本誌6月15日号特集「ブランドパワーランキング2022」においてドラッグストア(DgS)業態で2年連続で全国1位になったのが「ウエルシア」だ。その理由とどんな点が支持されたのかと今後の戦略について、ウエルシア薬局(東京都/松本忠久社長)の田中純一取締役副社長(東日本担当兼首都圏支社長)に話を聞いた。
首都圏でブランドパワー1位に
──「ウエルシア」は関東・中部・関西という人口が集積する地域でブランドパワーを示すストア・エクイティ・インデックス(SEI)*のスコアが伸びており、関東と中部では1位です。さらに今回、1都3県を対象とする首都圏では「マツモトキヨシ」を抜いてトップに立ちました。支持された理由をどう分析しますか。*SEIの詳細やブランドパワーの算出方法、各業態のランキングについては本誌6月15日号を参照
田中 当社は「調剤併設」「カウンセリング」「深夜営業」「介護」を軸とする“ウエルシアモデル”の店舗を展開しています。21年に特別に何かを実施したからではなく、当社が継続して推進してきたビジネスモデルを評価いただいたのではないかと思います。
とくに当社の首都圏支社の管内では調剤併設店の比率が約90%です。物理的に併設不可能な店舗を除けば、ほぼ全店に調剤薬局を設けました。並行して都市型店舗を増やしています。
今後はさらに、地域ごとに異なるお客さまのニーズに応じた品揃えやサービスを充実させたいと思います。たとえば、都心の小型店舗はクリンリネスや歩きやすい通路幅の確保に努力をしていますが、売場が小さいがゆえに新商品を導入しづらい面もあります。そこで、こうした店舗が注目の新商品を発注できるようバイヤーが厳選した新商品のリストを提供するといったことに取り組んでいます。
──評価項目別では、「高品質商品を扱っている」「取扱商品の種類が豊富」「商品を見つけやすい」「商品陳列がうまい」「売場が快適」が高評点です。めざす店づくりと合致していますか。
田中 合致しています。高品質商品の取り扱いと品揃えの豊富さについては、価格の多寡に限らず、お客さまにとってよい商品を届けることを当社は意識しています。たとえ、それが高価格帯の商品でも、陳列コンクールなどを取り入れながら積極的に販売することに努めています。
商品の見つけやすさや陳列については、当社は棚割りを全店で固定していない分、各店舗に売場づくりの基本的な考えを指導することに力を注いできました。その成果が少し出てきたのではないでしょうか。
来店動機増やすため食品は重要
──他方、所得別では高所得層(世帯所得500万円以上)でのSEIの伸びが顕著でした。
田中 先ほど言ったとおり、当社のよい商品をお届けしようという姿勢や取り組みが支持されたのだと思います。
一方で、広い層にご支持いただくための当社の課題は、低価格商品の提供です。地域最安値で販売するつもりはありませんが、買い上げ点数の減少が課題となっているので、地域の値頃を意識した価格にしていきます。具体的には、各エリアで他業態を含めた価格調査を実施し価格対応できる仕組みをつくりました。
──ウエルシア薬局は業界に先駆けてPCR検査や抗原定性検査の実施を始めました。新規顧客獲得のきっかけになったのではないですか。
田中 当社は地域社会に貢献する目的で政府のPCR等検査無料化事業に応募することを21年12月23日に発表しました。通常の店舗運営をしながら検査に対応するのは大変なことですが、それを実行してくれた各店舗を誇りに思っています。多くの支持を得られたと思います。
──新型コロナ前と比べてDgSの役割は変化しましたか。
田中 ワンストップで便利に買えることに対する期待は高まったと感じています。
当社の品揃えの基本はヘルス&ビューティにあります。加えて利便性の提供がこれまでにも増して重要になっています。健康関連を中心に地域のお客さまが必要とされる商品やサービスを提供することで地域社会のインフラになっていきたいと考えています。
