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経営幹部の意見を一蹴!Z世代の声からつくった「キラキラドンキ」が絶好調の理由

パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(東京都/吉田直樹社長)傘下でディスカウントストア(DS)を展開するドン・キホーテ(同)は近年、特定のカテゴリーに特化した専門店の開発を加速させている。そんな同社が2022年5月3日にオープンしたのが、Z世代をターゲットにした「キラキラドンキダイバーシティ東京 プラザ店」(東京都江東区:以下、キラキラドンキ)だ。本稿では、キラキラドンキのコンセプトや売場づくり、商品構成などを解説する。

キラキラドンキ ダイバーシティ東京 プラザ店外観

店舗概要
●所在地: 東京都江東区青海1-1-10 ダイバーシティ東京 プラザ2階
●営業時間: 10:00~21:00
●開店日: 2022年5月3日
●売場面積/駐車台数: 287.04㎡/1400台(施設共有)
●アイテム数: 約6000アイテム

コンセプト決めからZ世代が関わる

 東京の一大観光地、お台場。そんなお台場エリアの代表的な商業施設である「ダイバーシティ東京 プラザ」の2階にキラキラドンキの1号店は出店した。外観にはクリーム色をベースにパステルカラーのポップなデザインがあしらわれており、店舗名はピンク色。既存のDSの黒と黄色を基調とした配色とは、一線を画す見た目となっている。

 キラキラドンキは10代~20代前半のZ世代をターゲットにしたドン・キホーテの特化型業態。同社は21年5月にオープンした「お菓子ドンキ」「お酒ドンキ」を皮切りに、「驚辛ドンキ」「コスメドンキ」など新業態を次々と開発している。キラキラドンキは5つめの特化型業態となる。

 そもそもドン・キホーテはなぜこのような特化型業態の開発に取り組んでいるのか。その背景には、主力業態であるDS「ドン・キホーテ」のマンネリ化がある。広報担当者は「とくに都心の店舗は、顧客にとって以前のような“尖った店”ではなくなりつつある」と話す。もう一度カテゴリーを深掘りした嗜好性の高い店をつくろうという既存店の取り組みと一緒に始まったのが、一連の新業態開発だ。

 こうした専門店の中でもとくに好調なのが、お菓子ドンキとコスメドンキだ。新業態開発がスタートして約1年の間に、お菓子ドンキは3店舗、コスメドンキは2店舗をオープンしている。「この2業態を組み合わせて新たな店舗ができないか」という発想に、Z世代というキーワードを掛け合わせて生まれたのがキラキラドンキである。ドン・キホーテの来店客には、若い頃から長年利用しているコアファンが少なくない。未来の顧客を今のうちから確保しておくという観点からも、現代の若者に支持される店づくりが今一度必要だという考えに思い至ったのだという。

 キラキラドンキは、そのコンセプトから商品の仕入れ、売場づくりに至るまでZ世代の意見を多分に取り入れていることが最大の特徴だ。「インターネットやSNSで情報があふれ、移り変わりも激しいなかで、正直何がトレンドなのかつかみきれない部分がある。そうなると、Z世代に直接聞いたほうが早い」(広報担当者)。

 たとえば、店舗名を決める際、当初は「女の子の好きな流行のものがたくさんある」というイメージから「ガールズドンキ」「レディースドンキ」「乙女ドンキ」のような名称が経営幹部層から挙がっていた。ところが実際にZ世代のスタッフに意見を聞いてみると、「自分だったらそんな店には行かない」と一蹴されたという。Z世代にとっては、ジェンダー的に差別的な印象を与えるこうしたネーミングはナンセンスだというわけだ。「テレビなど影響力のあるメディアから受動的に情報を得ていた上の世代と異なり、インターネットやSNS上の膨大な情報の中から既存の価値観に左右されず、自分の軸に合うものを主体的に探しているのがZ世代」(広報担当者)とのことで、性別や商品カテゴリーの区分は判断基準にはならない。あくまで「自分にとって価値のあるもの」を総称して、“キラキラ”というネーミングに落ち着いたという。

商品を使った感想をPOPで伝える

店内には至る所でドン・キホーテ公式キャラクターのドンペンが姿を見せている

 ここからはキラキラドンキの売場づくりをみていこう。同店の売場面積は287.04㎡で、中心となるコスメ4000アイテム、菓子1400アイテムのほか、加工食品や飲料、雑貨など合計約6000アイテムを取り扱う。

