が誕生
今回設立されたイオンウエルシア九州は、資本金4億500万円、出資比率はイオン九州が51%、ウエルシアHDが49%となっている。社長には主に商品畑での長年の経験を持つイオン九州の安倍俊也氏が就任、副社長にウエルシアHD側から内田悦郎氏(ウエルシア薬局西日本支社 西日本営業部 営業統括部長)が就く体制を敷いた。
会見で配布された資料上の設立目的には、「イオン九州の持つ【 生鮮・デリカを含めたスーパーマーケット運営の知見】とウエルシアHDの持つ【 調剤薬局の運営を含めたドラッグストア運営の知見 】を相互に共有し、両社の事業を発展的に融合し、双方にとって利益となる新業態の開発と運営をおこなう。」(原文ママ)と記載。つまりイオンウエルシア九州は、「フード&ドラッグ」業態を専門的に開発・展開する企業として誕生したというわけだ。
設立の背景として2社が挙げるのが、「健康志向の高まり」と「高齢化」という社会・経営環境の変化。そうした潮流のなかで、ウエルシアHDが強みとする「調剤」「深夜営業」「カウンセリング」「介護」、イオン九州が得意とする「出来立て総菜」「生鮮食品」「アウトパック供給」「小ロット配送」といった取り組み・要素を融合。その結果として、「ハーフマイル(=家からすぐの立地で)」「ワンストップ(=生鮮を含む食品から日用雑貨、医薬品・調剤を1カ所で)」「ショートタイム(=短時間に)」買物できる、「毎日立ち寄る”かかりつけの店”」をつくるということが、イオンウエルシア九州のミッションである。
”熊本での成功”が自信に
「イオングループの上場企業同士によるJV設立はおそらく初めてのケース」とイオン九州柴田祐司社長が言うとおり、異例の出来事ではある。ただ、直近のウエルシアHDおよびイオン九州の動きからすると、決して”意外”な流れではない。
そもそもウエルシアHDは、れっきとしたフード&ドラッグの主力プレーヤーである。20年4月に開業した「平塚四之宮店」(神奈川県平塚市)を端緒に、DgSにおける食品の品揃え・商品構成の研究を推進。21年10月には「イオンタウン幕張西店」(千葉県千葉市)で直営の生鮮・総菜売場を導入、同年12月にはマックスバリュ北陸(石川県)、ホームセンターみつわ(福井県)の2社とともに、DgSに食品スーパー(SM)とホームセンターの要素を付加した新フォーマット店舗を福井県内で複数出店している。
そして今年4月には熊本県熊本市に、生鮮をフルラインで扱う「熊本麻生田店」をオープン。同店の開業に際して手を組んだのがイオン九州であり、生鮮・総菜については同社の各部門をコンセッショナリーとして導入するというかたちをとった。
熊本麻生田店の売場面積は約367坪で、そのうち食品売場が約150坪。筆者は同店を取材しているが、生鮮強化型のDgSとしてはめずらしく、レジに近い食品売場の最前部に総菜・デザートを展開し、その後ろに生鮮3品が続くというレイアウトだったのが印象的だった。そしてその際、「誰もやったことのないような、完全に新しい業態をつくろうと2社で侃々諤々の議論をしながら試行錯誤を繰り返した」と語っていたのが、今回社長に就任した安倍氏だった。
※熊本麻生田店について詳しくはこちらの記事を参照
この熊本麻生田店はオープン後から堅調な滑り出しを見せており、社内での評価も高かったようだ。今回の会見でウエルシアHDの松本忠久社長も「九州(熊本麻生田店)のパターンがいちばん理想に近い。自信が出てきた」と力説するほどである。
「このままでは生きていけない」――あえて合弁会社を立ち上げた理由
熊本麻生田店が成功モデルになったとはいえ、単純にフード&ドラッグを志向するのであれば、ウエルシアHDの店舗にイオン九州のコンセが入る”麻生田スタイル”を増やしていけばいいはずだ。
これについてイオン九州の柴田社長は「2社でやっていると、いろいろと”調整”が必要になる」と説明。同じイオン系とはいえ、コンセ出店のかたちをとる以上、売上の立て方やMD(商品政策)、運営手法など2社の考えや主張をすり合わせる作業が必要になり、そのプロセスに時間を要することになるのだろう。であれば、合弁企業としてイオンウエルシア九州を立ち上げ、同社の経営戦略のもと店舗開発、売場づくりを進めたほうが吉、と見たのかもしれない。
それに加えて、イオン九州の柴田社長とウエルシアHDの松本社長が会見で口を揃えて言及したのが、「このままではSM/DgSは生きていけない、変わらなければならない」という危機感である。コロナ禍も経て社会、経営環境がよりいっそう変化していくなかで、「SM」「DgS」という既存の業態論で議論していてよいのか――。そうした問題意識も、イオンウエルシア九州の設立の背景にはあるのかもしれない。
2030年までに「最低でも200店舗、売上高1800億円」
イオンウエルシア九州は今後、まずは福岡県内で新業態の出店を進める計画。ブランド(屋号)名は商標登録の確認などもありまだ決まっていないが、すでに何案かに絞り込まれているようだ。ただ、「『ウエルシア』になる可能性もある」(イオン九州柴田社長)という。
売場面積は熊本麻生田店よりもやや大きな450坪程度を想定するが、場所によっては300坪規模になるケースも見込まれるという。取り扱いSKU数は2万7000程度の規模になるようだ。
何より新業態1号店の出店が待たれるが、今回の会見では具体的な時期・場所は公表されなかった。以降の出店については、イオン九州の既存店の業態転換も含め出店スピードを加速。イオン九州の柴田社長は「2030年までに最低でも200店舗、(イオンウエルシア九州の)売上高1800億円はめざしたい」と息巻く。
イオンウエルシア九州は激戦地・九州で今後どれだけの存在感を示すことができるか。そしてSMやDgS、ディスカウントストアなど競合他社の経営戦略に何らかの変化を迫ることになるのか。いずれにしても、同社の”誕生”は局地的な出来事ではなく、日本の小売業界全体に影響を及ぼし得るといっても過言ではないだろう。