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オイシックス21年度3Q増収減益 新物流センターでのトラブルはなぜ起こったか?

オイシックス・ラ・大地(東京都/高島宏平社長、以下:オイシックス)が発表した2022年3月期第3四半期連結決算は、売上高874億円(対前年同期比117%)、EBITDA(支払利息・償却費控除前利益)64億円(同89%)、営業利益50億円(同81%)、純利益33億円(同87%)と増収減益に終わった。

全体としては好調維持

 決算の概要を見てみると、主力の国内宅配3事業(オイシックス・大地を守る会・らでぃっしゅぼーや)がARPU(Average Revenue Per User:顧客一人当たり月単価)の減少を会員数増でカバー、米国のヴィーガンミールキットブランドであるパープルキャロット(Purple Carrot)やその他事業も売上増に寄与した格好だ。クオーター別にみると第3四半期の売上は312億円で、前年同期比で15%伸びている。第2四半期が16%増だったことからも、高い成長性をおおむね維持しているといえる。

 セグメント別売上実績は、国内宅配3事業はオイシックス452億円(同122%)、大地を守る会102億円(同94%)、らでぃっしゅぼーや133億円(同98%)の実績だった。そのほか、Purple Carrotは79億円(同124%)、他社EC支援・保育園・上海香港エリア事業などその他事業は112億円(同155%)と好調を維持した。

 このように第3四半期の業績はまずまずだったオイシックス。22年3月期通期予想をみる前に、今年早々に起きた物流トラブルについて触れておきたい。

物流トラブルはなぜ起きたか?その影響は?

 オイシックスの売上は毎年約20%増のペースで伸び続けている。さらなる成長を見据え、かねてより準備を進めてきたのが新たな物流拠点となる「新海老名ステーション」の構築だ。

 新海老名ステーションは旧ステーションと比較して延床面積で5倍、出荷キャパシティも2倍を確保した。今まで分散していた物流網を新ステーションに統合し、作業効率化と物流削減効率化も同時にはかるねらいだ。当初は2024年度の稼働をめざしていたが、伸び続ける宅配需要に対応するため計画よりも2年早め、今年の1月16〜17日に全出荷を新ステーションに移管した。

 新海老名ステーションでのオペレーションは、入庫→在庫管理→棚入れ→ピッキング→出庫の順に行われる。トラブルの発端は一番始めの入庫作業だった。商品の納品遅れが発生したことで入庫作業が計画通りに進まず滞り、後に続く工程も機能不全に陥ったことで宅配遅延が起こったという。以前であれば一つの商品の納入が遅れても、「遅れる商品だけ後で追加しよう」とスタッフが判断し他の出荷準備を進めていたが、新海老名ステーションでは人依存の判断を可能な限り無くすという目的のため、「すべての商品が揃うまで出荷準備が始まらない」仕組みになっていたという。入荷遅れの影響を受けて、この新たな仕組みが裏目に出た格好だ。

 1月25日時点で出荷遅延は解消されたものの、今回のトラブルに伴う注文キャンセル・お詫びポイント付与・商品廃棄などの直接的影響の他、リカバリー対応(商品アイテム制限・追加物流コスト)、プロモーション停止などにより、売上ベースで15億円、利益ベースで15〜20億円の影響が生じたと見られている。

 オイシックスはリカバリープランとして配送の拡充、配送の質の改善、生産性向上の3つを掲げている。配送の拡充については、新ステーションの生産性向上とサテライト等物流拠点の出荷数増により、2月中に完了する。

 配送の質の改善の改善については、今期中に制限していたアイテム数を拡張。生産性の向上については、2022年上期を目途に、新ステーションの生産性水準達成をめざす。上記対策によりトラブルによる業績影響は今期内に収束させ、そして来期はスケジュール通りの収益力強化をめざし、売上・利益ともに高い成長をめざす方針だ。

トラブル影響で通期業績を修正

 上記トラブル影響および直近の売上動向を踏まえ、オイシックスは2022年3月期通期業績予想を修正した。まず、売上高は1170億円と当初計画より80億円上方修正する。トラブルに伴う売上逸失を会員数増とARPUがカバーする見通しだ。

 一方で営業利益は35〜40億円と、当初計画より10〜15億円下方修正した。売上は増加するものの、トラブル対応に伴うコスト増が影響する格好だ。ただしトラブルによる業績影響は、リカバリープランの遂行により今期内にとどまる見通しを示している。

 オイシックスは、安全・高品質な食材によるサブスクリプション宅配という差別化されたビジネスを展開している。さらには「ビジネスを通じた社会的課題解決」を標榜する同グループはフードロス削減などにおいても革新的な取り組みを続けている。こうした企業姿勢が強固な顧客基盤につながっている部分も大きく、今回のトラブルによる離反は少ないと予測する。

 競合状況も、大地を守る会・らでぃっしゅぼーやの合併で、国内にプレミアム宅配事業においてライバルは見当たらない。統合後の企業カルチャーづくりもうまくいったようだ。一件順風満帆に思える経営環境だが、主力が国内事業なだけに人口減による会員数頭打ちの懸念からは逃れられない。加えて、欧米10か国あまりに事業展開するHelloFresh社の日本進出も気がかりだ。

 中期的には、さらなる成長を目指した経営戦略のブラッシュアップが求められるかもしれない。