沢里優美店長

 売場づくりでは、既存店で従業員の意見を基にした取り組みを成果につなげた実績のある沢里優美(さわさとゆうみ)店長のもと、Z世代の意見を取り入れながらアミューズメント性あふれる演出が多くみられる。たとえば、ドン・キホーテの公式キャラクター「ドンペン」を前面に打ち出し、大小多くのぬいぐるみを店内随所に飾っているほか、POPや天井から吊り下げたオーナメントなどでもドンペンのデザインを大量に使用。色味やデザインのニュアンスなどはZ世代のスタッフの意見を反映させている。

 POPでは、スタッフがお絵描きアプリでイラストや商品を使った率直な感想を書いた個性あふれるものが多くの商品に添えられている。「ドン・キホーテの既存店で取り扱っている商品も多いが、『この店はトレンドのものが完璧に揃っている』という声をいただくこともある。それはこの店がZ世代の感性に合わせた売場づくりをしているからだ」(沢里店長)。

POPはスタッフがお絵描きアプリで作成し、商品を使用した感想なども掲載している

 商品の品揃えは、最初こそ既存店で好調だったアイテムが中心だったが、次第に現場従業員の意見で展開しているものも増えてきている。オープン時は従業員の約60%がZ世代で、彼女らの感性に響かなければ、本部が提案した商品でも売場には並ばない。基本的には、Z世代に好評なトレンド商品やSNS映えするもの、他の店舗にはない珍しい商品などを取り扱う。

韓国ドラマに登場した型抜きクッキーも展開

コスメでは、マスクによる肌荒れを防ぐ商品などコロナ禍に対応したものが多くみられた

 コスメでは、マスクによる肌荒れを防ぐグッズやマスクで落ちにくい化粧品などコロナ禍に対応した商品や、トレンドの韓国コスメが多くみられた。こうした商品はネットで買えるものも多いが、ネットでは箱売りしかしていないものを1個ずつバラ販売するなど、お客が手に取りやすい工夫も行っている。

菓子ではグミに力を入れ、国内外の商品約200アイテムを展開する

 菓子でとくに強化しているのがグミだ。国内のナショナルブランド商品から、海外の一風変わったグミまで約200アイテムを品揃えする。虫やサメなど奇抜なかたちの商品も多く、「国内の商品は味や食感重視だが、海外の商品はまず見た目を面白がって買っていく人が多い」(沢里店長)という。駄菓子の品揃えも豊富で、単価も安いため選ぶ楽しさも演出できる。また、虹色のわたがしや、フォトジェニックな見た目が話題の「AMER(アメール)」のキャンディなど、SNS映えする珍しい商品も展開する。

フォトジェニックな見た目が特徴の「アメール」のキャンディ

 そのほか全世界的な韓国ブームに則り、韓国の菓子も多く取り扱う。チョコチュロス味のスナックや、韓国ドラマ「イカゲーム」で登場したという型抜きが楽しめるクッキーなどを展開。韓国食品は、菓子だけでなく乾麺や健康酢「美酢」なども大きくコーナー化していた。

韓国ドラマ「イカゲーム」に登場したという型抜きができるクッキー

 また、アミューズメント性を高める観点から、店内製造のワッフルやオリジナルドリンクも提供する。ワッフルは具材を挟んだ「ワッフルサンド」、生クリームをたっぷり使った「ホイップワッフル」、棒付きで食べやすい「ワッフルバー」の3形態があり、計13種類の味が楽しめる。

キラキラドンキでは、店内製造のワッフルやオリジナルドリンクも提供する

 Z世代の意見を反映させたこのような売場づくりや商品が奏功し、キラキラドンキの売上は計画を上回る勢いで伸長し、絶好調だという。また、同店を訪れるのはメーンターゲットのZ世代だけではない。商業施設内という立地特性上ファミリー層の来店も多いが、そういった客層からの評価も高い。「Z世代にとっての『キラキラとは何か』を分析するのは意味がない」と沢里店長が言うとおり、Z世代の感性にそのまま委ねた店づくりが、幅広い年代からの支持につながっているようだ。同店で好調だった商品は売場づくりも含め、既存のDS店舗にも反映されていく。キラキラドンキは、ドン・キホーテが再度“尖った店”になるために重要な役割を担っている。