──DgS業界では食品を強化する傾向がいっそう高まっています。生鮮を含めた現在の食品導入の進捗状況を教えてください。
田中 当社は、お客さまの日常の食生活に必要なベーシックな品揃えをめざしています。人口が減って商圏が狭くなってきていますので、生鮮を含めた食品の取り扱いはお客さまの来店動機を増やすためにも重要です。
現在はそのような方針ですが、今後のあるべき姿は、食品売場の広さや運営形態を変えて出店した複数の店舗で知見を得ながら検討する考えです。たとえば、「ウエルシア敦賀中央町店」(21年12月2日開店)の食品売場はマックスバリュ北陸がコンセッショナリー(以下、コンセ)で入った比較的広い売場です。九州では「ウエルシア熊本麻生田(あそうだ)店」を22年4月21日に出店しました。イオン九州がコンセで入店する同店の食品売場は面積を「ウエルシア敦賀中央町店」より抑え、平台を設けず棚に商品を陳列しています。一方で、「ウエルシア平塚四之宮店」(20年4月9日開店)や「ウエルシア イオンタウン幕張西店」(21年10月21日開店)は生鮮含めた食品売場も直営です。
立地選定の評価項目を見直す
──健康や栄養を軸にした付加価値の高い食品のプライベートブランド(PB)開発も進んでいます。
田中 健康とおいしさがテーマです。食品のPBは23年2月期、30SKU発売する計画です。現時点で11SKU、現在開発中の商品も多数控えていますから、SKU数でいえば順調に進捗しており、食品のPBでもいくつかヒット商品が出てきています。
──スマホで店頭在庫が確認できる「おうちウエルシア」を始めるなどデジタル活用も進みます。
田中 「おうちウエルシア」は5月より、東京都と神奈川県の約400店で始めています。また、処方薬を24時間受け取れるサービスとして、調剤併設店舗で受取用ロッカーを一部店舗で設置していますが、この拡大も進めています。ECやアプリ導入などデジタルの活用が、お客さまにとっての利便性を高め、固定客化や収益増につながるよう、一つひとつ検証しながら取り組みを進めています。
──最後に経営戦略についてお聞きします。ウエルシア薬局の22年2月期の売上高は9239億円で対前期比6.5%増、営業利益は426億円で同0.4%増の増収微増益でした。その現状分析と激変する環境下での成長戦略についてお話しください。
田中 新型コロナの感染状況に影響を受け、22年2月期の売上は上期が順調で下期は苦戦しました。しかし、これまで業務の効率化や労務管理による人件費削減に取り組んできた成果が現れて下期の利益がそれほど下がらなかったので微増益で着地しました。
DgS業界を取り巻く環境は厳しさを増しています。前期は医薬品や化粧品の売上が下がり、今期に入ると食品や雑貨の売上も不振です。当社は部門ごとの売上の強弱が比較的ないので環境変化の影響は少ないほうかもしれませんが、それでも厳しさを増していることは確かです。
今後は、1人のお客さまに何度も来店いただく、1点でも多く買い上げいただくことで地域のシェアを伸ばしていくしかないと考えています。そのためにはさまざまな角度から多様な施策を実行していくつもりです。
DgSはオーバーストアと言われる向きもありますが、まだまだ出店余地はあると思っています。ただし、出店コストも運営コストも上がっていますので、立地選定の精度を上げることと販売力を高めることの両方の重要性が増しています。立地選定の精度を高めるため、評価項目の見直しにも取り組んでいます。販売力を向上するために、大がかりな改装だけでなく、カテゴリーごとのスペースを見直す“小さな改装”を進めています。23年2月期は全面改装43店舗、部分改装99店舗を計画しています。
ウエルシア薬局 会社概要
資本金 | 1億円 |
本社所在地 | 東京都千代田区 |
代表者 | 松本忠久社長 |
売上高 | 9239億円(22年2月期) |
店舗数 | 2023店(22年2月末) |